オルジアの会議

 オルジア王国の王城、その会議室には今6人の人物と、一つのディスプレイが置かれて居た。


 円卓の会議室。その上座に当たる側には他の椅子よりも一際豪華な椅子が置かれている。そこに座るのは灰色の髪を持つ、碧眼の青年。他の6人よりも疲れた表情をする彼は、この国の国王にしてギルド【オルジア】のギルドマスター厚焼きプリンであった。


「御手洗とディアボロスは行方不明。デザイアは欠席か。ペテロ、俺はお前も来ないと思ってたんだが」


 厚焼きプリンは流し目で右斜め前の席に座る少女を見た。

 少女と言ってもその風貌は歴戦。眼光の鋭さと、額から斜めに走る傷痕は、彼女を見た目以上の年齢に感じさせた。


「私が来たら不都合とかあった?ねぇだろ。じゃあいいじゃん?」


「そういうことじゃなくてだな、、、はぁ、まあいいか。お前らを召集したのは他でもない。セプリプルプス共和国への侵攻について、その再審議の為だ」


 両手を組み、両肘を机につける。いわゆるゲン◯ウスタイルで、厚焼きプリンは宣告した。


「恒例通り、多数決で決める。この場に居ない者は全員無効票。俺の票は3票に値するとし、同票となれば俺を含む側の意見を優先する。シズク、異論は?」


「ひゃっ?はっ!ふぇっと、、、ない、、、です」


 額に2本の茶色い角を生やした金髪の少女。周りからは雷神などという異名で呼ばれる彼女は、厚焼きプリンの問いかけに力無く頷いた。


「はいはいはーい!ヾ(・ω・ヾ)質問!」


 1、2瞬の沈黙のあと声をあげたのはこれまた金髪の少女、六芒星だった。まぶしいくらいに輝く雷神とは違い落ち着いた色合いの髪を持つ彼女の頭には、何故かティアラの様に小型の城が乗せられていた。

 上半身を覆うようにして囲む宙に浮いた城壁は、彼女が手を上げると同時に、動きを阻害しないためか少し広がった。


「なんで3票?いつもだとギルマスの票の扱いって2票分だよね?」


「それだけ本気で止めに来ていると思ってくれればいい。シズク、投票前にもう一度聞いておく。お前の意志は固いんだな?」


「え?あっうん。、、、と、や、約束したから。約束、しちゃったから。ぜ、絶対にお花畑を見せるって。私の国の、お花畑を見せるって」


 目をぐるぐるとさせながら呟く雷神。その様子に厚焼きプリンは内心呆れていた。

 初めて宣戦布告したと聞いた時は、動揺により許可をしてしまったものの、厚焼きプリンからしてみれば約束した相手である友達に謝れば良いだけ。そう思ったからだ。

 いくら戦力があろうと、いくら重要な関係があろうと、厚焼きプリンには約束の為に戦争を起こしてまでセプリプルプスの花畑議員達の霊園を奪おうという感覚が分からなかった。


「そうか。じゃあしょうがないな」


 ボソリと呟いたあと、厚焼きプリンは一度息を整えた。


「これよりセプリプルプスへの侵攻について、多数決を開始する」


 結果は、


 反対4票

 どうでもいい(無効票含む)4票

 賛成4票


 となった。


「ふぇ!?ちょ、ちょと!?ペテロ反対なの!?てっきりどうでもいいに入れると思ったのに!!!」


 六芒星は、驚きのあまりガタリと立ち上がる。


「私は今は大人しくしときたいんだよ。まだ始まって1ヶ月だぞ?バカかってんだ戦争とか」


「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ!!!おのれぇ~!掲示板の影響かぁ!!!」


「さぁて。知らないな。で、私としてはヴィラン、お前が賛成に入れたのが驚きだったなぁ?お前、いつもデザイアと揃ってどうでもいいに入れてるだろ」


 ムッキー!と怒る六芒星を尻目に、ペテロは正面の男に尋ねた。


「恩義、だな。ギルマスである厚焼きプリンにも幾度となく世話にはなったが、それ以上に、雷神には戦力として幾度となく力になって貰った。今回はそれを返すだけだ」


 黒を基調とした軍服を身にまとい、これまた黒い軍帽を被った男。ハスキーボイスのイケメンは、まさしく鬼軍曹といった風体であった。


「だが、結果は結果だ」


 再び響く厚焼きプリンの声。同票である場合、ギルマス側が優先される。それを理解しているからこそ、雷神はびくりと震える。自身の願いが叶わなくなったと改めて理解して。


「シズク、今回は宣告布告を取り消す。それでいいな?」


「は、、、、、、、、、は、、、はi


 涙をポロポロとこぼし、雷神が返事をし欠けた時、ばーんと、扉が開いた。


「すいません。妹が絡んで参りまして、、、あら?もう始まって居ましたか。間に合っているのであれば私は『賛成』に投票したかったのですが、、、」


 全身『黒』。額に汗で髪を張り付かせた目だけが赤々と光る少女が入って来た。腕の他に6本の蜘蛛のような脚を生やし、更にはサソリの尾を持つ、まさしく異形と言える少女が。


「おおー!デザイア!おっそいよ!!」


 六芒星はぴょんぴょんと喜んでいる。


「ん~?厚焼きぃ。どうする?コレ。まだうちの雷神様は返事し終わってなかったろ」


 ニヤニヤと問いかけるペテロ同じ反対派に、厚焼きプリンは、、、


「、、、、、、はぁ、後始末、大変だぞ?」


 苦笑を浮かべ、侵攻を決定した。


「シズク、お前が指揮を取れ」


「ふぇ?わ、わた!?む、むむむむ」


「お前が始めた戦争だ。責任を取r


「すいません。厚焼きプリン様。私、久方ぶりに少々遊びたく思いまして。ですので軍の出撃はなくとも結構です」


 厚焼きプリンの言葉を遮り、デザイアが声をあげた。


「、、、マジで?」


「はい」


「、、、はぁ、じゃ、デザイアとシズクで好きにやれ。ついていきたい奴はついていけ。以上だ」


 心底疲れた。そんな表情を隠しもしない厚焼きプリンと対象的に、雷神は戦場に立たねばならない不安を帯びつつも、目標が達成間近となった喜びで笑みを浮かべていた。


 そうして、理不尽なまでの蹂躙が、幕を開けようとしていた。






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