14-2
「まぁ、よくここまで諦めずに何度も同じことをやってるとは思う」
と切り出すシトアの表情は暗い。
「けど、今日はもう公園にでも行って遊んでこい。ここには戻ってくるな」
「そんな、ついに私を見限るの!?」
「そうじゃない。息抜きだ」
「でも試験まであと二日しかないのに……」
焦る私を見て、シトアは長いため息をついた。
「行き詰まった時は一度頭をリセットしろ」
珍しく優しく言われると何も言い返せなくて、私はしょんぼりしつつ言われた通り荷物をまとめて学園を出た。
外が寒いのが余計にわびしくなる。
何がダメなんだろう。
風の魔法を使う時、あみぐるみとか、あやとりとか、私のイメージできうる楽しそうなものは全部想像してみたんだけどうまくいかなかった。
どうしよう。
私、このままじゃただ大きなクォーツを作れるってだけだ。
そんなの試験に受かるわけない。
「あっ! あぶなーい!」
地面を睨みながら街を歩いていると、どこからか突然声が聞こえた。
その後軽く頭に何かがぶつかる衝撃があって、それは私の足元をコロコロと転がっていく。
ボールだ。
振り返ると少年が一人こちらに駆けてきた。
「ごめんなさーい」
「いえいえ」
少年の向こう側に、小さな公園で小学生くらいの子どもたちが平和そうに遊んでいるのが見える。
私はそれを眺めながらボールを拾って少年に渡す。
と見せかけて、その腕を掴んだ。
「お姉さんも一緒に混ぜてくれない?」
「え!?」
そうだよ。
シトアはわざわざ”公園にでも行って遊んでこい”って言ったんだ。
全力で遊ぶこと、それが今私にできることなのかも?
「やだよ、不審者ブス!!」
そう閃いたのに、少年は私からボールを奪い返して走り去る。
私はその背中を唖然として見つめた。
おかしいな?
いきなり声をかけたから不審者はまだ分かる。
だけど、ブス?
「コラァァ!! ブスとはなんだブスとは!!」
私は気づけば鬼の形相で走り出していた。
「ギャー! みんな逃げろー不審者ブスが来るぞー!!」
「ワーこえ〜!」
「こ、怖くないよ。一緒に遊びたいだけだもん!」
「やだーーッ」
蜘蛛の子を散らすように、公園内を子ども達が駆け回る。
「くっ、待てええええ!!」
「待たないのだ! 食らえ、ポリポリンビーム!」
私は謎のビームを避けた。
そして顔の前でバツを作る。
「ポリポリンビーム返し!!」
「くそー! タコ一族の襲撃!」
急にみんながクネクネ踊り始めたので、私は負けじと変な踊りを踊った。
「マッチョウォール!」
私の身体能力を最大限に活かした人間の限界とも言えるその動きは、子ども達の目を輝かせる。
フッ、まぁ子どもなんてチョロいよね。
と思っていたら、ある一人が空気を一新してしずしずと前に出てきた。
「クラゲマンの華やかダンス……」
その世界観に私は思わず吹き出してしまった。
「はい負けー!」
「!? 負けてないよ!?」
なぜ笑ったら負けなのか全く分からないけれど、クラゲマンの華やかダンスに勝ちたい……!!
「お冷やごはんサランラップぴったり……レンジでチン☆ からの爆発!!」
「ギャハハハハ!!」
爆発は子ども達にウケた。
そして謎の勝負は爆発大会へ、爆発大会はいつの間にかラップバトルに変化していったのだ。
「明日のおやつはフルーツ〜、あたしの好物〜。イェア」
私がノリノリで韻を踏んでいる途中、夕方のチャイムが鳴り響く。
いつの間にかそんなにも時間が経っていた。
「あ、俺もう帰ろー」
「俺もー」
突然思い立ったようにみんなが荷物を背負い始める。
その切り替えの早さに私は焦った。
「え、もう帰るの?」
「うん、チャイム鳴ったし」
それだけ言ってみんなさっさと帰ってしまって、私は今あっという間に公園に一人取り残されている。
その落差に無性に寂しさを覚えつつも、トボトボと駅に向かって歩いた。
チャイムは鳴ったけどまだ明るいのにーー。
「って、私が一番のめり込んでいただと……!?」
課題のことなんて、魔法のことなんて忘れちゃってた。
そうか。
遊ぶっていうのは、こういう事なんだ!
私はいても立ってもいられなくなってラディアント学園に向かって引き返した。
学園に着くとちらほらと他の受験生が下校しているところで、その流れに逆流してシトアの部屋にたどり着く。
シトアは戻ってくるなって言ったけど、早くクォーツを作りたい!
そう息を切らしてドアノブに手をかけたけれど、部屋は施錠されていた。
ノックをしても返事はない。
「うそ、シトア帰っちゃったの!?」
って、冷静に考えればそりゃそうか。もう下校時刻だし……。
「仕方ない、クォーツ草を少しだけもらって家で練習してみよう」
誰か残ってる先生を探して採取の許可をもらわないと。
私は廊下に並ぶ研究室をかたっぱしからノックすることにした。
シトアの部屋は一番奥だから、まずはその隣から。
軽快にノックをするが返事はない。
ではその隣……はネームプレートに赤渕と書いてあるのでやめておこう。
気を取り直してその隣、とどんどんノックするが一向に人の気配はしない。
「やっぱり無理か……」
と諦めかけた時、廊下の突き当たりにある階段から足音が聞こえてきた。
誰かきた!?
お願い、先生であってーー!!
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