第29話 光り輝くもの

 何が起こったんだ?


 ナイメール星への扉を開け、洞窟を抜けると、メルとベレッタ、そしてジャネットが陶器製のバイクに跨っていた。


 陶器製のバイク?「せともの会館」のオブジェ?


 間違いなく、陶器のバイクは今朝まで見かけなかった。


 ただ、陶器製のバイクは精巧な仕上がりをしており、ヘッドライトや、ウィンカー、それにポジションランプまでついている。


「ご主人様!お迎えに参りました!」


「と、智也様!お、お待ちしておりました」」


 元気に俺を出迎えてくれるメルと、対照的に照れているベレッタとジャネット。正反対の出迎えだ。そりゃメルとは、あんな~こと~、こんな~こと~、したからな。だいぶ俺に対する態度も慣れてきたよな。


 ジャネットとベレッタは、まだ俺にどう接するべきか、迷っているのだろう。だが、その初々しさが可愛い。


 朝、ジャネットとベレッタと別れた時、彼女たちは薄汚れた姿だった。しかし、身体を綺麗にし、新しい洋服を着た2人は、さらなる美しきオーラを放っていた。


「2人とも、き、綺麗になったね」と、俺は2人に声をかけた。


「き、綺麗だなんて、そんな言葉をかけてくれるのは智也様だけです。不思議な気分です。でも、嬉しいです。何よりもあなた様から言われるのが...♡」


「そ、そうです。プロポーションも容姿も悪いのに...。でも、私たちを見て、そんなに熱い視線を送ってくれる智也様が、すごく嬉しいです♡生まれて初めてです。男性から熱いまなざしを受けるのは...♡」


 やばっ!見惚れていたのがバレてしまった。


 話を逸らそうと、「ところでメル、目の前のこれは何?」と、メルとジャネット、そしてベレッタが操作していた陶器製のバイクを指差しながら尋ねてみた。


「はい!それはベレッタさんとジャネットさんが作ってくれたものです!麻璃奈さまが「ご主人様と私が住んでいた世界にある乗り物」と魔皮紙に書いて下さった物を、ベレッタさんが形にしたんです!本当にすごいんです!ベレッタさんも、ジャネットさんも!」


 メルのテンションが上がりまくりだ。


 でも、すげえなベレッタ。麻璃奈が教えたものを忠実に再現するなんて。それに動くし、ライトまでついている。


「智也様。動くようにしたのはジャネットの力です。私はただ形を作るだけ。人形に命を吹き込むのはジャネットの役目です。メル様にはオークやミノタウロス、そしてコカトリスなどを倒して、人形の動力源となる魔石を、大量に持ち帰って来て下さいました」


 俺に向かって話した後、ベレッタはメルに対して深々とお辞儀をした。


「そ、そんな、わ、私にお礼何ていらないです!私を強くしてくれたのはご主人様の力です。それにお二人と同じ、私もご主人様の奴隷です!」と謙遜している。


 メルが乗っている陶器製のバイクは、シートが低く設定され、チョッパーバーで恰好いい。いかにもちょい悪オヤジが好みそうな形だ。


「メル、乗り心地はどうなんだ?」


 「凄いです!全く揺れないんです!お尻も痛くありません!座る部分は柔らかくて快適です!」


 凄いな。全部土から作っていると聞いたが、硬さなども変えられるのね。


「凄げえな二人とも。ありがとう。これで皆の移動が楽になるよ」と2人に言うと「勿体ないお言葉です。これからも一生懸命に物つくりや、その...ご奉仕をさせて頂きます。ですから私たちを、智也様の傍にいさせて下さい!」と、力強く懇願された。


 本当にこっちの世界にいると、頭がおかしくなりそうだ。


 自分が恰好よく、力のある人間の様な錯覚に陥ってしまう事がある。だから地球に帰ることは、ある意味大切なことだと思う。自分の身の丈を教えてくれる。この環境が本当に幸せで、この子達を大切にしないといけないと思い知らせてくれる。


 話を戻すが、ベレッタとジャネットは協力して陶器製のバイクを作り上げた様だ。


 ジャネットはバイクを動くようにし、ライトのオンオフ機能等を可能にした。これらは、物に命を吹き込む作業で、ジャネットの傀儡子カイライシのスキルと魔石を用いて実現したようだ。


