第8話 宝物(後編)

宝物 後編



町内最強選手権大会を勝ち抜くため、オレは修行を始めた。

……とは言っても実際何をすればいいのかはよく分からない。

いくら身体を鍛えたところで「能力」がものを言う世界。付け焼き刃のソレではどれだけ意味があるのか……。


しかし、やるしかないのだ。

とりあえずオレは走ることにした、毎日走り筋トレをし、身体の基礎的な部分をひたすら鍛えることにした。


「うおおおおおおおおおおおお」



今日は12月5日。あと2週間しかない。

とにかくオレはひたすら走った。

雨の日も風の日でもおかまいなしに走りまくった。

そして


12月12日


「うぅ、ああ……」

どさ

学校の屋上でオレは、砂漠で力尽きた人間のように倒れた。。


「ちょ、ちょっとどうしたの彼方くん」

そこへ現れたのは眠音ねむだった。


オレは事情を話した

「なるほどね…、でも、ちゃんと休まなきゃ駄目だよ。全然寝ていないでしょ?目のクマすごいよ」


「やすんでいる暇は……」

「もう…。彼方くん。身体はいじめているだけじゃあ成長しないんだよ?適度に眠る事も同じくらい大切。今からソレを私が証明してあげる」

そう言ったねむの手が青く光った。

これは、ねむの「睡眠魔法」…

「おやすみ…」


オレの意識は強制的にシャットダウンした


…………


「すまんな。ねむ。」

「ふふ。よく眠れたようでよかった」

「身体が風船みたいに軽々してる、今なら跳べそうな気すらする」

「でしよ?私の魔法は極上だからね」

「ああ、ありがとう」


「……でも。羨ましいな。彼方くんにそんなに想われてる。ゆきちゃんわ」

「……ん?なんか言ったか?」

「んん。もう少しお昼寝したいなーって思っただけだよ」


……


そして。

12月19日

町内会当日


「ここが町内最強選手権大会の会場か……」


大会とは行っても町内会場の隅っこにちょっとしたステージが用意されている程度の簡素なものである。


参加者は16人しかいなかった。

大会はトーナメント形式で行われる。4回勝てば優勝だ。


ルールはシンプルだ。相手がギブアップするか、場外になるかしたら勝利。

戦闘方法はなにをしても構わない、勿論「能力」を使ったも良いバトルロイヤル。


「行けるかもしれない…」

ノノベアーのぬいぐるみを手に入れる。

そしてあいつを、喜ばせてやるんだ。


……


1回戦


「よろしくお願いしますー!」


1回戦の相手は少年だった。


「よし!ついてる!」


「例えお兄さんが相手でも負けないよー!!そりゃああああああああああ」

少年は「加速」の能力をつかいちょこまかと、翻弄してくるが。

圧倒的の攻撃力が不足していてオレを倒すには至らなかった。


オレの周りを高速で走る少年。

しかし、走り回りすぎて目を回して閉まったのか。動きがとまってくらくらしている。


「う、うう……しまった…」


「悪いな少年。こっちも負けられねーんだ!」

オレはその瞬間を見逃さなかった。すかさず少年の腕を掴み投げ飛ばす。

「少年!コースアウトォ!!」

少年は場外となり、オレは勝利した。


……

2回戦

「へへっへっ!テメェもぶっ飛ばしてやるよォ!!」

2回戦の相手はチンピラ見てえな男だった。


「勝負開始ィィ!!」

試合が始まった瞬間。オレの目の前が爆ぜた

キイィィィ、ボォン!!

「なっ!?」

爆風で身体がうしろに飛ばされる。

オレはなんとか体制を建て直した。

「やっべぇ、いきなりコースアウトするとこだった…」

「へっへっ」

男はヘラヘラ笑っている

そして、再び次から次に爆発が襲う!

ドンっ!ドンッドン!!

「くっ」

「爆発」の能力。この闘いにおいてこれほどに厄介な相手はいないだろう。

「このままでは近づくことすら……!」

くっどうする?

オレはマネージャーの言葉を思い出す。

「能力は便利だけど「万能」ではないのよ」

そうだ、どんな能力でも穴はあるはずだ。

それを見極めるんだ。

……

何度か受けてわかったことがある。

爆発の能力は発動する際、その地点が一瞬光るんだ。


そしてもう1つ。あいつが連続で爆発できるのは、おそらく、3発が限界・・・。


奴は3発の後必ず、5秒のインターバルが発生している。

だが・・・。

俺はそこまで考えてから。もう一つのある可能性について気づき。

それを考慮したうえで作戦を練った。


よし!行くぞ


「へぇ!!」

ドンドンドン!!


