ロストメモリー 人間たらしめるもの
真塩セレーネ(魔法の書店L)
前編 ロスト・メモリー
読む前に一言。本書に真実は一切ありません、
『私は幸せ者だわ。ラッキーな人生、そうでしょ────』
『うん!』
後ろを見過ぎたら、つまずいちゃう。歩く道を見据えて前を向いて生きましょ────
飛行機雲が青空に白を描いて、清々しい。そんな中、会場では30人ほどパーティ服を着て集まっている。今日は30歳になった私の誕生日パーティー。
もうすぐ結婚も控えていて友人にも家族にも恵まれて幸せ。お父さんなんか『2段しかないけどシャンパンタワーをしよう』なんて言って、普段買わないお酒を開ける。
お母さんは『ちょっとやだ、恥ずかしいわよ』と言いながら嬉しそう。他の親戚も友人も食事を楽しんでくれている。
けど妹の
友人が有名人ばかりだから嫉妬なのかと思っている。明るい彼女の性格は好きだけど、時々奇妙な感じになる、線を引かれてるのかな……悲しい。
「香織さん、お誕生日おめでとう」
「香織ちゃんおめでとー」
そう近づく友人たちに持っていたシャンパンで乾杯する。
「ありがとう! みんなのおかげよ」
「そんな事ないわよ、香織ちゃんはみんなのスターよ? インスタで次あげる服どんなの」
三年前インスタで成功した私は、一躍人気者の仲間入りを果たした。そこから繋がりも出来てこの友人たちがいる。
「ヒミツ! 楽しみにしてて。ファッションショーするから!」
繋がりからモデルや世界的なアーティストまで友人になれた。苦労もしたけど今は仕事も恋も両立して充実してる。私は人に恵まれているわ。
「こんにちは」
「こんにちは~って、先生。どうされたんですか」
「その後の経過は……良さそうですね?」
彼は私が一度、交通事故した時に助けて頂いた先生だ。
「普通ですよ、歩けますし腕の怪我も分からないくらいに」
「それは良かった、何かあれば診察に来てくださいね」
「次、病院に行くのは妊娠の時だから、先生はお呼びじゃないよ~なんてね。ありがと先生」
先生と軽く挨拶を交わして別れ、また友人の輪に戻る。
結婚したらオリジナルブランドを立ち上げる予定、夢は大きく行かなくちゃ。人生一度きりなんだから。けど、こういう時に水を差す人がいて……
「お姉ちゃん、あのさ、この間のはやり過ぎじゃない? 海外の撮影……そこ観光地でしょ? 許可とか……」
「香音さん……大丈夫、許可は取ってるわ」
ほら、来た。いつも楽しい気分の時に来るのよね彼女。
「そう。けど、この間炎上して……」
「そんなの嫉妬して言ってる、どうせ性格ブサイクな人間でしょ。そんなのに構ってたら何も出来ないじゃない」
「それはそうだけど……その煽りはよくないよ……私は心配で」
心配してくれるのは有り難いけど……ここは落ち着いて説明しなきゃね。
「ネガティブすぎるのもどうかと思うわ、香音さん。行動力と結果が全てよ」
「正論だけど攻撃的だよそれ、もっと思いやりもって……」
彼女といると疲れるわ。どうして成功してるのに否定するのよ。不思議で仕方ない。
「お姉ちゃん……変わっちゃったんだね」
その話は苦手だ。私には25歳から前の記憶が無い。
交通事故で入院した際、過去の記憶が飛んじゃったみたい。最初は思い出そうと思ったけど辞めたわ。失った過去は取り戻せないわ。それより今が大切だって気づいたから……思い出は今から作ればいいの。
ずっと過去を探すより未来を歩みたい。それに家族も友人も優しいから、過去もきっと良い人生だったんじゃないかな。
病院で目覚めて横にいた心配そうな目をした家族、優しい友人に囲まれて嬉しかった。何故か今では、妹と元いた友人とは微妙に疎遠になっているけど。
性格が合わないというか……向こうが離れていくのよね。私は普通に話してるだけなのに。
仕事はインスタで手作り雑貨を販売してる。ファッションは流れでするようになった。事故前も趣味で雑貨作っていたみたいで、地味な色だったから色を一新してヒット。
副業が充実すると退職してフリーランスになり、有名人とお友達になってからは更に人気に。元々のファンは少し減ったけど気にしない。去るもの拒まずよ。
記憶を忘れているのが惜しいところだけど、この私が小さい頃から目立たないわけがない。お母さんとお父さんだって、あんまり覚えてないけど優しい。完璧な人生に、これ以上何を求めるのかしら?
香音さんは杞憂しすぎ。来てない未来を嘆くより、良い未来だと思っておいた方が得よ。
結果がダメでもその時落ち込めばいい、今から負の感情になって損よ。未来は分からないんだから。
私は今、有り余る幸せをお裾分けするために要望に答えて、ブランドを立ち上げる。悪い事してないわ。
「まあ、その話はやめましょ。ワインでもどう? はいこれ」
閃いたわ。香音さんにお酒をあげてネガティブを吹っ飛ばす作戦よ! きっと上手くいくわ、私は今までそうして生きてきたもの。
────お姉ちゃんは変わった。目の前で楽しそうにワインを注ぐ姉にそう思う。
事故して目覚めて絶望していた。元々ネガティブ思考だから落ち込んでいて。私が励ましてた。
そんな時、とあるお医者様がやってきて『ロスト・メモリー』を投薬しませんかと、持ちかけた。
それが始まり──
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