長編版! 無才王女、魔王城に嫁入りする。 ~未来視の力で魔族領をお助けします!~

1話 魔族の王子と婚姻!?

「無才無能のカトリーヌ。今日よりお前を、第一王女と認める。我が偉大なるエリン王国に尽くす機会をやろう」

 

 ここはエリン王国の王城の大広間。

 無慈悲な声で国王が告げる。

 

 壇上だんじょうに居並ぶ王族たちに見下ろされながら、カトリーヌはひざまずいていた。

 ハニーブロンドの髪はつやを失っており、エメラルドグリーンの瞳はかげっている。

 

(いままで一度もお父様……国王陛下から認められることが無かったのに。突然、王女にするなんてどういうこと?)


 突然の宣告に、反応が出来ない。

 そもそも許しがなければ、顔を上げることも言葉を発することも出来ない立場なのだが。

 戸惑いのまま固まっている彼女に対して、国王は吐き捨てるように言葉を重ねる。


「まったく、お前の母はろくなものを残さなかった。占いの才だけはある女だったから子をくれてやったが、何も受け継がぬとはな。卑しい土壌に撒いた種はやはりろくな実をつけぬというものか。……まあいい、十八年間、役立たずを置いてやっていた恩を返す機会をくれてやる」


 その言葉に、檀上の王妃は黙ってゆらゆらと扇を揺らし、その娘――カトリーヌの義妹にあたるアンヌ王女はくすくすと笑い声をあげる。


 母への侮辱に、胸の前で組まれたカトリーヌの手が微かに震える。

 同時に、嫌な予感が沸き上がってくる。

 女に王族の身分を与えて使う。使い道などひとつしかない。


 カトリーヌは、お仕着しきせの灰色のワンピースのすそを握って、王の言葉の続きを待った。

 

「魔族討伐戦争は、一旦和睦わぼくの運びとなった。しかし奴らは和睦の条件をつけてきたのだ。エリン王国と魔族領――ゼウトス王国との王族同士の婚姻だ。フン、ふざけた願いだ」


 エリンの王は、ゼウトス王国を指して『魔族領』と呼んだ。

 国家とすら認めたくないという意向だ。

 

「アンヌは魔族に嫁ぐなんて絶対に嫌ですわ! 和睦なんてどうでも良いです! 全部やっつけちゃえば良いのよ!」

 

 義妹であり正妃の娘であるアンヌ王女が甲高い声で叫ぶ。

 

「ええ、わたくしの大事なアンヌちゃんを、恐ろしい魔族のもとになんて行かせませんわよ」

 

 カトリーヌの継母である正妃が、ベッタリとした声でアンヌをなだめた。

 

 「……そこでだ、カトリーヌ」


 王は重々しく言葉をつむぐ。

 

(そんな、そんな、まさか……)

 

 とまどうカトリーヌに、王は無情に告げる。


「アンヌの代わりに、魔族に嫁げ」


 王の声が大広間に響いた。


 絶望に歪む視界。体から力が抜けそうになる。

 

 しかしそのとき、カトリーヌの頭に王都の人々のやつれた様子が浮かぶ。

 窮状きゅうじょうを訴えるために、城門の外に領主たちが馬車を連ねる光景が浮かぶ。

 

 みんな、長く続く戦争に疲れ果てている。平和を求めている。

 

 王妃は溺愛するアンヌ王女を魔族に嫁がせることなど、絶対にしない。

 和睦のためには誰かが嫁ぐしかない。


(いいわ、魔族領でもなんでも、行ってやろうじゃない。まさかいきなり食べられたりしないだろうし……しないよね?)


「返事を聞いてやろう。どうだ、カトリーヌ」


 王が尊大に問う。答えは決まっているというように。


「……承知いたしました。国王陛下」


 覚悟を決めて答えたカトリーヌに、王妃と王女が蔑むような笑い声を上げる。

 しかし、カトリーヌの意識はすでに未来へと向いている。

 両国の平和を長く続けるためには、この婚姻を成功させなくてはならないのだ。

 後ろを向いている暇はない。

 

(大丈夫。なんとかなるし、なんとかするしかないんだから)

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