§11 この惑星のインテリ事情を調査しました。 main routine ラスティ

第348話 されどシャバに出られず。




 査問会で無罪を勝ちとっても自由の身にはなれなかった。


 いまは王城内限定で拘束中だ。いわゆる幽閉というやつに近い。


 俺にかけられた嫌疑が晴れたのに、なぜこのような扱いを受けねばならないのだろうか。

 その答えを妻たちから聞き出そう。


「なんで王城の外に出られないんだ?」


「「「「気のせいです」」」」


 答えてくれた妻たちはにこやかな顔をしていたが、俺は知っている。全員が怒りマックスだ。


 王女姉妹は微笑みながら魔力を暴走させて髪を逆立てている。その二人を皮切りに、マリンは手持ち無沙汰にクルミを指で割り、ホエルンは目に見えぬ速さで鞭をパシンパシン鳴らしている。まともに思えたカナベル元帥ですら、バツ印だらけの地図にうっとりだ。


 とりあえず地図にあるバツ印の意味を尋ねる。

「シエラ、さっきから地図ばっかり見てるけど。そのバツ印はなんだ?」


「王都をしていました。その報告結果をまとめたものですよ」

 言ってから、ふふふっと昏く嗤う。


 軍人の彼女のことだ。道の清掃やドブさらいなんてことはしないだろう。血生臭い掃除しか連想できない……。


「そ、そうか。大変だったな」


「大変だなんて、とんでもない。旦那様を殺そうとした輩です。いつも以上に情報を精査して奴らの拠点を灰に変えました。ですが油断は禁物。現在は、囮を何人か放って残党のあぶり出し作業をしています。頑固な汚れとGは根絶やしにせねばいけませんから」


 褒めてくださいとばかりに距離を詰めてきて、ここぞとばかりに胸を擦りつけてくる。


 あのクールで真面目なイケメン元帥はどこへ行った!


 硬直していると、上目遣いで瞼をとじて、

「ご褒美ならこちらへ、熱い接吻ベーゼを期待しています」


 妻たちの手前、どうするべきか悩んでいると、シエラの肩に手がかかる。鬼教官の手だ。


 シエラを俺から引き離すと、今度はホエルンの唇が迫ってきた。

 妙齢の女性の魅力的なそれが、艶めかしく動く。それも近い!


「抜け駆けは駄目よカナベル元帥。ご褒美をもらうなら私が先。だって奴らが自決する前に、手とか足とか舌とか……もろもろ全部弾き飛ばして完全に無力化しんだから。おかげで拷問にこぎ着けられたわけ。ねっ、私が一番でしょう」


 顔にかかる湿った呼気は、柑橘系の爽やかな香り。これにタバコの臭いが混じっていなければ、接吻もありだっただろう。恋愛に関して最強でないところがホエルンらしい。


 逃げようと一歩下がる。何かがぶつかった。


 振り返ろうと右を向いたら、ティーレがあらわれる。瞼を閉じてさり気なくキスを強請ねだる顔。罠だッ!


 慌てて反対を向こうとしたら、そこにはカーラがいた。こちらもキスを強請る顔だ!


 二段構えの巧妙な罠ッ! 姉妹の息の合った連係攻撃に落とされそうになる。


 すんでのところで回避して、背後のそれを確かめる。

 マリンだった。


 背丈が低い不利をかばうように、後ろからズボンのベルトをカチャカチャやっている。


「マリン……質問して良いか」


「なんでしょう、ラスティ様」


「何をしようとしているんだ」


「〝おせっせ〟です」


「…………」


 幼い妻の言葉を皮切りに、妻たちは獣になった。

 俺を取り囲み、衣服に手をかけてくる。次の瞬間――――。


 ビリィィィィーーーー!


 飢えた妻たちが、俺の衣服を引き裂いた。


 まるでエレナ事務官の好きなゾンビ映画を見ているようだ。命の危険を感じる。


「待て、みんな。とりあえず落ち着こう。なっ、ここは冷静に話しあおう。〝にゃんにゃん〟のシフトもあるだろう?」


「と、旦那様は言っていますがどうしましょうか?」


「愚問ね。ここまで来て引き下がるなんてできないわ。、パパもきっとそれを望んでいるはず」


 間違った古代地球の格言を口にして、フンスと鼻を鳴らすホエルン。炯々と光る双眸から、恐ろしいまでのやる気がうかがえる。


「ちょ、それはちがう。勝手に決めつけないでくれ!」


 否定するも軍人二人は聞く耳を持たない。こういうときこそ、王女様の威厳と品格を! そう思い姉妹へ目を向けた。


「諦めてください、あなた様。投獄中の十日間、それはもう私たちは不便を強いられました」


「うむ、オレも我慢の限界だ。今日は無礼講。おまえ様の無罪を祝して、盛大に


「だったら、手助けしてくれたみんなも招待して…………」


 一匹の魔獣によって言葉がさえぎられた。

 その魔獣が、俺の聖域が荒らしている。ギョッとして下半身に目を向けると、そこには幼な妻がいた。


「……はむ、あむ、ちゅるッ!」


「ちょっ! 何してるのマリンッ! ペッしなさい、ペッ!」


「れるッ、ちゅるッ…………嫌ですぅ! 私が一番乗りですぅ~」


「マリン狡いぞッ! 一番はオレだッ!」


「いいえ、私が一番ですッ!」


「ちがうでしょう! ここは活躍した私がパパの一番を……」


「私は最後でもいいです。その代わりたっぷり可愛がってもらいますから」


「ん~~~、んん~~ッ!」

 諦めの悪いマリンを引っ剥がすと、十日間貯め込んだ情欲が迸った。



◇◇◇



 妻五人と死闘を繰り広げ、俺は自身の掲げる平等に愛するというノルマを達成した。

 一家の大黒柱として一応の体面は守れたのだ。悔いは無い。

 しかし、失ったものは多く、安眠する間もなく緊急を告げるアラームが脳内に鳴り響く。


――ラスティ、大変です!――


【…………】


――回復不可能な疲労が蓄積されつつあります――


 こんな報告は初めてだ。詳細を尋ねる。


【どうすればいい】


――速やかにミネラルの補給を!――


 ぐったりとした頭で考える。

【明日でもいいか】


――…………かまいませんが、夜までに回復はできませんよ――


 明日の夜は……ホエルンか。ちょろい相手だし、ミネラル補給を急がなくてもいいか。

 例の如く相棒にミュートをかまして、寝た。


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