村の日常


 ピーヒョロロローー


「ふぁぁぁぁぁーー」


 早朝、木漏れ日が入る部屋の中。ベッドで眠っていた赤毛の女の子が、鳥の鳴き声と共に目を覚ましました。

 女の子はまだ眠たいのか、目を擦りながら起き上がります。そこで、ふぁあとあくびを一つ。ぐーっと背を伸ばし、またしてもあくびをしながら、部屋を出ました。


「おかぁしゃーん。あさごはんなーにー?」


 あくびのせいか、発音があやふやな女の子。恥ずかしかったのか、少し顔を赤くしています。



 お母さんに、朝ごはんはスープとパン一つだと教えてもらった女の子。家の外にでて、近くの井戸に向かいます。


 パシャパシャパシャッ


 井戸で汲み上げた水で、顔を洗います。女の子の朝のルーティーン。これがないと、しっかりと目が覚めないのです。


「よいっしょ!」


 ぐっと、水の入った木製のバケツを2つ、持ち上げました。朝と夕の二回。井戸で汲んだ水を家の水瓶に運ぶのが、女の子の仕事です。やり始めたころは、ふらついてしまいこぼしていた女の子ですが、今はもう9歳。例え友達に後ろからわっ!っと驚かされても、もうこぼすことはありません。

 うんしょうんしょと運ぶ女の子。仕事をしないとお母さんにご飯をもらえないので、一生懸命頑張ります。


「ふー。終わった」


 往復二回。系4回の水を運んだあと、女の子は椅子に座ります。そしてそのまま、朝ごはんを待つのです。


 しばらくすると、美味しそうな匂いのスープが出来上がった様です。お母さんが器についだスープを、女の子は一個ずつみんなの席に運びました。


「「「「いただきます!!」」」」


 女の子の今の家族は四人。お父さん。お母さん。女の子。そして妹。朝ごはんは、みんなでいっしょに挨拶をして食べるのです。

 今日のスープにはなんと!お肉が入っていました。村の猟師さんが獲物を取ってきたのでしょう。いつもより豪華な食事に、女の子は舌鼓を打ちます。

 出稼ぎにでて、そのまま亡くなってしまった兄。彼も居れば、もおっと美味しかったんだろうな。なんてことも頭の片隅に、女の子は朝ごはんを美味しく食べ終えました。


 朝ごはんを食べたあとは、まだまだ幼い妹の手を引いて、小さい子が集まる託児所の様なところに預けに行きます。その後は、お父さんとお母さんの家事や仕事の手伝いです。


 まずは洗濯物を干します。女の子が、妹を送っていた間にお母さんが洗ったものです。女の子にとって、物干し竿はとても高い位置にあります。なので、うんしょと台座に登って作業をするのです。

 きつく絞られた服を広げて物干し竿にかける。それを繰り返します。

 お父さんの下着は、多少嫌な気持ちになりながら干しています。お父さんは娘にそんなことを思われているなんて知りません。可哀想ですね。


 洗濯物を干したあとは、お父さんのお手伝いです。女の子の家は農家なので、畑仕事です。作物の様子を見ているお父さんを尻目に、女の子は雑草をむしります。

 お父さんは根元までしっかりむしれと言いますが、女の子は知っています。そんなことをしなくても、雑草を生えて来なくさせられると。

 村の薬師さんが言っていました。薬草を採るときには、植物のせいちょーてん?の上からでなくちゃいけないと。そうすれば、また同じ場所から薬草が生えてくると。

 つまりです。雑草は生えて来なくさせたい。ならせいちょーてん?の下からむしれば良いのです。女の子はそう考えました。

 そして、その通り。女の子がむしった場所からは、雑草は生えて来なくなりました。女の子はお父さんにどや顔を披露し、お父さんは娘に苦笑を披露しました。


「あっ!ここにも!」


 草むしりを終えたあとは、お父さんと一緒に、害虫駆除の時間です。大切な作物についた虫を、一匹一匹目で確かめて取るのです。そうしないと、虫に食い荒らされて、作物が大変なことになってしまいます。

 昔、近くの街の紫髪の友達と話した時、友達は虫に触れないと言っていました。その事を思い出して、女の子は友達に出来ないことができることに、ちょっぴり得意げな気持ちになります。



