第6話 桃色青春高校 vs スターライト学園

 龍之介が率いる【桃色青春高校】と夏の王者【スターライト学園】の試合が始まろうとしていた。

 先攻は【桃色青春高校】。

 マウンドに立つのは、【スターライト学園】のエースナンバーを背負ったハルカ。

 彼女が投球練習を行う。


(へぇ……。相変わらず、コントロールが良いな……)


 龍之介が感心しながら彼女のピッチングを見る。

 ストレートの伸びも悪くない。

 龍之介とハルカがチームメイトであった中学3年生時代と比べても、順調にレベルアップしているように見える。


『プレイボール!』


 審判ロボが宣言し、試合が始まる。

 人間の野球選手を尊重するため、野球ロボの性能は抑えられている。

 だが、審判については性能の制限がない。

 2099年になった今、限りなく正確なジャッジができるようになっていた。


『1番、ライト、ロボ1号』


 アナウンスロボの声に応じ、先頭打者がバッターボックスに入る。

 そして、初球。


「ストライク!」


 まずはワンバンのスローカーブ。

 性能を抑えられたロボ1号では見極められず、振ってしまう。


「うーん……変化球も成長しているな……」


 龍之介は感心する。

 続いて、2球目。


「ストライーク!」


 今度はシンカーだった。

 これもロボ1号のバットはかすらない。


「ストライクー! バッターアウッ!!」


 最後はド真ん中へのストレート。

 それを見逃してしまい、ロボ1号はあっという間にアウトになってしまった。

 続く2番バッターのロボ3号も、同じく三球三振。


「うーん……。やっぱり、ロボでは甲子園の優勝投手は打てないか。――ん?」


『ボールフォア!!』


「なにっ!?」


 3番のロボ0号が四球で出塁した。

 予想外の出来事に、龍之介が驚く。

 続く4番打者としてバッターボックスに入った彼は、ニヤリと笑う。


「くっくっく。2者連続の三振はさすがだと思ったが……。コントロールが乱れているんじゃないか? ハルカ」


「…………」


「黙っているということは図星か。やはり、この試合は俺の――うっ!?」


『ストライークッ!!!』


 龍之介の横を通り過ぎていく白球。

 彼は、その球速に驚いた。


「な、なんだ今のスピードは……。150kmは出ていたんじゃ……。それに、このキレ……。今までとはものが違う」


「当たり前じゃない。ウォーミングアップとかロボット相手に、全力投球なんてしないわよ」


「くっ……!」


 動揺する龍之介に対して、ハルカが冷静な口調で言う。

 彼女は投球動作に入りながら、彼に話しかける。


「龍之介。あなたはどうして野球を辞めたの? 高校でも一緒に野球ができるって思っていたのに……。なんで突然いなくなったのよ?」


「そんなこと、お前には関係ない。――くっ!!」


 2人の思い出話をしながら、ハルカはボールを投げた。

 ――ズバーン!!

 150km超えのフォーシームがキャッチャーミットに収まる。

 中学野球の優勝メンバーだったとはいえ、今の龍之介ではかすらせることもできない。


「別の高校で野球部に入るのかと思ったら、1年以上もフラフラしていただけなんて……! 才能の無駄遣いじゃない!!」


「うるさい……! お前に言われる筋合いは――」


『ストライッ! バッターアウト!!』


 4番の龍之介までもが三球三振に倒れ、1回の表が終わる。

 次は、【スターライト学園】の攻撃だ。

 甲子園優勝校の強力打線を、龍之介は抑えることができるのか?

 ――現実はそう甘くなかった。


『ボール! フォア!!』


 龍之介が3番バッターに四球を与えてしまう。

 1番・2番の連打に続く四球。

 これで満塁となってしまった。


「はぁ……、はぁ……。くそ……。こんなはずじゃ……」


「どうしたの? もう限界? 球威もコントロールもカス同然……。中学野球の優勝投手も、落ちぶれたものね」


「うるせぇ……! まだ、試合は始まったばかりだ!!」


 ハルカの暴言を受け、龍之介はなんとか自分を奮い立たせようとする。

 しかし、彼の体は正直だった。

 次の打者である4番ハルカに対しても、まともに投げることができない。


『ボールスリィー!!』


(チッ! まともにストライクが入らねぇ……! エロパワーがない俺は、ここまで下手くそだったのか……!! それになぜか、中学の頃よりもハルカが大きく見えやがる……!!)


 龍之介が悔しさで歯ぎしりする。

 そして、彼が4球目に選んだコース。

 押し出し四球を恐れた甘い球。

 それをハルカは見逃さなかった。


「これが……今のあんたの球なのね……」


 カキン!!

 快音とともに、打球がレフト線へと飛んでいく。

 外野を守るロボが走るが、到底追いつけない。

 その間に、白球はどんどん遠ざかっていった。


「龍之介……。あんたの才能も、もう終わったわ。自分のバカな選択を呪いなさい……」


 ハルカは失望の表情と共に、ダイヤモンドを回る。

 これで【スターライト学園】が4点を先制。

 なおもノーアウトのまま。


 ――その後も龍之介はしこたま打たれ続けた。

 性能を抑えられている野球ロボも足を引っ張った。

 ならば反撃しろと言われるかもしれないが、そちらもハルカの球威と多彩な変化球の前に押されっぱなし。

 結局、試合は3回裏の【スターライト学園】攻撃中に龍之介がギブアップを申し入れた。


 【桃色青春高校】0-30【スターライト学園】 3回途中ギブアップ


 龍之介が率いる【桃色青春高校】の初陣は、凄まじい程の大敗で終わったのであった。

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