第11話 フェアリーテイルと打合せ

 大変盛り上がった柚子缶と妖精譚フェアリーテイルとの顔合わせは、そのまま二次会のカラオケに突入する。


 カンナもユズキも人前で歌うのは得意ではないのだがお姉さん方は「私達が勝手に歌うから2人は雰囲気を楽しんでくれれば良いよ」と言ってくれたので安心して同行できた。


 イヨの隣に座ったカンナは、先ほどから気になっていた事を訊ねる。


「あの、私の高校が分かったのってどこからですかね? そういうのちゃんと気を付けてたつもりだったので気になって……」


「ああ、多分大半の人は気付かないと思いますけどね。まずカンナちゃん、ソロ時代に平日もせっせと配信してたじゃないですか。柚子缶になってしばらくしてからアーカイブ消してましたけど私は消す前に一通りダウンロードしてあるんですよ」


「マジですか」

 

「はい。いつか切り抜き作ろうと思ってたんで。それで、ほぼ毎日渋谷ダンジョンで配信してたって事はまあ渋谷から片道30分以内の高校かなってまず大分絞れてます。あとはたまに配信してない日って多分テスト期間とか、土日だと模試とかだったと思うんですけど、それらの日程からさらに対象を絞れるわけです。だから柚子缶としてのトークから推測云々の前に、5校くらいまで絞れてます。それで極め付けが先月の配信のお休みで、絞り込んだ5校であの日2年生が参加必須の学校行事があったのはカンナちゃんの高校だけでした。修学旅行ですよね?」


「……すごい! 全部あたってます……!」


 感心して手を叩くカンナ。イヨは得意気に笑う。


「本気でファンやってるとこうやって特定も出来るって事ですので、気を付けてくださいね。ホントは妖精譚ウチみたいに編集した動画を公開するスタイルの方が安全なんですけどそれはやらないんですか? 動画もメリハリつくから視聴者も増えると思いますよ」


「うーん、動画編集って結構大変そうで……」


「お金貰えるなら私がやりましょうか?」


「ええっ!?」


「こら、高原。調子に乗らない。今でさえウチの仕事ほっぽって柚子缶の切り抜きに力入れてるんだから」


「フユちゃん先輩! いやいやお給料分はしっかり働いてるじゃないですか!」


「そこにプラスで柚子缶の動画編集まで、できるの?」


「い、1日の睡眠を1時間にすれば、なんとか」


「却下。ほら、高原の順番だよ」


 そう言ってイヨにマイクを渡すマフユ。立ち上がってステージに移動したイヨと入れ違いでカンナの隣に座った。


「あいつが調子に乗っててごめんね」


「いえ、大丈夫です!」


「カンナちゃん、高校生でしょ? 学校と探索者の両立出来てて偉いね」


「ありがとうございます。でも、事務的な事とかはユズキが殆どやってくれてるので……私も出来るようになりたいとは思ってるんですけどね。だからイヨさんの話は為になります」


「うん。あんなヤツだけど、事務仕事と動画編集の腕は確かなんだよね。……あんなヤツだけど」


 アニソンを全力で歌うイヨを指して笑うマフユ。カンナもつられて笑ってしまった。


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「さて、ユズキちゃん、どうかな?」


 ハルヒがユズキに問いかける。これは先日打診したコラボについてだ。


「はい、喜んで。ここに来る途中でカンナとも話したけど、是非一緒にやってみたいって事で意見も一致してます」


「そっかー、良かった! 2人みたいに若くてかわいい子と絡むの、実はみんな緊張してたんだよね」


「そうなんですか?」


「うん。だってうちらってもうアラサーだし」


「全然若く見えますよ」


「ふふ、ありがとね。ああナツキ、柚子缶コラボOKだって」


「ホント!? やったぁ!」


 嬉しそうに笑うハルヒとナツキ。


「じゃあ今度一度ダンジョンで合わせやって、そこで何が出来るか確認してから改めてコラボで何狩るか打ち合わせようか」


「そうですね。妖精譚さんのスキルって聞いたことないの多いから、すごく楽しみです」


「ユズキちゃんのそれセリフ、そっくりそのまま返すわ。動画見る限り明らかにぶっ壊れてるからなぁ。2人ともユニークでしょ? うちらのは汎用だもん」


「上手く組み合わせですごいの狩れれば嬉しいよね」


 そう言って笑うハルヒとナツキ。ユズキも「そうですね」と笑って返した。


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 翌週、渋谷ダンジョン一層いつもの訓練場所に集まった一向はお互いのスキルや技を披露する。


