なぜ彼女はギャルなのか
まにゅあ
秘密のおもちゃ箱
第1話
部活動の音で溢れ返っている放課後。
僕――
「ニャーゴか」
前方から軽やかに階段を下りてきたのは、野良猫のニャーゴだ。この辺りを住処にしているのか、しばしばこうして校内で姿を見かける。吸い込まれるような美しい瞳をした黒猫で、額に一円玉ほどの大きさのハゲがある。
「そんなもの、どこで拾ってきたんだ」
ニャーゴの口には、きらきら黄色く光るスーパーボールが咥えられていた。
ここは私立
ニャーゴは「渡さないぞ」とでも言うように、小さく低い声を出すと、スーパーボールを咥えたまま階下へと走り去っていった。
「いつになったら好いてくれるんだ……」
ニャーゴは、学校公認の野良猫で、教職員や生徒たちから愛されている。彼(彼女?)が廊下の真ん中を我が物顔で歩いていたり、授業中の教室に侵入して教卓で昼寝を決め込んだりしても、誰も文句は言わない。むしろ先生や生徒たちは顔を綻ばせるほどだ。
ニャーゴは、桐坂高校のアイドルなのである。
本来、彼は人懐っこい性格をしている。事実、彼が他の生徒や先生たちに甘えている姿を何度も見かけたことがある。
しかし、どういうわけか僕にはいつまで経っても懐いてくれない。
高校に入学してからの三か月、校内で彼を見かけるたびに人目を憚らずアプローチしてきたが、いつもそっぽを向かれてばかりである。
僕は肩をすくめてから再び階段を上り始めた。
目指すは三階にある一年三組の教室だ。一年三組は僕の属するクラスだった。
部活動に入っていない僕が、どうして放課後の遅い時間帯に学校にいるのか。
いつもであれば、そろそろ学校の宿題を終えて、家でのんびり小説でも読んでいる頃である。
しかし今日は、運悪く明日が提出期限の問題集を学校に置き忘れてしまったのだ。
宿題をサボることも考えたが、厳しい先生の課題だということもあって、渋々学校へ戻ることにした。宿題を忘れて長々と説教されるのは御免だ。
階段を上り終えて、三階の廊下を歩く。放課後の教室棟は人の気配が希薄だ。教室棟に入ってから、人一人見かけていない。出会ったのは猫一匹だけである。文化部の生徒たちは実習棟のほうで活動しているのだろう。
僕は一年三組の教室の扉を開けた。教卓が近い前のほうの扉だ。扉はガラガラガラッと品のない音を立てた。教室に人がいるとは思っていなかった。もし人がいると分かっていたら、遠慮してもう少しゆっくりと扉を開けていただろう。
一年三組の教室には、生徒が一人残っていた。
クラスメイトの
扉を開けた僕は、その場で固まった。目の前の光景が信じられなかったのだ。
舞川が、――床で四つん這いになっていた。
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