第2話 カコ
botのように吐き出す、習い性の憎まれ口も、実体なくむなしく響いた。そうしたってなんの解決にもならないことを、知っているからだ。
出会いを求めた先で付き合ったのではなく、初めは趣味を通しTwitterで繋がるという、友達からのスタートだった。カコというハンドルネームの彼女は、とても章と趣味に対する考えかたや入れ込み方に至るまで、とてもよくにていた。打てば響くように言葉が返ってくる。彼女のツイートを見ていると、章はまるで自分が呟いているように思うことさえあった。本当は自分は二重人格で、知らない間にカコを演じているのだと。荒唐無稽な話だが、電子で繋がっていると、相手は確かに自分へと反応を返すのに、そこに肉体的なイメージを付随するのが難しくなるときがある。カコは誰より気の合う友達だが、実在しない友達でもあった。
それが覆されたのは、カコが自分にたいして直に連絡を取りたいと言ってきた時だった。カコも章と同じように考えていたのかもしれない。リアルタイムで話をしたい、声を聞いてみたいと言ってきたのだ。はたして、互いは確かに存在する人間か? 一見馬鹿げた疑問を抱きながら、Skypeを用いて二人は初めて肉声を用いて会話した。そのときの気持ちを、章は話せるものなら、目についたすべての人に話したかった。でも同時に、誰にも話したくないと思っていた。
『もしもし、あきさん? ですか』
カコは自分のようだという感覚。それは、カコの声を聞いた瞬間、「初めて会った気がしない」に変化した。そして、それが自分のように感じていた理由だということも悟った。章は、ずっとカコに会いたかった。
章の声を、カコは笑わなかった。自分の声は別段嫌いじゃないし、笑われることにも慣れていた。しかし、カコに誉められて自分が笑われることに疲れていたのだと知った。
彼女が生きている、自分と同じ人間だという事実は章にカコを意識させるには十分の出来事だった。そしてそれはカコも同じだということを、自惚れでなく感じていた。
カコの本名が、
ふと章が我に返ると、哲夫はいなかった。いつの間にか部屋から出ていったらしい。哲夫は章の従兄であり、携帯の通信の制限がかかるとこうしてコンピューターを貸してくれている。高校生で親の庇護下にある章にとって、ありがたい存在だ。
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