 ぐぅっと、女の子のお腹が鳴りました。いつの間にか、もうお昼ごはんの時間です。女の子は急いで妹を迎えに行きました。

 妹を迎えに行くと、お昼の時間だからか、他にもお迎えに来ている子がいます。

 その中に一人、黒髪の男の子がいました。女の子が片思いをしている男の子、アレン君です。ポッと、女の子は顔を赤くしてしまいます。

 お腹はくぅとなっていますが、好きな子の前です。女の子はお腹が空いた素振りを全く見せません。


「あ、アレン君。今日もカッコいいね!」


 女の子はとても照れています。デレデレです。


「そう?ありがとう」


 にっこりとしたイケメンスマイルを浮かべるアレン君。お迎えに来ていた、村の他の女の子たちから黄色い悲鳴があがります。

 お年頃な女の子たちはアレン君にべったりですが、まだまだ幼い子供たちは違います。花よりだんご。イケメンよりもお昼ごはんなのです。

 結局女の子は、アレン君と少し話した後、妹の圧に耐えられずに家へと帰宅しました。

 帰宅する時に、アレン君から、アレン君が狩った獲物がみんなの家に配られていることを聞いた女の子の足取りは、とてもルンルンしたものでした。


「わぁ!」


 帰ってくるのが遅かったからか、ごはんからはもう湯気は上がっていません。それでも、女の子にとって、ワイルドボアという滅多に食べられないお肉は、目を輝かせるには十分なものでした。


「「いただきまーす!!!」」


 手を拭い、妹と一斉に席についた女の子は、大きな声で挨拶をしました。


 はぐっはぐっはぐっ!


 女の子と妹の咀嚼音が響きます。まだまだ暖かいワイルドボアの肉は、じゅわっとした油と、ずっしりとした触覚が絶妙な、とても美味しいものでした。

 さらに、これは幼馴染みで片思いをしているアレン君が狩った獲物なのです。そう考えれば、感動もひとしおというものでしょう。

 二人は、がつがつとお昼ごはんを食べました。


 食べたあとは、お父さんと一緒に行商人に今朝お父さんが収穫した野菜を売りに行きます。それが終わったあとは自由時間な為、妹も一緒です。

 カラカラと荷台を引くお父さんの後ろから、女の子と妹は荷台を押します。


 いつも通りなお父さんと行商人の会話。しかし、今日は少し違いました。なんと!普段よりも野菜の買い取り価格が高かったのです。

 女の子は目を見開いて喜びました。お金が増えれば、その分だけ生活が豊かになるからです。

 だけれど、話を聞いていると、どうやら買い取り価格が上がったのは良い理由ではない様子でした。どうしたんだろう?そう思った女の子はお父さんと行商人の話に耳を傾けます。


 そうしたらなんと!近々他国との戦争が始まるんだそうです。しかも、西にある中小国家のどれかとではなく、砂漠を挟んだ南の大国となんだとか。その国はこの国の議員さまたちのお墓を欲しがっているそうです。

 議員さまたちのお墓は、女の子は見たことがありませんが、近くの街の紫髪の友達いわく、とっっっっっっっても綺麗なお花畑なんだそうです。

 目を輝かせて話をしてくれた友達を思い出して、それなら他の国の人たちも欲しがっても仕方ないんじゃないかな?そう思う女の子でした。



 そのあとは村の広場で遊びます。

 女の子と妹が行くと、すでに村の他の子供たちが遊んでいます。その中にはアレン君の姿も。

 すかさず女の子はその輪に飛び込みます。好きな男の子との時間を無駄にはできません。そんなことをしてはしゅくじょ?の恥なのです。

 だるまさんが転んだに、鬼ごっこ。花いちもんめにケンケンパ。かくれんぼは森に入って行方不明になってしまった子がいるのでやりません。みんなで楽しく遊びました。



 しばらくして。気がついたら日が沈み出していました。女の子は汗で服がびしょびしょになっていることに気がつきます。これはしゅくじょ?としていけません。アレン君に嫌われてしまいます。時間も時間だったので、遊び疲れて眠そうに目をこする妹を連れて家に帰りました。


 この少しあと、女の子は夕方の水汲みを思い出して慌てることになります。


 急いで水汲みを終えて、晩御飯を食べる女の子。働いたあとのごはんはとても美味しいようです。


 食べ終わったあとは、布と、桶の水を使って体を拭きます。女の子はこれをめんどくさいと思っていますが、前に三週間程体を拭いていなかったところ、アレン君に臭いを指摘されてしまうという事件が起こりました。

 女の子は、その時愕然としたものです。アレン君に嫌われるだなんてあってはいけないことなのです。女の子は、それからはしゅくじょ?のたしなみとして、毎日体を拭くようになりました。

 なので、今日もごしごしと濡らした布で体を拭いていきます。冷たいですが、アレン君の冷たい視線よりは生ぬるい。女の子は余裕を持って体を拭き終わりました。


 あとは寝るだけです。布を重ねて作ったベッドの上に転がり、毛布を被ります。女の子は、こんな幸せな日々が続けばいいな。そう思いながら眠りに着きました。





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