第8話「デート」

 日曜日、私はドキドキしながら駅前へ向かった。

 昨日は雨が降っていたが、今日は晴れている。朝から少し蒸し暑い。夏に向かっているから当然か。

 私はチェック柄のシャツに、薄いベージュの膝下スカートに身を包んだ。ちょっと大人っぽいかなと思ったが、どうだろうか。ちょっとくらい背伸びをしたいのは私くらいの歳の子はみんなそうだろう。

 少し汗をかきながら駅前に着いた。まだ白石くんは来てないかな、キョロキョロと辺りを見回していると、


「――あ、若月」


 と、私を呼ぶ声がした。見ると白石くんがいた。先に来ていたのかな、私はおでこの汗を慌ててハンドタオルで拭いた。

 白石くんは白ベースに青のラインが入った襟付きのシャツに、紺のパンツをはいていた。見たことのない白石くんがそこにいた。


「あ、お、おはよう、待ってた?」

「おはよう、いや、今来たとこ。若月も?」

「う、うん、さっき着いたよ……って、な、なんか白石くん、いつもと違うね……」

「ああ、制服じゃないからな……若月も」

「う、うん、ちょっと頑張ってみた……って、は、恥ずかしいね……」

「あ、ああ、若月、可愛いよ」


 白石くんに『可愛い』と言われて、私は一気に顔が熱くなった。や、ヤバい、思った以上にドキドキする……私は汗を拭くフリをして顔を隠した。

 と、とりあえず気を取り直して、私たちはショッピングモールへ電車に乗って行くことにした。ここはそんなに遠くないので中学生でも行きやすい。

 最寄駅に着き、地下通路を通ってショッピングモールへ行く。チラッと白石くんを見ると、綺麗な横顔がそこにあった。や、ヤバい、またドキドキする……と思っていた私だった。

 

「あ、わ、ワンちゃんいるね、可愛いー!」

「若月は犬と猫ならどっちが好き?」

「うーん、どっちも好きだけど、選べって言われたら犬かなぁ。白石くんは?」

「俺も選べって言われたら犬かなぁ。あのチワワの子小さくて可愛いね」


 そっか、白石くんも犬が好きなのか、白石くんの知らない一面を見た気がして嬉しかった。

 ……嬉しかった? あ、あれ? どこか不思議な感じがする……まぁ、白石くんのことは学校での姿しか知らないから、知らないことがあってもおかしくないよね。白石くんも同じようなことを思っているのだろうか。

 そんな感じでショッピングモールを色々と見て回った。お昼になったので何か食べようかという話になり、フードエリアへ行く。日曜日ということで人は多かったが、なんとか座ることができた。


「若月、何か食べたいものある?」

「うーん、久しぶりにハンバーガー食べたいかも」

「そっか、俺もそうしようかな」


 二人ともハンバーガーを買って、食べることにした。ほんと久しぶりに食べるな、二年生になって部活で忙しかったから、遊びに行くことも少なかったもんな。

 ふと前を見ると、白石くんが嬉しそうにハンバーガーを食べていた。その姿を見てまたドキッとしてしまった。


「……ん? 俺の顔に何かついてる?」

「あ、い、いや、なんでもない……」


 なんか、嬉しそうだったのが嬉しかったというか……でも恥ずかしくて言えなかった。

 や、やだ私ったら、また顔が熱くなってきた……ハンバーガーは美味しいのだが、どうしても白石くんのことが気になってしまう私だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る