 ジャネットは、「と、智也様の奴隷となってから、急激にできることが増えました。以前は小さな人形を操るのがやっとで、無理をすると魔力枯渇を起こしていました。しかし、今では魔石を利用して、物を半永久的に動かすことが可能になりました。ただ...」


 そう言った後、俺の方を恥ずかしそうな表情で見つめて、「あなたのことが、いかなる時も脳裏から離れません。いえ、頭だけではなく身体もです...。私たちにもご慈悲を...どうかお願いします」


 そう熱いまなざしで俺を見つめてきた。


 そんな様子を見たメルが、こそこそとジャネットとベレッタに耳打ちをした。


「そ、そうですね」


「分かりました」


 そう言って、メルから耳打ちをされたジャネットとベレッタの二人は、自分たちの乗ってきたバイクに大人しく戻って行った。


 そしてメルは、「ご主人様!帰りましょう。ジャネットさんとベレッタさんが作ってくれた物は、これだけではないのです!ふふふふふ♡」と、意味深な笑いを発した後、バイクにまたがった。


 すげえ足の長さだな。さすが股下90cmの威力だな。羨ましい。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 確かにバイクの乗り心地は最高であった。ジャネットとベレッタに頼んで俺用のサイズも作ってもらおうかな?


 メルに抱き付くように送ってもらうと、メルはすごく喜んだ。「これ、すごくいいです!ご主人様!危険ですから、しっかりと私につかまって下さいね♡」と、メルは大喜びであった。


 こんなに喜んでくれるメルを見ると、自分用のバイクが欲しいとは言えないな...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「マリナの店」の前に着くと「主様、お帰りなさいませ」とクラリスが、どこからともなく俺の横にスッと現れた。そして、すぐに回復魔法をかけてくれた。疲れた身体がウソみたいに元気になった。もちろん息子を含めて。


 絶対...性力増強もかけたな。息子がうずうずしまくっている。本当にクラリスは...こういうことを平気でして来る。


 店内に入ると「「おかえりなさいませ!智也様!」」と従業員たち一同が、大きな声で俺に挨拶をしてくれた。元気のいい声で気持ちがいい。


 忙しい麻璃奈も、厨房からわざわざ出て来てくれた。


「おかえりなさい、智也君♡待ちわびたわ。すぐに従業員に引き継いで、私も食堂に行くから少しだけ待っていてね♡」と優しく微笑んでくれた。すごい、新妻みたい。何だかすごく嬉しい。


「は、はい」と、俺は照れてしまい、下を向いた。


 俺の行動を見た店内中の従業員やお客たちから、「可愛い~!」や、「真っ赤な顔しているよ!いい男だね!」など、俺に対して賛辞が乱れ飛ぶ。


 かたや麻璃奈には、「麻璃奈ズルい!」や「裏切り者!」など、ブーイングの雨嵐だ。「うふふふ♡幸せだから、皆にエールを1杯無料で付けちゃうわ。それで許してよ♡」と皆に向かってにこやかにほほ笑んだ。


「おー気前いいね!まあ、あれだけいい男に、好意を持たれれば気前もよくなるか」と、皆が笑っている。


 俺は、気恥ずかしさから逃げるように、2階に上がった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ジャネットとベレッタはすごい物を作ったな」と、クラリスが注いでくれたリンゴジュースを飲みながら話しかけた。


「はい、麻璃奈様から色々と聞いて、バイクなる物を作成しておりました。更に、智也様の住まれるログハウスの改造も、一部分ですが済んでおります」と、クラリスは教えてくれた。


「俺が住む部屋の改造?」


 俺用の部屋は、麻璃奈が元々住んでいた離れを譲り受けた。別に俺も皆と同じ「マリナの店」の2階か、新しく作る、男性用の寄宿舎の一室でいいと言ったのだが、皆から「駄目です!」と言われた。


 全力でご奉仕ができないから、離れじゃないと困るらしい。それにお店の2階でをしているのがバレると、客や従業員の一部が欲情したら困ると、クラリスは真顔で言った。


 ナイメール星で、レポートや大学の課題をこなすことは絶望的だな。


 19時台は、麻璃奈の店も混雑する時間帯だ。だから、あと1時間、いや、2時間、帰宅を遅らせて、向うで勉強をしてこよう。


「麻璃奈さまもあと少しで、一緒に食事が囲めるようです。主様さえ宜しければ、これから住まわれるログハウスの方を見に行かれますか?それともお食事の前に、誰かにご慈悲を頂けますか?」


