第2話

「し、失礼しました。白いし滑るように宙を浮いていたのでてっきりおばけかと」


 薪割りに汗を流していた男性は申し訳なさそうに言いました。


「いえいえこちらこそすみませんでした。紛らわしくて」


 言われてみればわたしの恰好は全身真っ白の旅装束。髪も白いですからパッと見おばけに見えても仕方ないでしょう。おまけに魔力板マギボードでしたし。


「旅のお方ですか?」

「ええまあそんなところです。ところでこの村に泊れるところはありますか?」


 あまり言いたくはありませんが、どう見ても小さな村なので宿屋なんかは期待していません。

 空き家なんかがあれば、ちょっとだけお邪魔させてくれるだけでもいいのですが。


「宿屋などはありませんが、私の家に空き部屋があります。案内しましょう」

「いいのですか?」


 思わず聞き返してしまいました。

 見ず知らずの真っ白な怪しい旅人を自宅に招くだなんて、なかなかできることではありません。

 ですが男性は嬉しそうに笑いながら頷きました。


「ええもちろんです。家内も息子も喜ぶでしょう」

「そうですか、ではお言葉に甘えまして。ありがとうございます」


 わたしは美しく一礼して感謝の念を示します。

 いつもは一人ですから、たまには誰かがいる空間にお邪魔するのも悪くはありません。


「お客さんがやってくるなんていつぶりでしょうか……よかったら旅の話を聞かせてくれませんか?」

「ええ、よろこんで」


 わたしの話が家賃代わりになるのなら、いくらでも話しましょうとも。ネタはないですけど。

 男性の案内に従って歩いていくと、木造建築の一軒家に招かれました。


「帰ったぞ! お客さんを連れてきた!」

「おかえり父さん!」


 男性がよく通る声で呼びかけると、男の子が元気よくお出迎えしてくれました。

 なるほど父親似ですね。目元とか特に。

 そんな父親似の大きな瞳で見つめられてしまいました。

 君が言いたいことはわかります。「この人だれ?」でしょうバレバレですよ。それくらいはお姉さんにもわかっちゃうのです。

 もちろん父親である男性にも伝わったのか、わたしのことを簡単に紹介してくれました。


「この人は旅人さんだよ。森で迷子になっていたんだ」


 なってません。


「そうなんだ!」


 そうじゃねぇよ。おっと口が悪くなってしまいました。聞かなかったことにしてください、いいですね?


「母さんは?」

「起きてるよ。今日は調子いいみたい」


 ふむ? なんだかこの家庭、訳アリのにおいがぷんぷんしますね。

 嗅ぎ慣れたにおいです。


「どうぞ、遠慮せずに上がってください」

「では、失礼します。奥様にご挨拶をしても?」

「もちろんです。旅人さんを案内してさしあげなさい」

「はーい。こっちだよ!」


 子どもに案内された部屋には母親らしき﹅﹅﹅人物がいました。

 ベッドに横たわり、顔全体が包帯でぐるぐる巻きにされていて、わたしには誰だかよくわからなかったのでした。

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