220話 ダンジョン生活も、はや何日

「くぁぁ……」


「あ、女神様起きた。 ……じゃない、起きられました?」


「ふぁぁぁ……いいんじゃねーか? ヘタに褒め称えるよかフツーに敬うってのすれば」

「そ、そうねっ。 ……アル様が起きたわ!」


あれからもう何日。


私たちは――女神様たちに護られながら、生きてるの。


「あるてー」

「のうむー」


アル様が起きるのに合わせてみんなの目が覚めてくる。


だって、みんなくっついてるもん。

アル様に。


寝るときからべたーって、手も足もみんな差し込んで。


「すんすん……」


……それに、女神様の匂いって。


「キャシー……お前、朝からソレ嗅ぐと戦えねぇぞ……?」

「体の力、入らなくなっちゃうんだもんねぇ……」


「ち、違うの! ちょっと……鼻が詰まっただけ!!」


「キャシーお姉ちゃん……その言い訳は見苦しいよ……?」

「ははっ、アレクに言われてら」


「うぐっ。 ……そ、そんなことより黒い女神様! ノーム様ゲットよ!」


「お、そんなとこ紛れてたか」

「アルテさまの髪の毛、すごい量だもんね……」


アル様は……その、いろいろとすごすぎてあんまり甘えられない……いえ、寝てるときは存分に甘えるんだけど。


ほ、ほら!


ここが安全地帯、ゲームで言うとセーフハウスって場所だとしても、万が一モンスターが入り込んでくる可能性もゼロじゃないし!?


だからみんなでくっついてるの!

あと、アル様の魔法はヤバいから!


【困】


3人の手に包まれたノーム様はお人形さんみたい。


ぱたぱた羽を動かして、逃げたがる演技はしてるけど……っていうか多分逃げたいんでしょうけど、ただ抵抗するだけ。


「ほんとうにイヤなら振りほどけるもんねー」


「あのお姫様たちは畏れ多いって言いそうだけどな」

「い、良いのかなぁ……こんなことして」


反対側では、お姫様たちがぎゅーってくっついたまんま。


こっち側はノーム様で引っ張りだこ。


そんな寝起きの、キャンプとかで一緒に寝てたママやパパに甘えてるような時間。


「あ、女神様、またお行儀悪く動いてる」


実は結構のんびりな女神様、片方に張り付かれて動きにくそうにしながら……お布団ごと器用に移動して窓際へ。


女神様の、毎朝のルーチン。


周囲のモンスターの把握。


「女神様様々だな」

「お姉ちゃんっ」


「じゃ、私、朝ごはん用意してくるわね」


ノーム様を奪い合いながら仲良さそうにじゃれついてる黒髪の2人。


……私が言えることじゃないけど、あの子たちって相当の野生児よね……私もよく「がさつ」とか「男みたい」って言われてたけど、あの子たちに比べたら相当のお嬢様よ……?





アル様がモンスターを倒してドロップさせた中にあった食品アイテムのうちのサンドイッチをみんなで食べたわ。


……何言ってんのかさっぱり分からないけど、私にも分からない。


ただ、そういうものだってみんなは納得してたからそういうものみたいね。

こういうとこ、本当にゲームの世界みたい。


「あるて、ひとかり!」

「かり!」


「かり! アル様、かりに行くのね!」


かり。


多分、討伐とかハンティングって意味合い。


女神様は、よく私たちに言葉を教えてくれようとする。


……そのうちごく一部、発音できるものだけしか覚えられないけどね。


けどおかげで今から何をやるのかとかが分かるの。

まぁ大体毎日のルーチンワークは決まってるんだけど、それでもね。


女神様は頭の上の王冠の位置を直しつつ、荷物を入れた袋を拾い上げる。


「!!!」

「!!!」


みんなで素早く自分の分を取りに行く。

もちろん、私も。


――何から何まで面倒見てもらっているんだもの、だからせめて自分のことくらいは自分でできなきゃ。


もう何回もやってるから慣れてる動作。


素早く靴――これもドロップ品の、走るのが速くなるやつ――に足を通して、ベルトをはめて荷物をくくりつけて。


そして矢筒をたすき掛けに、馴染んできた弓を手に。


……まさか、パパに銃の扱い方を教えてもらう前に、原始的な狩猟の格好に慣れて弓を使いこなせるようになるだなんてね。


「よしっ良いわ!」


「あるー」

「のーむー」


……あー、今のタイミングだと誰とも話が通じない。


名前すらお互いに発音できないから、とっさに名前を呼ぶこともできない。

だからこそこの数日、みんなで話し合って陣形とか決めてあるんだけどね。


先頭を歩き出す女神様。


通路が狭いときはおひとりで、そうでなければ左右に誰かが――いざというときの盾として、あとはこの前の大魔法を使わせないための盾として。


ちょっと不服そうな顔するけど、しょうがないって顔をして左右から引っ張られるままになる女神様。


……その姿を見ると、まるでみんなのお母さんね。


なんだか安心するのよね、アル様って。


見た目は年上の女の子、でも動作は男の子みたいなときがあって、でもお姉さんみたいに優しくって。


「ま、神様なんだからよく分からなくって当たり前ね」


狭い通路を迷うこともなく進んで、その日の目的地に向かう彼女。


……この人が居なければ、ハウスに戻ることすらできない。


それが、私たち子供だもの。


「……役に、立たなくちゃ」


何もかもお世話されてばっかりの私たち――ううん、私だもの。


「まだみんなにも追いつけてないけど、でもきっと……何か。 そうよ、現代知識……って言えるほどのものはないけど、それでも何かで役に立たなきゃ」


体力は無い、走るのもヘタだし遅い、弓で攻撃できる回数も少なければ命中率も低い。


完全な、お荷物だもの。


「いつか……いつか、必ず」


みんなができないことで、女神様に恩返ししなきゃね。



◆◆◆



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