オレは3発の爆発の地点を見極めなんとか交わしきった。

「よしっ今だ!」


オレは相手に向かい走る。


しかし…… 目の前に爆発の起点となる光が…


「へっ!かかったな?」


4発目の爆発


やはり今まで3発しか打ってこなかったのは、オレに3発までと思い込ませるためか!!


「やはり、きたか!」


オレは予め備えていた体制とともに即座に後ろへ飛んだ。


「へぁっ?!」

そう。オレは、最初から4発目の可能性を前提にしながら作戦を組んでいた。だから、間に合ったのだ。


「へぁっくそ!」

あいつは今、自身の爆発の煙で前が見えないはずだ。

ここが勝機!

相手が位置を帰る前に、オレは相手に向かって煙の中を走った。そして


「おらァ!!」

「へぶっ」

オレは相手を殴り飛ばす。煙のせいで距離を掴めない相手はオレに対応できずパンチをもろにくらった。


「コースアウトォ!!」


勝った。…いける、行けるぞコレ!!


続く3回戦も勝利し、オレはあっさりと決勝まで勝ち進んだ。


「決勝戦!S39(スザク)選手vs月城彼方選手ゥゥ!!」


決勝戦の相手は、190cmはあるかという大男だった。

全身を黒いスーツに包みサングラスを掛けている。いかにも屈強そうな男。


「な、なんだこの男は……、今までと違いすぎる」

「……よろしく」



「試合開始ィィィィ」


オレは、大男に何度も攻撃を仕掛けてみた。

しかし、どれも簡単に受け流される。


な、なんだこの男……、動きな全く無駄がねえ…。

攻撃の通るイメージがつかめない!


「それで終わりか?……今度はこちらから行くそ」


しゅんと、男が動いた。

早い!

目で追うことすら困難の速度で男は動きまわる。そのスピードは、さっき戦った「加速」を使う男の子よりも更にはやかった。

男はオレの目の前へきた、そして。


ボコッ


「ぐぉっ」


一撃。たった1発のパンち。しかしその1発が以上に重かった。


「ごホッ」


目の前がくらくらする…。

か、勝てない……、なんだ、こいつは。

なんでこんな奴がこんな大会にいるんだよ…。


なによりも恐ろしいのは。こいつは今までのヤツらと違い。「能力」を全く使ってねえってことだ。

能力も使わず、素でこの強さなのかよっ…、化けモンか?


男は再び高速移動をした。



こんなのかわせねぇ。

オレは考えるのをやめた。


ボコッ

「ぐぅっ」

オレの腹にめり込む腕。意識が飛びそうになる。しかし、オレはその腕必死でを掴んだ

「なんの真似だ」

オレは、なんとか男の頭に向かって自分の頭を下から上に上げ、男のかけていたサングラスを飛ばした

サングラスは場外になだた。

「小細工を無駄だ」

オレは蹴り飛ばされた。

再び男はオレにパンチを食らわす。

「くぅっ!!」

もう限界だ、これ以上これをうけたらもう…!


「もう十分だろう…、貴様は俺には勝てない。何故そこまでして頑張る」

と男がとう

俺は答える。

「そんなもん、決まってんだろ……。

あいつに。ゆきに、いつでも笑っていてほしいからっ!!」


その時、後ろから声が聞こえた。


「お兄ちゃーーーーーーーーー!!!!!頑張れーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


ゆき……。

そうだ。まだ諦める時じゃあない。


パンチして、男は動きが止まっている。

「今だった!」

「!?」

オレは、密かに握り締めていた砂を男の目に向かい投げた。

「くっ舐めた真似を…」

男が動きを封じられる中オレは男の背後に忍び寄る。そして


「くっどこだ」

と言う男に向かいオレは言った。

「後ろだ」

その瞬間、超スピードのパンチがオレに向かってくる。

だが、いくら並外れた能力でも。攻撃の場所が予めわかっていれば、交わすのは容易!!

オレは男のパンチをかわす。そして。


両手で男の両肩を掴み両足を背中に回し男の身体にしがみつく。

「貴様…!なにを」

「……へっ」


どれだけ鍛えていようと、何も無くては絶対に防ぐことの出来ない全人類共通の弱点。「頭」

ソイツの「頭」にオレは全精力を込めた頭突きをお見舞したっ。


「おおおおおおおおおおおおおおっ」


ゴンッ!!