 そう言った後、クラリスが俺の目の前にしゃがみこみ、ズボンのファスナーをゆっくりと降ろそうと手をのば...。


「ちょ、ちょっと、まだお風呂にも入っていないから、クラリス!ありがたいがお風呂に入ってからで!」と、慌ててズボンの上から、元気になりかけの息子を両手でふさいだ。


「そうですか?私は全然気にしません。ねえジャネット?」


 隣にいるじゃネットも「え、ええ。もちろんです。汗の匂いがまた最高の香りです。そのままの方が私も...」そう言ってジャネットも、じりじりと俺に近づいてきた。


「ジャ、ジャネット、それにクラリス、夕食の準備を手伝いに行こう!」


 俺は逃げるようにその場から、一階の厨房の方に駆けだした。


「主様!お待ち下さい!」


「と、智也様、いつでも...」


 まったく、贅沢な悩みだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いただきます!」


 皆が集まり、夕飯が始まった。俺の好きな唐揚げやミノタウロスのステーキなど、食べ応えがある物が並んだ。クラリスやメル、それに麻璃奈もよく食べる。俺以上に食べているかもしれない。


「それでも太れなくて」と、少し寂しそうに呟く。体質ってあるんだな。


 皆楽しそうに色々な話が飛び交う。麻璃奈は大食いロケなどで日本各地を回っていたから、岐阜の話にもついてこれる。


 ただ、麻璃奈は気配り上手だから、俺と二人っきりだけの会話をするのではなく、目の前に座っているメルに「岐阜にはね、漬物ステーキっていう変わった食べ物があるのよ。今度作ってあげるわ」など、皆を巻き込んで話してくれる。


 外見だけでなく、内面も素敵な女性だ。


 そんな楽しい会話の最中に、サラが「智也様、あの...このような席でどうかと思ったのですが...」すこし神妙な顔で俺に話を切り出して来た。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 何でもサラは今日、マジックポーチの中身の整理をしてくれたようで、1つずつ丁寧に磨いたり、品質のチェックをしたそうだ。


 そんな時「何者かの右腕」が、いきなり輝き出したと俺に伝えてきた。


「お、おいサラ、ほ、本当なのか?み、見間違えじゃないのか?」と、インリンが表情を真っ青にして聞いている。


 インリンは、こういう話が苦手なようだ。某タレントの「怪談〇イト」や「茶〇町怪談」などを聞かせたら、ぶっ倒れそうだな。


「いえ、本当です姐さん。黄金に数秒間、光輝いたのち、また元の状態に戻りました。何かを伝えるかのように、いえ、返事をするかのように...」


 場がシーンとした。インリンとメルは少し震えている。メルも苦手なようだ。あんなにドラリル一味を成敗していたのに、こっち系は苦手の様だ。


 サラがウソを言うわけがない。本当に「何者かの右腕」が、光輝いたのだろう。だが謎すぎて、俺には分からない。


 まあ、分からないものを考えてもしょうがない、様子を見ることにした。そして少し経つとまた賑やかな場に戻り、皆がたくさんご飯を食べ、俺以外の皆はお酒も沢山飲んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 お腹も満たされ、俺は食後の余韻に浸っていると、どうやら周りは何かを期待し、そわそわし始める。


「さあ、皆、皆でお風呂に入るわよ!しっかりと私たちのご主人様の一日の疲れを癒す時間よ!」と、麻璃奈が皆に呼びかけた。


 俺は周りを見るとロジンや従業員達の姿はなく、この席には、俺と麻璃奈、そして俺の奴隷たちしかいなかった。


 恥ずかしそうに下を向いている者、妖艶にほほ笑んでいる者。そして、目をぎらつかせて俺を見つめている者等、それぞれだ。インリン恐い、怖い。鼻息も荒いし...。


 何て計画的で、ち密な作戦だ。ロジン裏切ったな...。いや自分から身を引いたのだろう...。そう考えることにしよう。


 俺は皆の作戦に、どっぷりとはまってしまった様だ...。

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