19 人は魔力を得れるのか


 外はやけに静かだ。

それが、百華の話に私を引き込む。

 

「なんでも、人体には魔力を集めるための核があるんだとか」

「魔力を集める核?」


 私がオウム返しをすると百華は大きく頷いた。


「魔法が使える人と使えない人の差は、核の構造に差があるんだそうですわ」

「そうなんだ」


 ということはつまり、私は魔力を多く集めちゃう核を持ってるってこと?

その核って、なんとかして機能を変えられないのかな?

なんかちょっと興味出てきたかも。


「でも、それが試験と何か関係があるの?」

「みかげには良いことを教えてあげようと思いまして」

「良いことって?」

「もし人が魔力を持ったとしたら、何の力を得れるでしょう?」

「え?」


 話が見えない。

私がぽかんとして瞬きをすると、百華は声をひそめるように私に近づいた。


「逆の発想です。人が魔力を持てないのは核があるから。つまりそれを消してしまえばーー」


 ハッと息を飲む。

百華がなぜリンゴを採ったのかが分かったから。

百華は自分自身の核を消すつもりなんだ。


「ちょっと待って、それは危険すぎるよ! 体にあるものを消しちゃうなんて」

「だけど誰一人として成し得なかったことですわ。私たちが試験に受かるためには、このくらいのことをしなければ」


 百華は無表情でトートバックからあるものを取り出した。


 ずっと見ないようにしていたもの。

赤くておぞましい光を放っているものだ。


 “黒魔法を使えば代償として特別なものを失う”


 それが頭に浮かんで、ゾクっとした。

でも、百華はそれを大事そうに両手で包んでいる。


「やっぱり私、この魔力の声だけはよく聞こえますわ。だから大丈夫。私なら絶対に上手く扱えます」


 ーー説得は無理だ。

百華の目を見て私はそう思った。

だから自分の気持ちを正直に話すことにした。


「もし本当に核を消すことで何か魔力を持てたとしても、私はそんなことしたくない」

「どうしてですの?」

「だってそしたら他の魔法は使えなくなっちゃうでしょ? それは嫌だ」


 初めてちゃんと魔法が使えてクォーツを作れた時。

ものすごく嬉しかったし楽しかった。

だから私はもっと色んな魔法を使いたい。


 ……そうだよ。

私みたいにその核ってやつがおかしくても、百華みたいに魔法が突然使えなくなっても、魔法石があれば誰でも魔法と共に暮らせる。


 みんなが幸せに暮らせるように、私は魔法石を作るんだ。


「私、百華にその魔法は使わせない。だってそんな危ないこと誰も望んでないよ!」

「私は望んでますわ!! あなたなら、私と同じ気持ちだと思いましたのに!」

「いたっ!?」


 百華は私を突き飛ばして、リンゴを手にしたままうちを飛び出した。


「百華!!」


 慌てて追いかけるけど、起き上がるのに時間がかかった分追いつけなくて、家を出たあと百華がどっちに向かったのか分からなくなってしまった。


「みかげちゃん!」

「どうした!?」


 家から瑠璃ねぇと琥珀ねぇが出でくる。

私は泣きながら二人の腕を掴んだ。


「瑠璃ねぇ、琥珀ねぇ、どうしよう。百華が黒魔力を持ってどこかに行っちゃったの」

「大丈夫だ。あたしに任せろ」

「でも百華は核を消しちゃうかもしれなくて、そしたらどうなっちゃうか分からないよ!」

「核? みかげちゃん、少し落ち着いて。とにかく琥珀は百華さんの後を追って! 匂いで追えるでしょう?」

「ああ!」


 琥珀ねぇはすぐにバイクに乗って街道の方に向かっていった。

瑠璃ねぇはその姿を目で追った後、向かい合ってそっと私の肩に手を添える。


「みかげちゃん、大丈夫よ。起きたことを話してくれる?」

「瑠璃ねぇ……」


 瑠璃ねぇは絶対私の言うことを信じてくれる。

そう思って、私は深呼吸をした。

そして今日これまでに起きた出来事、それから百華に聞いた核の話をした。


「……そう、そんなことがあったのね。話してくれてありがとう」


 瑠璃ねぇはそう言うと、腕を伸ばしてシルバーの綺麗なステッキを上に向けた。

ステッキと瑠璃ねぇの付けているブレスが淡く光って、流れ星が空に走る。

伝令魔法だ。


「このあたりにいる魔法師に百華さんが自分の核を消そうとしてるってことを伝えたわ。琥珀もいるし、もう大丈夫よ」


 再び、瑠璃ねぇブレスが光り出す。

誰かからの返信だ。


 もしかして百華が見つかった?

そんな緊張感が走った。

瑠璃ねぇはブレスに耳を傾けると何度か頷いた。

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