物語は動き出す
ローベルトの話では、最近のルーファスはヒロインであるシルビアと度々二人きりで会っては楽しそうに話をしている場面を複数人が目撃しているらしい。
「僕的はあのルーファスが他の女にうつつを抜かすなんて事はないと思ってるけど。まあ、火のないところに煙は立たないって言うからさ」
遂に動き出した……
原作より随分遅い展開だが、ちゃんとストーリー通り。
ルーファスはシルビアを好きになる──
ズキッ……
一瞬胸が痛んだ気がしたが、きっと気の所為。
こうなれば、ことは一刻を争う。
ローベルトの力を借りれば直ぐにでも破棄できるが、ローベルト本人がそれを良しとしなかった。
「僕が言うのは簡単だけど、本当にそれでいいの?」
なんて言われたら頼むに頼めない。
「……因みになんですが、殿下はそのご令嬢を見てどう思いました?」
「どうとは?」
ローベルトも対象者の一人。
と言うか、ヒロインを見事射止めるのがこの人なんだから。
「いや、一目見て胸が苦しくなったりだとか、動悸が激しくなったりだとか?」
「おいおい僕は病人かい?」
今はそうかもしれないが、原作通りなら数日後に開催される夜会で恋に落ちるはずだ。
そこからジルの悪役が本領発揮する。
「あの、余計なお世話とは思いますが、婚約者のジル様の事はどうお想いで……?」
「ん?ジル?どうとは?」
「いや、まあ、一応殿下の婚約者様ですし、私とルーファス様みたいな関係かなあ……と。勝手な意見ですけど」
ローベルトはジルの素行の悪さに嫌悪感を抱いていて、このまま王妃になれば我儘はさらに増幅すると懸念していた。
そこにシルビアの登場で、ローベルトは簡単に心を奪われる。……はずなんだけど
「ふふっ。悪いけど君達と一緒にして欲しくないなぁ。ジルは気性は荒いけど、根はいい子だよ。……それに、気の強い子程躾がいがあるでしょ?」
恍惚とした表情を浮かべるローベルトに寒気が走った。
(あれ?ローベルトってこんなキャラだっけ?)
作中のローベルトはどちらかと言えば聡明で誠実な感じだったはずだった。
しかし、今のローベルトはどちらかと言えばジルに好意があるように見える。それも狂気的な愛を感じる……
あっ、これは深掘りしない方がいい。直感がそう判断した。
ローベルトは察したように微笑みながらリリーを見ていた。
その笑みに自然と冷や汗が出る。
「あ、あの、そろそろお暇しようかと……」
「おや?まだいいじゃないか」
この場に居づらくなり席を立とうとしたが、ローベルトが引き留めてくる。
流石にこの部屋の主がまだいろと言うのならば勝手に出て行くことはできない。
困っているとバンッ!!と勢いよく扉が開く音がした。
振り返るとそこには鬼の形相でリリーを睨みつけるジルが立っていた。
「どうしたんだい?ノックもなしに……」
落ち着いた声で話すローベルトだが、その目は鋭い。
「殿下!!ひどいじゃありませんか!!わたくしという者がおりながら、未婚の女と密室で二人きりなど!!!」
「え、いや、ちが──……」
どうやらジルは盛大に勘違いをしているようだったので慌てて誤解をとこうとしたがローベルトに「待って」と小声で止められた。
それだけではなく、ジルを煽るようにリリーの腰に手を回し身体を密着させてきた。
その様子にジルは更に激昂した。
「な、な、な──ッ!!!あ、貴方、ルーファス様と言う方がおりながら他の男性に身体を預けるなんて!!!!」
「ちょ、誤解──!!!!」
「言い訳は結構!!!今わたくしが目にしているものがすべてを物語ってますわ!!!この事はお父様に報告させていただきます!!!」
「覚悟する事ね!!!」といよいよまずい状況というのにローベルトはリリーを離すどころか満面の笑みを浮かべている。
「ちょっと!!いい加減にして下さい!!!」
「何で?これはチャンスだと思わないかい?」
確かにこの状況をジルの父親である公爵の耳にはいればリリー有責で婚約も破棄され、無事に国外追放になれる気がする。
──が、ジルを悲しませるのは本望では無い。
(だって、私の先生だもの)
まあ、リリーが勝手に思っているだけだが……
「貴方はそれでいいんですか!?婚約者に、ジル様に勘違いされているんですよ!?」
「ん?それが?」
「は?」
「見てご覧ジルの顔を、悔しくて惨めで苦しそう。……最高にそそるだろ?」
そう言うローベルトの顔は恍惚としながらとても楽しそうだった。
「けど、まあ、そろそろ可愛い婚約者様を慰めておこうかな?」
と、リリーから離れると泣いているジルの元へ。
しばらく言い争っていたが、ジルの頬が赤く染まりローベルトが優しく抱きしめると丸く収まったようでローベルトがリリーの方を見てウインクで返してきた。
なんと言うか……こんなイカれた婚約者なんて……
(ジルが不憫だ……)
「やあ、ごめんね。君の誤解はちゃんと解いておいたから安心していいよ」
ローベルトがジルの肩を抱いてきた。
ジルの顔はまだ疑心暗鬼のようだが「まだ疑うのかい?」とローベルトに顔を掴まれながら問われるとこちらも頬を染めながら首を横に振った。
その様子を見て気付いた。
──ああ、この二人は似たもの同士だと。
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