ラディアント魔宝石学園へようこそ
nika
1 三日月さんは魔法を使う時合図を言ってください
ーーこの世界には、人間以外の全ての自然物に魔力が秘められている。
たとえば通りすがりの猫、野原に咲く花、道に落ちている小石にも。
その魔力を引き出して起こす様々な現象を、私たちは”魔法”と呼んでいる。
人間は魔力がない代わりに魔法が使えるんだって。
『ラディアント魔法石学園へようこそ』
季節は秋も終わりに差し掛かった頃。
我が三日月家では、三人姉妹の家族会議が開かれていた。
末っ子の私は夕食後のデザートにと作っておいたプリンをテーブルに並べた後、席につく。
そして、一度ごくっと息を呑んでから大きく息を吸った。
ある事実を伝えるために。
「それでね。私、学校を退学させられる事になっちゃったんだ」
私のその発言はその場を凍らせた。
まず一番に反応したのは次女の琥珀ねぇだ。
スプーンを持ったまま、うーんと悩むように眉間に拳を当てている。
「悪い。みかげ、もっと詳しく言ってくれ」
そのサッパリした言葉遣いは琥珀ねぇのマニッシュな雰囲気にぴったりだ。
レイヤーの入った黒髪のショートカットも、黒曜石のような瞳で凛とした顔立ちもハッと目が覚めるような独特な雰囲気がある。
私はそんな琥珀ねぇを見ながらもう一度口を開いた。
「詳しく? えーと、私、五歳から通ってたここから電車で三時間のロイヤル魔法学校中等部を辞めさせられる事になりそう」
「みかげちゃん。そうじゃなくて、事の顛末をね? 退学の理由を教えてちょうだい」
今度は長女の瑠璃ねぇがプリンを優雅に食べながら困ったように尋ねた。
瑠璃ねぇは琥珀ねぇと同じ黒髪黒目だけれど、優しい顔立ちと長い髪は上品なお嬢様のようで話すだけで空気が和らぐ。
だから、私は落ち着いて今日あった出来事を思い出しながら話す事にした。
それは、今日の五時間目の授業の時のことだ。
晴天の下、二学期の中間試験が行われていた。
「えー、今期は主に浮遊の魔法を勉強していますね。今日の試験ではツバメの羽根から魔力を引き出し、ここにあるボールを一つ以上浮かせてもらいます」
優しそうな中年おじさんの先生はそう言って、手の中にあるツバメの羽根をステッキで数回叩く。
すると羽根に宿っていた紺色の光が校庭に並んだボールに乗り移り、ふわっと宙に浮いた。
引き換えに、光を失った羽根は粉々になり風にまぎれて消えていく。
「良いですね? 魔法はステッキの使い方と呪文の正確性が大事ですから、授業で学んだことをよく思い出してください」
先生は指揮者のようにステッキでボールを操りながら説明した。
このように、ツバメの羽根が持つ魔力は対象物を浮かせる力。
それは飛行系魔力の中でも長距離飛行に分類され、威力やスピードは少ないけれど長く細く魔法を使い続けることができる。
浮遊の軌道は独特な旋回を描くことから、別名コンパスフライとも言う。
私は教科書の32ページに書いてあった事を頭の中で反復した。
この通り授業の予習復習は完璧だ。
お昼に栄養ドリンクも飲んだし気合もみなぎっている。
「では、試験開始!」
試験を受ける順番は出席番号順。
みんなは先生に言われた通りに次々と空高くボールをあげてみたり、ふわふわと楽しそうに浮遊させてみたりと魔法を使った。
試験は順調に進んでいき……ついに一番最後。
つまり、私の番だ!
と思っていたら、先生はいきなり私から五十メートルくらい離れた。
「はぁぁーーい! じゃッ三日月みかげさーーん!! お願いしまあぁーーす!!」
遠いな?
先生だけじゃなくて生徒達も同じくらい遠巻きに私を見ている。
ま、いいや!
私が魔法を使う時、みんなが距離を置くのはいつものことだ。
私は魔法を使おうとお気に入りのステッキを振り上げた。
ウサギのチャームがついていて、流木から作った白いステッキだ。
よし、いくぞ!!
「あーーッ!? 待って!!」
その瞬間、私は先生に止められた。
何だろうと首を傾げていると、先生は大声を出すのに疲れたのかどこからかメガホンを取り出す。
「三日月さんは、魔法を使う時、いきまーすとか合図を言ってくださーい」
「分かりましたー」
「え? 聞こえな」
「いきまーーす!!」
手に乗せたツバメの羽根にステッキで触れる。
ステッキに集まってくるざわざわとした強いエネルギー。
私は心の中で呪文を唱えた。
もちろん、間違えずに言えている。
よし、今だ!
ボールよ飛べー!!
私が目の前のボールに意識を向けるのと同時に白い球体は勢いよく跳ねた。
そしてその瞬間、聞いた事もないような轟音が聞こえてーー。
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