あやしいひかり
「おかしいです。ぜったいおかしいです」
ダンジョンに入ってから小一時間ほど。
ぼくと並んで舗装された道を歩くアリスちゃんは不満を露わにしていた。
「おかしいって、何が?」
ぼくが聞くと、アリスちゃんは不満そうに頬をぷくっと膨らませる。
喜怒哀楽睡。今日はアリスちゃんの色々な表情を楽しめているんだけど、唯一勿体ないのはこれを記録できる手段がないこと。この目に焼き付けて生涯覚えておけよ、ぼくのメモリー……!
とまあ、それはさておき。
「どうして、まものさんがでないんですかっ」
どうやら、これまでずっと魔物と戦闘するどころか……一匹たりとも遭遇していないことが不服だそう。
ううん、やっぱり気付かれちゃうか。
誤って身体を傷付けないよう鞘に入ったナイフを腰に提げ、最低限急所は守れるよう胸元には鉄製のプロテクター。ポケットから顔を覗かせる緑色の液体が入った小瓶がカチャカチャと音を立てている。
恰好だけ見れば立派な冒険者だ。しかしそこには圧倒的に足りないものがあって、最初ははしゃいでいたアリスちゃんも徐々にそれを理解してきたらしい。
「えほんとはちがいます。シャロさんはもっと……せまりくるまものさんを、ちぎってはなげ、ちぎってはなげ」
「ううん、『迷わずの森』は既に冒険者ギルドによって整備されきっているからね」
『この先魔物注意』なんて看板も……一応置いておかないと、何かあった時に冒険者ギルドの管理責任が問われるから置いてあるだけ。
出ても本当に弱いキノコおばけ程度で、そんなものは新米冒険者一行が嬉々として狩ってしまうので実際に魔物を目に出来る機会は少ないんだ。
もちろん他のダンジョンはこうもいかないんだけどね。だからこそ、ぼくがアリスちゃんを連れて来れたという訳なんだけども。
「まあ、今回は雰囲気だけでもね。大きくなったらまた来ようね」
「むー……。へいわなのはいいことです。シャロさんはへいわを愛してやまない勇者ですし」
「うんうん、アリスちゃんは聞き分けの良い良い子だね。ご褒美に踏んでくれてもいいよ!」
「それでよろこぶのは、ごしゅじんさまだけです! ……あれ?」
言いかけて、アリスちゃんは急に駆け出す。
「急に走ると危ないよ! 転んで怪我でもしたら一生傷口に寄り添って看病しちゃうかも。病める時も健やかなる時も共に――あ、でもそれいい……いやダメだよ! アリスちゃんの大切な身体に傷は」
「みてください、これ!」
「うん?」
アリスちゃんのあとに続いてみると、道を少し逸れた藪の中から木漏れ日に似た光が漏れているのが見える。
煌びやかに光り輝くそれはまるで、妖しくこちらを誘っているようにも感じられた。
「わたししってます! こういうの、おたからがあるんですっ」
さっきまでの少し退屈そうな雰囲気から一転、興奮した様子で藪を指すアリスちゃん。
「……よし、それじゃあちょっと見てみようか」
そんなアリスちゃんを連れて、最大限周囲に気を払いながら二人で藪を潜り抜ける。
そこまで気にしなくても大丈夫だと思うんだけどね。なぜなら、この先にあるのは――……。
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