434話 始原会議 Ⅹ

「はぁ……会長……そのご老体でどれだけ仕事してたんですか……」

「急激に事業規模が拡大しすぎて、ダンジョン商会が各国の独占禁止法に……」


「うぅ……ハルきゅんファンクラブが……ないない被害者名簿がぁ……」


ハルを、隠れながら保護するという役目を終えた始原会議。


なにしろ肝心の相手が異世界へ行くわ、魔王に求婚されるわ、産み直されるわ、羽が生えるわ、コピーされるわ、「異世界の子供」を拾うわ、遠距離攻撃部隊に仕立てるわ、普通でないスピードで異世界のダンジョンを攻略するわ。


うっかりでそのダンジョンごと融解させるわ、ぶち切れてそのダンジョンごと吹っ飛ばして古代都市を蘇らせるわ、冗談から生まれた「ないない」で1日あたり町数個分の人々を現在進行形でポップさせるわ、魔王軍を撃退するわ、魔王をごんっするわ、無事女神として君臨するわ。


たとえ今、ふらっと戻ってきてもどうにでもなってしまうほどになったため、もはや彼らは、最早完全に役目を喪失。


つまり――かなりの金を掛けて建造されたらしい地下室は、今や丸ごとただのファンクラブの部室になっていたのだった。


ただし会員=登録者と考えると数十億という、ちょっとおかしい規模で。


さすがに各国機関が数十、数百ずつ登録しているだろうから実数ではないはずだが……それでもやはり、数字としてちょっとおかしい。


なお、現在進行形でもりもりと増え続けている――地球のみならず数々の異世界から集まり続けている――ハル信仰の地球における総本山でもあり、各地から押し寄せる喜捨――主に各地の名産の酒――の管理先であり。


全世界の軍や政界に紛れ込ませた「同志たち」の指揮系統であり、少し増えて342カ国のダンジョン商会の流通網を握っており、全世界の政界の裏を握っているという、やはりちょっとおかしい規模の組織の頭になっていた。


「そういやさ。 会長……のじいさんはもう居ないから、部長」

「なんでしょうか、姉御さん」


いくつものモニターとにらめっこをしていた姉御が、円卓の対面に居る――この数ヶ月ですっかりやつれた部長に話しかける。


「あんたら、結局どこまで知ってたのかなぁって。 ほら、あたしたちに言ってたじゃん? ハルきゅんのこと、ちょっとだけ知ってたからいろいろしてたって」


2番目に新参者な姉御は、ハルの配信に触れるまでは正真正銘の一般人だった。


まぁそのあとにハルの配信で暴れ回った結果、住所氏名電話番号卒アルその他がだだ漏れになり、あわやというところで始原に救出された結果、まさかの平OLから女社長というミラクルな展開になったわけだが。


ついでに幼い男の子が大好きな淑女たちと一部紳士たちを取り込んだ巨大ネットワーク「ハルきゅんショタっ子萌え萌えきゅん」サーバーを構築し、その頂点に君臨し。


「ないない」でその何割を吹っ飛ばした結果、「責任者だからちゃんとないないリスト作ってね♪」と、ファンクラブの登録名簿と各国大使館との往復をする作業が永遠に続いているわけだったが。


「確か……『予言の書』だっけ」


「ええ。 お見せしましたね」


「あれ、どこまで書いてあんのかとか、そもそもどーやって作った……発掘した?のかとか聞いて良い感じ? てか英語だったし、最初のとこしか見てないのよあたし」


その話が出たときと言えば、ハルが500階層に追い立てられている時期であり、規格外のドラゴンと戦っていたときであり、いきなり近海の駆逐艦から新型ミサイルがダンジョンにぶっ放されたり。


かと思いきや異世界ライフの中継が始まったりと……少なくとも少し前までは、多少のショタコンをこじらせていたとはいえ普通の女子として生きてきた姉御にとっては、怒濤の日々過ぎて。


「くわしいこと、良く覚えてないんだよねー。 ……てかそれから何ヶ月……てかもう1年じゃん! ずっとデスマで寝不足で……あああもう、お肌が壊滅してるわ」


「おばさんって大変ね」

「うん、やっぱ成人しちゃうと大変なんだね」


「……がきんちょたち? あんたらももう数年で20超えてそれ言えるんならたいしたもんよ?」


この中では年下の青年と少女へ、1年の重みを叩き込もうと低い声で警告する姉御。


「大丈夫。 あと何年かで老化遅らせる薬、ダンジョンのレベルのいろいろで解析したの発売するから」

「えっ」


「ダンジョンでレベル上がった人って老化が遅れるじゃない? それ聞いた全世界の金持ちたちにちょーっと煽ったらすっごい投資があってね。 お金に物言わせて開発中なんだ」


「何それ聞いてないんだけど」


「いやだって、姉御ってば忙しそうだったし」

「仮眠取ってるかトリップしてるかだったし」


「なー」

「ねー」


「……その薬……あ、あたしでも……?」


「あ、うん。 もちろん同志には最優先で、それも試作品段階からあげるよ」

「あんたたち……!」


『――では首相官邸から中継です』


円卓の上のモニターから付けっぱなしのニュース中継が流れる。


「……せっかく良い気分なのに……そういや、来てるんだっけ。 あの狂犬王女様」

「ついでに合衆国大統領も来てますね」


「……異世界を除いて、この世界で最も有名な勢力がうちの国に。 ……なんか起きたりしない……大丈夫……?」


「一応ダンジョン出現時にできた新興の小国とはいえ、一国の王女が居ると知りながら同盟国の領土領空領海を侵犯して一方的にダンジョン内へミサイルを叩き込み、彼女その他を盛大に巻き込みましたし」


「改めて、去年あたりのあらゆるヘイトが全部向かってただけはあるわねぇ」


「ええ。 そしてその彼女が今だ安否不明という事態に対しての公式な謝罪を、このあとに我が国のダンジョン跡地でするという形ですからね。 さすがに取れる選択肢はありませんよ」


「まぁ実質は降伏宣言さね。 王女の嬢ちゃんを消し飛ばしちまってごめんなさいってね」

「少なくとも世界の大半からすればそれが事実だからねぇ」


数個のモニターからいろいろな音声が飛び交う中、もはや何事にも動じなくなっている彼らは――昼夜の関係のない生活を1年続け、すっかりもぐらのようにおとなしくなっている。


「あ、あの子供たち大丈夫?」


「大丈夫大丈夫、もうすぐえらいことになるから」

「えらいこと? ……嫌な予感がノーネームきゅんんんんんん!!」



◆◆◆



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