第1幕・Aim(エイム)の章〜②〜

 4月2日(日)

 

 三ヶ所を巡った神頼かみだのみの効果があったのか、あるいは、3月のWBC決勝戦で先発を務めて快投を見せたベイスターズの今永が、体調を考慮して登板しなかったためか、京セラドームでの開幕三連戦は、三連勝という、これ以上ない形で終えることができた。


【週末の試合結果】

 

 阪神 対 横浜 1回戦  阪神 6ー3 横浜

 

 初戦は、2回裏に3点を先制し、危なげない試合展開で勝利。

(8回に登板したケラーが連打を食らって、2点差になったときは、一瞬、前年の開幕戦のことが、頭をが……)


 阪神 対 横浜 2回戦  阪神 6xー5 横浜 (延長12回)


 二戦目は、初回に4点を先生されたものの、5回に同点として延長戦へ……。

 引き分け間際の12回裏二死走者なしから、糸原・小幡・坂本が、しぶとく粘って出塁し、最後は近本のサヨナラヒット!

 二死走者なしからでも得点を挙げる、今シーズンの打撃陣の粘り強さを象徴するような試合だった。


 阪神 対 横浜 1回戦  阪神 6ー2 横浜

 

 三戦目は、初戦と同じく序盤3回に3点を先制してリードを守りきる盤石の戦いぶり。

 7回に2点差に追い上げられたものの、8回裏に二死一塁から中野が盗塁を決めて二塁に到達した直後、カウント0ボール1ストライクから、代打として登場した原口がホームランを放ち、試合を決定づけたのが印象的だった。


 前年の開幕三連敗と今年の開幕三連勝――――――。

 

 わずか一年で、地獄と天国を味わえるのが、このチームを見守ることの醍醐味(?)でもある。

 ここで、2022年と2023年の先発メンバーを比較してみよう。


 2022年の開幕オーダー


 1番 中堅 近本

 2番 遊撃 中野

 3番 一塁 マルテ

 4番 右翼 佐藤輝

 5番 二塁 糸原

 6番 左翼 糸井

 7番 三塁 大山

 8番 捕手 梅野

 9番 投手 藤浪


 2023年の開幕オーダー


 1番 中堅 近本

 2番 二塁 中野

 3番 左翼 ノイジー

 4番 一塁 大山

 5番 三塁 佐藤輝

 6番 右翼 森下

 7番 捕手 梅野

 8番 遊撃 小幡

 9番 投手 青柳


 前年度は体調の問題で開幕投手を務めることができなかった青柳を含めて、若干のメンバー変更はあるものの、この三連戦に限っては、新戦力のノイジーや森下が試合を決める決定的な働きをしたわけではないので、個人的な印象としては、前年と今年で、戦力が大きく変わった印象はない。


 2021年に日本一に輝き、ほぼ同じメンバーで2022年の開幕を迎えたスワローズと、WBCの影響でフル・メンバーが揃わなかった今年のベイスターズを相手にした場合を単純に比較はできないかも知れないが、前年の悪夢のような三連戦を思い返すと、置かれた状況の差に困惑すら覚える。


 監督が代わるだけで、これほどの変化があるものだろうか――――――?


 勝てる試合展開をキッチリとものにできるだけでも、前年のチームとの違いを感じる。


 自分が、このチームを応援するようになったのは、2009年のシーズンからなので、その前のの2008年シーズン・オフに監督を退任していた岡田彰布監督について、阪神の指揮官としてのイメージは、ほとんど湧かなかった。


 自分の中での岡田監督の印象は、低迷していた頃のオリックス・バファローズを指揮していたことだが、この頃は、まだ小学生ということもあって、阪神以外のチームに目を向ける機会が少なかったので、どんなタイプの監督なのか、よくわかっていなかった。


 その後、中学生・高校生と成長するにしたがって、インターネット経由で野球の情報に触れるようになると、ネット上の野球ファンから、彼の独特の言語感覚が、『どん語』『どんコメ』(注1)と言う名前で愛されている(?)ことを知った。


 その『どんコメ』の概要を解説すると、下記のようになる。


(※新・なんJ用語集wiki『どんコメ』の項目より 以下、引用)


 岡田は複数の身内から指摘されるほどの主語や述語の省略癖があり、第一期阪神監督時代から特に顕著になった。岡田本人の持つ野球理論は卓越しており、解説でも的を射た着眼点を示すがその理論をアウトプットする際に「アレ」「それ」といった単語になってしまったり省略されたりする事が多い。

 そのため受け手側は主語述語を的確に埋める能力が求められる。そして常人には理解不能な発言を翻訳出来るようになった者は「どん語鑑定士」と呼ばれる。「デイリーちゃん」ことデイリースポーツ記者は、岡田の現役時代から付き合いがあるので翻訳精度は特に高いと評判。岡田の第1次阪神監督時代には赤星憲広が岡田の野球理論に感銘を受け、苦労の末にどん語をマスター、若手に通訳していたエピソードもある。


(引用ここまで)

 

 ・そらそうよ

 ・おかしなことやっとる

 ・おお、もう……

 ・これは大変なことやと思うよ

 ・コレは教育やろなあ


 など、5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)の某板を発信源としたこれらのフレーズは、ネット上の野球ファンにとって、すっかりおなじみの定型句のような扱いを受けている。


 2022年のシーズン・オフ、阪神の監督に再度就任した岡田は、言霊を重視した先代監督の矢野燿大と異なり『優勝』というワードを口にしないように秋季キャンプでは選手に徹底させた。

 

 また、無批判に、なんにでも乗っかる体質の関西のマス・メディアも、このフレーズで、翌年への期待を抱かせる報道をし始めた。

 その結果、選手やファンは『優勝』という言葉を避けて『アレ』と言うようになり、どん語はチームの内外で半ば共用語になりつつある。


 そして、その年の暮れのこと――――――。


 阪神タイガースは、2023年シーズンのチーム・スローガンを『A.R.E.(えーあーるいー)』とすることを発表した。


 このスローガンには、


 「個人・チームとして明確な目標(Aim!)に向かって、野球というスポーツや諸先輩方に対して敬いの気持ち(Respect)を持って取り組み、個々がさらにパワーアップ(Empower!)することで最高の結果を残していく」


という想いが込められているそうだが、その発表を聞いたときは、関西の悪ノリ体質にチームが染まっていることに、思わず苦笑してしまった。


 それでも、


(まあ、阪神らしいと言えば、阪神らしいか……)


と、納得しつつ、開幕三連戦の盤石な戦いぶりから、


(今年は、ホンマに『アレ』するのか!?)

 

と、かすかな期待を抱きながら、僕は京セラドームからの家路に着いた。

 

 ◎4月2日終了時点の阪神タイガースの成績


 勝敗:3勝0敗 貯金3

 順位:首位タイ


 注釈)

 

 注1:岡田監督が現役時代に出演していた、うどん出汁だしのテレビ・コマーシャル『どんでん』に由来する。

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