音を失くした少年と声を失くした少女

 耳が聞こえない少年は、ある日可愛らしい少女と出会った。少女は明るくて元気いっぱいで、いつも少年の手を引き色んなところに連れ回した。少年の世界は音の無い映像を観ているような世界だ。だから音のない映像の中、少女が何かを言うように口を動かす姿を見て、喋れて羨ましいと思いながらも少年はその心を隠した。少年はこの世界を色鮮やかに見せてくれる少女のことを好きと思いながら、それと同時に申し訳なく思っていた。理由は少年が欠陥品聴覚障害だったから。毎日、周囲から突き刺さるような視線を受け、それはいつも近くにいる少女にも向けられた。だから自分と一緒にいるからと申し訳ないと思いながらも、ずっと一緒にいたいと言う我儘な気持ちを抱えながら、今日も少年は少女の隣で微笑んだ。



 声が出せない少女は、ある日儚げな少年と出会った。少年はいつも静かで元気がないから、元気づけようと、沢山色んなところに連れて行った。

 あれは少年と初めて出会った時のこと──

 少女は声を出すことはできないけど、それでも口を動かして少年に挨拶した。普通の人だったら「なんだこいつ、気持ち悪い」と言って離れていくが、少年は離れていかなかった。初めは優しい人なのだと思っていたが、過ごすうちに耳が聞こえないのだと知った。だけど少女は少年がどんな人だって良かった。自分と一緒に居てくれるなら誰でも……

 少女はいつも声は出せないけど、口を動かして何かを言う。だからか、周りから突き刺さるような視線を受けた。そして、悪口も言われる。それは一緒にいる少年にも向けられるため、申し訳ない気持ちでいた。だけど、少女は少年が耳が聞こえなくてよかったと思う。


 だって、悪口は君には届かない。


 そして、自分の気持ちも君には届かないから。

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