第38話 イオの推理:怪しいのは――
翌日、子供たちの家出事件について、また議論の場が設けられた。
集まったのは昨日の面々、それに加えて聖女イオと三番隊隊員のライトがいる。どうしてイオまでいるのだろうか、とユイトは不思議に思いつつ、隣の席に座るライトに視線をやった。
ライトは可哀想なくらい緊張していた。
もっとも、この国の頂点である聖女、それに加えて七番隊隊長カイル、八番隊副隊長セッカ、そして三番隊副隊長コウキという、そうそうたるメンバーを目の前にしているのだから、その緊張は仕方ないのかもしれない。
どうして、己がこの場に呼ばれたのか分からず、ライトは脂汗を浮かべていた。
皆が見守る中、最初に口を開いたのはイオだった。
「カイル隊長から話は聞いた。私としても、今回の子供たちの件は単なる家出ではないと考えている」
どうやらイオはこの件を重く見ているらしい。
そういえば、前の世界線でもこういった事件に彼女は積極的に関わっていたと、ユイトは思い出した。イオの発言のおかげで、実際に事件が解決したこともあった。
聖女としての仕事だけでも体の負担がかなりあるはずなのに、守護者の業務まで把握し協力しようとする姿勢に、ユイトは頭が下がる思いだった。
――もしかして、前の世界線でもイオがこの事件を解決したのかな?
あいにく、逆行する前の世界では、ユイトが守護者に入隊したのは15歳のとき。今からおよそ一年半後だ。
それ故、ユイトはこの家出事件について何も知らなかった。未来の知識があれば事件解決に役立てられたのに――と惜しく思う。
――というか、以前の人身売買オークションの話も知らなかったなぁ。噂すら聞いたことがなかった。
せっかく逆行したのだから、未来の知識を活用させたいところだが、中々そういった場面と縁のないユイトだった。
さて、そんなユイトの考えをよそに、イオは話を続けた。
「さて。人身売買オークション事件に続き、また子供関連の事件が起こったわけだ。この二つに関連性があるかどうかは不明だが、今回の件についても≪≪奇石使い≫≫が関わっていると私は考えている」
皆の口から驚きの声が上がった。
人身売買の件では、影を操る奇石使いが関与していたが、また新たな人間が悪事に加担しているというのだろうか。
その場を代表して、カイルが問いかける。
「どうして奇石使いが関与していると思われるのですが?」
「そこにいるユイト隊員と、コウキ副隊長の妹の話を聞いて思ったのだが、二人は何者かに操られていたのではないか?操られて、自ら置手紙を書き、家を出ていこうとしたのでは?」
場の空気がにわかに緊張したものになる。
「つまり、洗脳されていたと?」
「ああ、その可能性が高い。そして奇石の中には、エニグマに精神的障害を引き起こすモノがあると確認されているはずだ。ならば、人間の精神に作用する奇石があってもおかしくはない」
「確かにそうですね。ユイト隊員、君はどう思う?」
カイルに尋ねられて、皆には聞こえないようにユイトはソウに話しかけた。
(どう思う?ボク、どうだった?)
【まぁ、確かに。操られていたという可能性もあるな】
それを聞いて、ユイトは頷いた。
「確かではありませんが、その可能性はあります」
結構、とイオは短く口にする。
「では、問題はいつ君と副隊長の妹が洗脳を受けたか、だ。セッカ副隊長から聞いたが、君たちはサーカスの見物に行ったそうだね?ユイト隊員と、コウキ副隊長、その妹…それから、そこのライト隊員で」
「はい、聖女様。その通りです」
「他の二人には何かおかしな所はなかったか?」
イオの質問に、コウキとライトは口々に答えた。
「いいえ。特に何も」
「俺もないッス――じゃなくて、ありませんデス」
ユイトとリコが洗脳された場所があのサーカスなら、同席していたコウキやライトも何かしらの影響を受けていてもおかしくない。
「コウキ副隊長に影響がないということは、
カイルがイオに意見を伺う。
「そう決めつけるのは早計だろう。相手がわざと子供を選んで洗脳した可能性もある。いずれにせよ、サーカスを調べる必要があるな」
「分かりました。家出した子供たちが例のサーカスに行ったかどうか、検察隊に確認をとります」
「ああ、頼む」
それで今回の会議は終了ということになった。
最後にイオが一言付け加える。
「この件については他言無用。それが君らの同僚であろうと、上司であろうとだ。これは聖女としての命令だ」
そう締めくくって、イオは会議室を出ていった。
会議から三日経ち――新たな情報がもたらされた。
家出をした子供たちは皆、姿を消す二週間前から前の日の間に、例のサーカスに客として訪れていることが判明したのである。
イオが睨んだ通りだった。
つまり、怪しむべきはサーカス。
そして、イオはユイトたちに『あること』を命じたのだった。
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