!!!!!!!!



ドサッ


2人は同時に倒れた


……


「両者ダウウウウゥン!!!決勝戦、引き分けエエエエエエエエエエ!!」


わああああああああああああああああ!!!!


…………


……ちゃん、……お兄ちゃん!!!!


「う、ううん」

「お兄ちゃん!!大丈夫!!」

ゆきはオレを能力で「回復」していた

「あ、あぁ、なんともない。ゆきのおかげだ」

「もうっ、なんであんな無茶するの」

「……お前のためだよ」

そう言ってオレは大会のポスターを見せた

「これ、ノノベアーのぬいぐるみ……」


「あ、そうだ!勝敗はどうなった」

「相打ち、両者引き分けよ」

そこに長い黄金の髪を携えた見覚えのある女が洗われた。


「き、金城まお……?なんでここに」

「私がこの大会の主催だからよ」

(えええ)

「そしてこいつは、S39(スザク)、私のマネージャーってところかしら」

「……どうも」

「ま、マネージャーぁ!?」

……こいつ、金城まおのマネージャーだったんか…。

な、なんとなく納得……


……


結局、勝敗はジャンケンで決めることとなった。

「ジャーンけーん!!」

「ぽん!!」

S39はぐー、対してオレは、…ちょき。

……


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお負けたああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ」


ガクッとオレは項垂れた…


「お、お兄ちゃん…」

「すまん、ゆき……負けちまった」

「う、うん……、で、でも!」


ガンッ

オレは地面を叩く


あああくそっ!!買ってあいつを喜ばせてやるはずだったのにっ!!!!


そこへ金城まおがオレに話しかけてく


「月城彼方、景品よ。ノノベアーのぬいぐるみ。受け取りなさい」

「……へ」

オレはノノベアーのぬいぐるみをゲットした。


「な、なんで…」

オレはもう一度ポスターを見てみた。

「あっっっ」

よく見たら、優勝の景品は「旅行券のペアチケ」で「ノノベアー」は2位の景品だぁた!!!!


オレはノノベアーしか見えていなくてソレが優勝景品だと思い込んでたんだっ!!!!


「なんだよ……、へへっ」

「お、お兄ちゃん…?」



オレは、ノノをゆきに渡す。

「ほらよ」

「え…?」

「お前、ずっとコレ欲しがってたろ。ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントだ」

「お兄ちゃん…」


「この前は悪かったな…。小さい頃。お前をずっと守るって約束したのによ。」

「あ……」

「でも、まぁ。髪留めはなくなっちまったけどよ。それでもオレはいつでも、ゆきを守ってやるから。…それに、これからは、ノノも一緒だ。……だから、元気だしてくれよ」


「…お、お兄ちゃん…、うぅ、ひっく……ひっく……」

「おおい、泣くなよ……」

「だっ、だって。嬉しいんだもおん…!」


ゆきは、昔の泣き虫だったころのように泣きじゃくっった。

そしてオレも、小さい頃のように、ゆきの頭を撫でた。

「笑っていろ。ゆきは、それが1番可愛いんだから」

「う、うぅ……。……うん」

ゆきは泣き止んだ。

そして

「ありがとう、お兄ちゃん!」

ゆきは、笑顔を見せた。

いったい何日ぶりに見るのだろうという、ゆきの笑顔。

それはこの世界のどんなものよりも美しく輝いているのではないかと思われた。

…そして、オレは思った。

この笑顔を、この宝物を、いつまでも守り続けていきたいと。



……

彼方とゆきを遠目から、金城まおが眺めていた。

「月城彼方…、あのS39を相打ちにまで追い込むなんて…。やはり、私の見込みは間違っては…………。ふっ。ふふ…」

不敵な笑みを浮かべ、金城まおは去っていった。

……



数日後


「あったああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ」

リビングからゆきの叫び声


「んぁ、どうしたゆき…」

「あったよ!お兄ちゃん!あった!髪留めあった!!」

星型の髪留めを手に持ち、

ぴょんぴょん跳ねながらゆきは言った。


「え?あったのか?あんだけ探してもなかったってーのに。一体どこに?」

「ここだよ」

ゆきが指さした場所は、リビングの隅っこにある、なんてことない場所だった。

「ええ、こんなとこに?探したとおもったんだけどなあ」


こんなにひょんなとこから出てくるとはな。

…ま、捜し物なんてそんなもんか。


「よかったあああ。もう絶対無くさないからねっ」


なんにせよ

あいつが嬉しそうなのが1番だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る