第5話 空挺旅団、参上
西暦2026(令和8)年2月17日 ベルジア王国北西部 要塞都市アシガバード
ベルジアの北西部にある要塞都市アシガバード。ここには歩兵2万、騎兵2000、砲兵2000からなる西部方面軍団が配置され、堅牢な要塞とともに帝国軍を迎え撃とうとしていた。指揮官たるカドラル将軍は城壁の上から敵軍の様子を見つつ、小さく唸る。
「ううむ…何て数だ…」
すでに西半分の一帯に万単位で展開している敵軍は、大量のカノン砲で城壁を切り崩しつつ、布陣を進めている。これに対して王国軍はまだ破壊されていない施設からの応射で対応していたものの、使う武器の性能差が響いていた。
「将軍、ティヘリアより通信です」
すると兵士の一人が、携帯式魔法通信機を持ってきて、カドラルはそれを手にする。そして一人の男の声が発せられた。
『カドラル将軍、聞こえているか』
「聞こえております、ベルダ将軍。何用でしょうか」
『我が国がニホン国に対して援軍要請を発したのは知っているな?間もなくそちらに到着する。今は城塞への侵入阻止を優先せよ』
「はっ…?」
カドラルは我が耳を疑った。兵員の輸送というものは相当に時間がかかるものである。援軍の派遣要請を行ったのは一昨日であり、即答したにせよ一日かそこらで何万もの兵士を送り込めるはずもない。そのため彼は援軍が到着するまで持たないと考えていたのだ。
だが、その推測は直ちに裏切られる事となった。なぜなら上空にて、四つもの巨大な飛行物体が通り過ぎ、その直後に南の方にて、何両もの鋼鉄の怪物が現れたからだ。
・・・
ソ連軍に範を取って編制・強化を行っていった日本国防衛軍は、空挺降下作戦とそれに従事する部隊、そして用いられる装備と戦術においてもソ連軍の影響を受ける事となった。
それが特定の軍管区に属さず、地上軍参謀本部直属の部隊として編制された空挺団であり、北海道・関東・九州・台湾の4か所に4個旅団を配置している。そして今回の平和維持作戦に於いては、千葉県習志野の第1空挺旅団と北海道の第2空挺旅団が投入されていた。
「降下始め!」
上空に展開する4機のVa-56〈グーシ2〉戦術輸送機の後部ハッチが開き、機内格納庫のパレットを固定するロックが自動解除される。そしてキャビンより空中輸送員が操作し、パレットが動き始める。
床上とランプハッチに敷かれたローラーを統べる様に移動し、空中へ放り出されたパレットは、その四隅に装備しているパラシュートを展開。東側に広がる平地へゆっくりと降りていく。そして数分後、緩衝材が押し潰される音を響かせながら着地し、同時に『荷物』を固定していたワイヤーが自動的に切り離される。それを確認してから『荷物』が動き出し、パレットより降りた。
『荷物』の正体は装甲車だった。JBMD-91歩兵戦闘車はソ連から輸入していたBMD-1空挺戦闘車の後継として開発されたもので、非装甲の自動車なら容易くスクラップに変える事の出来る30ミリ機関砲に、外付け式の対戦車ミサイルを武装とする。そのほかにも火力支援を担当するSSU-95〈ゴルテーンジャ〉自走迫撃砲も投下されており、計12両の装甲車両はアシガバード南部を回る様に西進。そして包囲を試みていた帝国軍に対して攻撃を開始した。
横一列に並びながら迫る戦列歩兵など、的でしかなかった。2A42・30ミリ機関砲が唸り、最前列のみならずその後列ともども木端微塵に粉砕し、大地は鮮血と臓物とで赤く染まっていく。〈ゴルテーンジャ〉も120ミリ重迫撃砲の砲身を上げ、発砲。真上より敵軍に砲弾を叩き込む。
「降車、展開!」
直後、後部ハッチより次々と兵士が降り、車両の左右に展開。共にゆっくりと前進しながら、敵兵に向けて発砲を開始する。彼らの装備するJAK-20自動小銃は西側のデザインと運用思想を大々的に取り入れた新型小銃であり、当然ながら前装式のライフル銃に比して連射性能で勝っている。しかも常に匍匐前進ないし装甲車を盾にして迫りながら撃ってくるため、多くの兵士は装填作業中に一方的に5.56ミリ銃弾を叩き込まれ、そして倒れていった。
悲劇は終わらない。輸送機のピストン輸送によって次々と後続の部隊が到着し、その数を増していく。気付けば夕方に差し掛かる直前には、6万もいた軍勢は4万以下にまで減り、生き残った者も半分以上が負傷していた。
「こ、後退!後退ー!」
まさかの大損害に驚愕した指揮官は後退命令を発し、大急ぎで西へ引き下がり始める。自軍の3倍はいたであろう敵が、こうも容易く蹴散らされる様子を見せつけられたカドラルは、思わず顎が外れた様な表情を浮かべる。
「これが、ニホンの軍事力とでも、言うのか…」
その呟きは、実際の戦闘を目の当たりにしたすべての者の総意だった。
・・・
「お待たせしました、カドラル将軍。第1空挺旅団の指揮官である
アシガバードの城内にある王国軍基地司令部にて、第1空挺旅団の団長である
「我らは序盤において、これ以上の帝国軍の侵攻を阻止するべく参りました。間もなく第2・第14歩兵師団と第1戦車師団がこちらに到着します。あとタブルズ奪還を主目的とした王国陸軍第1鉄騎兵旅団もです」
「…!」
大村の説明に、カドラル達の表情が変わる。第1鉄騎兵旅団とは、日本からの支援で編制された機械化歩兵部隊であり、日本が予備として保有していた旧式とはいえ近代的な銃火器や火砲、そして装甲車両で武装しており、間違いなくベルジア最強の部隊と言えた。
「翌日には第14歩兵師団の第9即応機動連隊が、第1砲兵旅団の先遣隊とともに到着します。全ての部隊が到着次第、我らはあの物量を粉砕します。その時にこそ皆様は反撃を開始して下さい」
そうして大村がカドラルに説明をする中、タブルズではバルド将軍らが動揺を露わにしていた。
「何なんだ、あの軍勢は!?」
「あの様な兵力を、ベルジアの亜人どもが持っているなど聞いておらんぞ!
多くの将が、軍団に手傷を負わせた敵に対して動揺を露わにしていた。とその時、兵士が報告を上げてくる。
「閣下、ロスディアより連絡です。先程、ニホン国がロイテル逓信社を通じて基本非干渉宣言を撤回し、『平和維持作戦』の名目で武力介入を行う事を宣言したとの事です!」
「なっ…」
報告を聞き、多くの将官が驚く。だがこの翌日より、彼らは日本国を敵に回した事の意味を深く知る事となる。
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