§3 この惑星のインフラ事情を調査しました。 main routine ラスティ
第53話 開拓準備●
この惑星に降りたって、三ヶ月。
ティーレとの結婚はまだ正式に認めてもらっていない。一般人のそれとちがって、王族の一員になるには特別な手順を踏まないといけないらしい。
結婚とはちがう、
ベルーガの王族は魂の結びつきを重要視するらしく、
一般的なそれと間違わないよう婚姻と言っている。
まあ、宇宙の帝族も血の繋がりがどうのこうの、言っているし、似たようなもんだろう。
どの世界にもかかわらず、お偉いさんは面倒だ。
王族になるよりも先に貴族の一員に名を連ねたのだが、治めるべき領地もなく守るべき領民もいない。
そんなわけで、まずは領地開拓から手をつけることにした。
開拓作業をするにあたって必要なものをピックアップする。まずは領地を確保するために森も切り開かねばならない。となると必要になってくるのは人と荷車。彼らの寝泊まりする場所も建てる必要があるので資材もだ。
資材は腹黒元帥からもらえるので無料だが、人件費はかかる。魔物を駆逐する兵隊と防壁をつくる職人だ。兵士と防壁は魔物から領民を守るために必要不可欠。
これから街を造るのだ、それなりに数を揃えなければ。
それ以外の細々したものも準備しないといけない。工具や食糧、衛生設備など数え上げると切りがない。
とりあえず工業ギルドへ足を運ぶ。
「ラスティさん、お久しぶりです」
ギルドの受付嬢が笑顔で歓迎してくれた。あまりにも明るくて爽やかなスマイルだったので、てっきり営業用かと思っていたら、
「特許契約を結んだ足踏み式シリーズ、絶好調で売れています。配当金が小金貨一枚ほど貯まっています、いかがいたしましょうか? それとも新たな発明品の持ち込みですか!」
なるほど、笑顔なわけだ。俺の開発した商品が予想よりも売れているらしい。
歓迎はありがたいが、今日は新商品を売りつけに来たのではなく人材を探しにやってきた。まずはそちらの交渉を進めよう。
「配当金はあとにします。それよりも今日は相談したことがありまして」
「なんでしょう、私で良ければお聞きしますが」
事情を説明したら、
「かしこまりました。手の空いている職人がいるか問い合わせてみます。のちほどスレイド工房に一覧を届けさせますのでお時間をいただけますか。そうですね、明後日には届けられると思います」
と前向きな返事をくれた。
なんとも素晴らしい出だしだ。俺は受付嬢を信じて職人のことを任せた。
その足で、今度は冒険者ギルドへ向かった。
護衛を雇いたいと受付嬢に伝えると、別室に案内された。
出された紅茶を飲んでいると、整った口髭が印象的なナイスミドル――ギルドマスターがやってきた。
「久しぶりだね。ラスティ君、初めて見たときから只者ではないと思っていたが、まさか貴族になるとはね。世の中、わからいないものだ」
「それもこれも仲間のおかげです。仲間だけでなく、たくさんの人に助けてもらいました」
「
「ありがとうございます。それでギルドマスター、護衛依頼だけでなくて……」
「堅苦しい呼び方はよしてくれ、ブランでいい。護衛依頼だけでないとすると……大呪界の地図か」
ブランって名前なんだ。冒険者ギルドに登録しておいてなんだが、ギルドマスターの名前を知らなかった。案外、俺も常識はずれなのかも。
それにしても優秀なギルドマスターだ。こちらの目的をズバリ言い当てるなんて。
ブランの推測通り、俺は大呪界の地理について尋ねようとしていた。しかし、ブランの思惑と俺の考えは行き着く先はちがう。
地図は不要だ。事前にドローンで調査して精密地図をつくってある。大体の情報は仕入れているので、これ以上しらべる必要はない。しかし、事前に開拓予定地をギルドに提示することによって、冒険者へより詳しい情報が伝わるだろう。要するに冒険者をフルイにかけるのだ。
開拓事業には多くの人が
実力のある冒険者が必要な事業だ。そのために多少の出費は覚悟している。もちろん、それなりの人数を雇うつもりだ。それゆえ問題が起こるかもしれない。人数が多いがゆえに、一人くらいはと怠ける者や、報酬に釣られ応募してくる役立たずは雇いたくない。
要するに、新米の俺が舐められる可能性があるということだ。
俺がランクを上げればはやい話なのだが、現実的ではない。冒険者の命がかかっているだけに、ギルドのランク査定は厳しい。いくら俺が成果を出しても、すぐにはランクは上がらないだろう。組織とはそういうものだ。
俺も連合宇宙軍では早期出世で地獄を見てきたクチなので、時間をかけて地道にランクをあげるほうが好ましいことくらい知っている。
しかし、いまは時間が惜しい。なのでギルドを頼ることにしたのだ。
「街を造る候補地だが、私のお勧めはここだ。昔、魔物に大きな被害を受けて廃村に場所がある。開けた土地だ。野営にもつかえるし、木を切り倒して整地する必要もない。井戸もあるって、歩いてすぐのところに泉がある。その次が、廃村の奥にある開けた場所だ。軍が宿営地につかっていたので、こちらも木を切り倒す必要がない。最後は湖周辺だな」
ブランは優秀なギルドマスターだった。驚いたことに、この惑星では情報機密に該当する正確な地図を見せてくれた。それだけでなく、開拓に時間がかかるのを見越して、水源や労力の少ない場所を提示してくれた。生息する魔物の少ない比較的安全な場所だ。
ありがたい提案だが、俺の求めている場所ではない。ほしいのは地下資源のある土地だ。
大呪界は森林資源が豊富だ。言い替えると容易く手に入る森林資源の価値は低い。経済面で考えると、競合相手はガンダラクシャになるので人口の少ない俺の街では生産性で負ける。だから特産品が必要なのだ。ガンダラクシャにはない特産品が。
そこで思いついたのが地下資源。ガンダラクシャ周辺はすでに掘り尽くされており、鉱物資源が不足している。そこへ売り込むのだ。距離も近く運搬コストも抑えられる。需要があるから高値で売れる。儲けは多い。
そういった諸々のことを考えて探したのがここだ。
「魔物は多いですが、ガンダラクシャの北西を考えています」
「ラスティ君、正気かね!」
「はい、新たな街道も造りますので、問題はないと思います」
「私が言いたいのはそうではくて……。君は知らないだろうが、北西は凶暴な魔物が多い。騎士団でも連れていかないと開発なんて無理だ」
「それだけの価値はあると思います」
「なぜだね。そこまでの危険を冒す価値が、本当にあるのか」
俺は地図の上に指を滑らし、本当の狙いを教えた。
その意図に気づいたブランは、額に手をあて目を見開く。
「信じられない! 前衛的にもほどがある!」
「理解して頂けましたか?」
俺の言葉などもう耳に入っていないようだ。ブランはしきりに頷きながら、
「なるほど、だから辺境伯なのか……合点がいった」
開拓事業の重要性を理解してくれたようで助かる。この調子なら、頭数だけの実力の伴わない冒険者は弾かれるだろう。
やるべきことはやった、あとは人員を選別して大呪界の森へ行くだけだ。
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