 ハルヒの『上級剣術』は『剣術』を使い続ける事で稀に起こるスキル進化によるもので、通常の剣術スキルの効果、「剣の扱いが上手くなる」に加えて、魔力を込めた斬撃を飛ばす事ができる。カンナの『広域化』による不可視の剣と似ているが、ベースに『剣術』スキルの効果があるため威力は段違いであった。


 ナツキの『二刀流』は文字通り武器を両手に一本ずつ持てると言うもので、二刀流状態だと攻撃力が上がる……具体的には一刀流の時の倍ほどの威力になる。また剣が一本しかなくてもとりあえず左手にそのあたりの棒切れをでも何でも持って、それをナツキが「武器」として認識すれば効果が発動する。さらに二刀流時は疲れにくくなるという効果もある。


 アキの『鑑定』はその名の通り、見たものを鑑定できる。対象はダンジョンに由来したものに限り、周りの人の個人情報がなんでも分かるというものではない。ダンジョン産のアイテムであれば効果が分かり、モンスターをみるとおおよその強さが分かる。さらにスキルを発動している人を見ると「何のスキルが発動しているか」と「そのスキルの効果」が分かる。


 マフユの『氷魔法』はその名の通り氷属性の魔法を使える。何もないところから氷を産み出す事もできるし、水を凍らせたり逆に氷を瞬時に溶かしたりもできる。


 イヨの『毒耐性』は、ダンジョン由来の毒は全てシャットアウトする。残念ながらそれ以外の毒は防げないので、フグや毒キノコを美味しく頂くという事は出来ない。


「みなさんのスキルも全然強いじゃないですか」


「いやいや、『広域化』のぶっ壊れっぷりに比べたらと思うわよ」


 とりあえず全員のスキルを『広域化』と合わせたところ、『鑑定』以外は広域化する事ができた。『上級剣術』を広域化してナツキにも適用すれば、二刀流で斬撃を飛ばす事ができたし、『二刀流』をハルヒに適用しても同じ事がまた出来た。


 マフユの『氷魔法』を他の人間が使うことは出来なかったが、広域化を適用した状態で魔法を使う事で、その効果範囲が大幅に広がった。


 イヨの『毒耐性』も試しに広域化したところ、その場の全員が毒に耐性を持ったとアキが『鑑定』してくれた。


「どのスキルの広域化も凄いけど、やっぱりユズキちゃんの『一点集中』した『身体強化』を『広域化』するのが一番壊れてるわねー」


「私達にまで効果を広げられるとか凄すぎる……けど、身体が強化されすぎてまともに動けなくなっちゃった」


「軽く踏み出すだけで意図せず大ジャンプしちゃうし、走ろうとすると意識より身体が先に動くからすっ転ぶわで……2人とも、よくこんな状態で探索できてるわね」


「私達も最初はそうでしたよ。慣れるまで数ヶ月は訓練しました」


「コツとかがあるわけじゃないんですよね。ただただ慣れって感じで、少しずつ違和感が無くなってきた感じでした」


「へぇ……何ヶ月もかかるとなると、ひとまずコラボでは見送りかなぁ」


「それ以外だと何気にイヨちゃんのスキルの広域化が有りな気がしたね。毒ガスが充満しているダンジョンとか、市販のガスマスクだと不安だけど全員に毒耐性を広げられればそういう場所が攻略可能になってこれまで先駆者がいないダンジョンを攻略できる」


「私のハズレスキルに意味が生まれたっ……!」


 イヨが嬉し涙を流した。


「ユズキちゃんの『一点集中』は広域化出来ないんだね」


「これってどっちかって言うと自動的に発動しちゃう感じのスキルなんですよね。『身体強化』もカンナが広げてくれないと身体の一部しか強化出来ないし、『障壁』も勝手に10円玉のサイズになっちゃうし」


「そうなんですか? 前のパーティ時代の動画を見る限り任意の場所を強化してましたけど……」


「イヨさん、そこまでチェックしてるんですか?」


「へ? まあ、あはは……」


「この子、ホント好きなことはストーカーレベルで調べ尽くすから」


「こだわり派なんですよ!」


「……良し、大体わかったかな。あとは今日の結果を踏まえてお互いの良いところを伸ばしつつ、コラボで何をするか考えよう」


「この後どうする? 協会の会議室借りる?」


「いや、今すぐ行っても意見まとまらないでしょ。……柚子缶と妖精譚でそれぞれプランをいくつか練って、それをお互いに見せ合って具体的な形にしていくって流れでどうかな?」


