17章 彼女たちから見た「女神さま」

406話 「私たちが『女神さま』と出会う前のこと」 1

「――――私たちは、あのとき」


「女神さまに、救われたのです」


紅い髪が、なびく。


「逃されたわたくしたちが、たどり着いた先で」


「おねえさまも、わたしも…………みなさんも」


白銀の髪が、唱える。


「ま、結局過去に干渉することはやっぱり無理だったけどね」


「それでも、返したかったんだ。 ぼくたちが受けた恩寵へ」


紫の黒が、前を向く。


「あれは、10年と1年の前のこと」


「わたくしたちが、まだ幼子だったころ」


「わたしたちが、長い逃亡生活の先に迷い込んだ聖域の下」


彼女たちは、語り出す。


「いよいよ餓えるか食われるかってところでね」


「ぼく――私たちのすべてが、舞い降りてきた」


反転した姉弟が、手を繋ぐ。


「たとえ偶然でも構わない。 たとえその他大勢のうちの5人でも、構わないの」


「それでも、あの何十日か。 あの時間で、わたくしたちは」


「生き延びる知恵や技術、戦術……そして、際限の無い愛を」


「与えられたんだよな、あたしたち……いや、俺たち」


「そうよ。 だから今でも――狂おしいほど、崇拝しているの」


5人は、歩き出す。


「――さあ」


「未来/過去へ、向かい/戻りましょう」



◇ ◇ ◇



「はぁっ、はぁっ……ち、地下に逃げれば……っ」


私は。


最初はたくさんの大人たちに手を引かれて逃げていた。


『キャシー、大丈夫だからね』

『パパたちに素直に着いてくるんだ』


ママもパパも居た。


けど、少しずつ――強そうな男の人から減っていって。


『……パパはな、キャシー。 これでも高校ではキャプテンだったんだぞ』

『……ママ、パパのお世話しなくっちゃ。 キャシーは、先に行っていてね』


パパ、その次はママも居なくなって。


――最後には、私と同じくらいの子供だけになって。


みんな、持ち物なんて最後には服と靴だけになって。


だから相談して「誰か1人でも生き延びるために」って。


貴重な湧き水とか変な植物とかを、分け合う人数を減らすために――どうせあいつらに見つかったら、私たち子供じゃ何もできないから。


だから、ちりぢりになって。


私も、何人かの女の子たちと逃げて。


逃げて逃げて――世界で最も豊かで強かったはずの連邦国の限りない大地を、靴がすり切れるまで逃げ続けて。


もう、ここがどこの州なのかとか、分からなくなっていて。


「だいたい、何なのよあれ……映画とかの中のCGとかのはずのドラゴンとか怪物が、空じゅうに……っ」


私は逃げる。


深い洞窟――怖いはずなのに、それでもかすかな明かりで足元が見えるから、怖くても逃げ続ける。


空に響く音。


空を覆い尽くす炎。


空を覆い尽くす影。


「……夢。 そう、夢よね……そうよ。 きっとみんな、映画のエキストラなんだわ。 パパもママも、私に内緒で……っ」


それが浮かぶたびに、私は夢だってつぶやくの。


もう、流す涙も出ない。


「……分かってる……分かってる! けど、怖いものは怖いもん……っ」


私は、みんなに守られて――みんなを見捨てて、みんなを見殺しにして逃げてきた。


ただ、子供だからって。


まだスクールバスに乗る歳だからって。


女だからって。


同じ歳の男子たちよりは力も強いし、ケンカも強いのに。


それでも、最後は私たち、女の子供が残された。


男子たちも――「レディーファーストだからな」って。


「ばっか、……みた――――――――きゃあっ!?」


何時間、とうとう湧き水さえ飲めなくなって歩き続けていたからか、足元が見えていたのに見ていなかった。


私は、穴に落ちている。


――ああ。


私は――バカな私でも分かっていた、体の限界と後悔とでぐちゃぐちゃになった私は、静かに目を閉じる。


――パパ、ママ。


私もそっちに、行くからね。





「………………………………」


「………………………………?」


なんだか体が楽。


乾きすぎて切れた唇も痛くない。

空きすぎて気持ち悪かったおなかも、何かに満たされている。


「……ここが、天国……?」


ママとパパに、会える。


神の国に、たどり着けた。


そう思った私が目を開けると――――――


「こちらの方も、助けられたのでしょうか」


「みたい、です……お姉さま」


女の子の声――すごく綺麗な声が、ふたつ。


「そうね、さっきと同じ、見たことない術式だもの」


「す、すごい魔力、だったね……どんな術士さまなんだろう……」


女の子と男の子の力強い声――ふたつ。


「………………………………」


天国と言うには、あまりにも暗くて狭くて、何よりも。


周りにいる子たちは、どうみても天使さまにも見えない。

私と同じようにぼろぼろの、普通の子供たち。


「……え?」


ゆっくりと顔を上げた私の前。


私の前には――びっくりするくらいに銀色の髪の毛と白い肌をしている子たちと、びっくりするくらいに黒い髪の毛と色の付いた肌をしている子たちが――私を囲んで、眺めていた。



◆◆◆



新章は、もちろん……なぜか名前すらほとんどハルちゃんに伝わっていなかった5人のおはなしです。


ということは、彼女たちから見たハルちゃんが……?



新鮮な現代TSラブコメを投稿し始めました。もちろん百合です。『TS転生後の静かな高校生活は愛が重い子たちに囲まれておしまい!』https://kakuyomu.jp/works/16818093087422185806



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