「はい、それがいいと思います。皆さんのスキルと、私達のスキルをどう活かしていくかって一度持ち帰って検討したいですし。……カンナもそれで良い?」


「うん。今だとイヨさんの毒耐性で毒が怖いダンジョンを攻略するくらいしか思いつかないけど、時間をかけて考えたらもっと色々思いつくかも知れないし」


「良し、決まりだね! じゃあ今日はこのあと飲みに行くか!」


「ハルヒ、カンナちゃんは未成年よ?」


「ああそうだった! じゃあ健全なお店にお食事に行こう! 私達は飲むけど!」


 もしも自分が成人していたらどんなお店に連れて行かれたのだろう。そう思うとホッとする反面、少し残念な気持ちになったカンナであった。


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「んで、みんな考えてきた? ひとり一個は案を出すのを宿題にしたけど」


 事務所兼、ハルヒとアキの家に集まった妖精譚の5人は先日の渋谷ダンジョンでのスキル披露を振り返っていた。ハルヒが考えてきた案の提出を求めると、それぞれA4レポート用紙に書いたプランを提出する。


「ありがとー。じゃあこれをベースにフェアリープランを作成しますかー」


 基本的にはここから良さげなものを見繕って詳細を詰めていく流れだ。そんな作業の中でやはり話題は柚子缶の2人の事が中心になる。


「ナツキとマフユはあの2人、どう思った?」


「私は良いコンビだと思ったよ。スキルのシナジーも抜群だけど、お互い信頼しあってる感じが伝わってきた」


「お姉さんのユズキちゃんが引っ張ってるようで、いざという時にゴリゴリ行くのがカンナちゃんね。あれはそういうタイプのペアだわ」


「何よそれ。でも分かるかも」


「しかしぶっ壊れスキルがあると、ものの半年でチャンネル登録者10万人行くんだねー。ウチらは10万に行くまでにどれくらいかかったっけ?」


「イヨちゃんが入ってから丸3年ね。動画編集者からみて柚子缶はどう?」


「いやー、生柚子缶まじてぇてぇわ」


「ダメだコイツ。拗らせてる」


「いやいや、あのてぇてぇ成分が人気の理由だとは思うよ、真面目な話」


「そうなの?」


「うん。みんなは仲良いけどノリが女子大生なんだよね。柚子缶と空気が違うんだワ」


「へー、やっぱオタクはそういうの敏感ねぇ」


「フヒヒ、サーセン」


 ひと通り全員の意見を吸い上げたハルヒ。自分も含めて柚子缶の2人に悪い印象を持った者は居なさそうだ。


「でもまあ、2人だけだとこの辺りが限界じゃないかな」


 イヨがボソリと呟く。


「よくやってると思うけど、2人が言ってた100万人をガチで目指すなら今のままじゃダメだと思うし、本人も分かってると思うわ。どんなに伸びても15万人くらいで頭打ちかな」


「100万人ねぇ……。どこまで本気なのかしら。別にそこに届いたからって収入が跳ね上がるわけでもないでしょ?」


「アキちゃんはそういうところリアリストだなぁ。若い2人が目指せ日本一! 100万人! って頑張ってる姿がてぇてぇんでしょうに」


「その割にはイヨだって、辛口評価じゃない。ファンのくせに」


「ファンだからこそ、評価は公平にってやつよ」


「ふーん。じゃあその辺も交渉材料にできるか」


 そう言って頷くアキ。ハルヒはそんな彼女達にも聞こえるように宣言した。


「実際にどうするかは、いったん一緒に探索してみてだな。まずは目の前のコレをきちんとした形にしよう。お姉さん方が作ったプランが情けなかったら、柚子缶に呆れられてしまうぞ?」


 残りの4人ははーいと良い返事をして作業に移るのであった。



第11話 了


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※※作者より※※

前話に引き続いて言い訳タイムです。


妖精譚は全員お姉さんで、口調も似ているので「これって誰のセリフだろう?」と思ってしまう部分があるかと思います。

ユズキもお姉さんですが、一応妖精譚に対しては丁寧語って所で差別化出来ている…かな?


全部のセリフ、春夏秋冬の誰が話しているかは作者は意識していますが、イチイチ書いていくのもクドいので、特に誰が話してても違和感のないセリフは思い切って誰が言ったかの描写を省略しております。これは次話以降も同様です。


読者様の読みやすい人物で想像していただければ、それが正解となりますし、特に必要と感じた部分は「……とハルヒが言った」という地の文をきちんと書かせていただきます。作者の力不足で申し訳ないですが、特に人を限定していないセリフの中に重要な伏線を張ったりはしていないので安心してかるーい気持ちで呼んでいただいて大丈夫です(2回目)


ちなみにイヨちゃんは個性バリバリだし、今後の展開とキャラ付けがあるので出来るだけ彼女のセリフとわかる様にしてあります。

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