404話 子供たち捜索隊
びゅうううう。
強い風が吹いている。
【ここどこよ?】
【最初の町のいちばんでかいビル】
【あー】
【なんか伸びきって先が雲に隠れてた場所】
【あー】
【キマシタワーだよ】
【あー】
【草】
りんごーん、りんごーん。
黒と金の鐘が、鳴っている。
【その屋上は……】
【雲の上】
【わー、上を囲ってる魔力の糸っぽいのきれー】
【確か宇宙からの襲来への防衛戦だったか】
【防衛線では?】
【この風景の何もかもが地球じゃないね】
「けど……ここ、何階なんでしょう。 数百階かしら」
「そもそもエレベーターで、なんでこんなところまで直通で来られるんですかぁ……」
柵のない屋上だからか、エレベーターの入り口――屋上にぽこっと出てる四角い箱――に張り付いてる九島さん。
飛べないと怖いよね。
高所恐怖症じゃなくても怖いはず。
風とかびゅうびゅうだし。
……なんでここ、柵がないんだろ……僕たちみたいに空飛べる人しか来ないからかな?
「エレベーターに乗っているだけで耳の空気抜きを何回もしましたし、あと、空気が……」
「薄いよねぇ……あと、さぶぅぅぅぅい!!」
えみさんもるるさんも中腰になって、さらに寒そうに体を抱えている。
「……ハルちゃんたちは平気なの……? そんな格好で……」
「布1枚……なんでもはいてると力が出し切れないなんて、なんて素敵な仕様なの……! ああ、風よ! もうちょっと角度をずらして下から吹き上げて……!」
【えみちゃん……】
【草】
【とうとう風にまでお願いしてるえみちゃん】
【えみちゃん……】
【まぁ確かに】
【えみちゃんの言うことすべてにうなずけはするよね】
【えみちゃんは俺たちの欲望の代弁者だからな】
【なんかかっこいいよね】
【最低だけど?】
【草】
【ハルちゃんノーネームちゃん、くしまさぁんに怒られてはいてたけど、今日ははいてないんだよね】
【強風でおっぴろげににににに】
【草】
【あーあ】
【えみちゃんだけずるい!!】
【大丈夫大丈夫、るるちゃんたち巻き込んであっち行ってるから】
【草】
【草】
10日後を待ってって言われて待っていた僕たち。
そのあいだにはるるさんにとにかく張り付かれたり、えみさんを踏んであげたり、九島さんに怒られたり――なぜか結局毎日一緒にお風呂に入ったり。
散歩をすればわらわらと寄ってくる人たちで忙しくて、さらに1日何十組か、各世界の各地の各お偉いさんたちと挨拶したり。
そのあいだにも町の周囲では戦闘が続いてたし、ノーネームさんに……ないないだっけ?……された人たちがポップしてきたり、その人たちのための町がにょきにょき生えてきたり。
わりと退屈しない10日間だった。
それなりに楽しかった。
――本当は1日ずつじっくり楽しみたかったけども、今はあの子たち。
忙しくてほっといたら危険な目に遭ったかなにかで、ノーネームさんが安全圏に逃がしてくれた、子供たち。
「……ハルちゃん、本当に行っちゃうの」
「はい。 1度面倒見たからには、無事を確認して……この世界に来てるなら、あの子たちの親御さんとかに返すまでが責任ですから」
るるさん。
髪の毛は伸びてるし、あんまり反応しないとなんか様子がおかしくなるし、「彼女」とか「奥さん」とか「女の子同士」とか「重婚」とか「出産」とかいろいろ不穏なワードをつぶやくことも多かったけども、僕の知ってる彼女っていうのは変わらない。
「飲みすぎないようにしてくださいね。 ハルさんのカメラで、しっかりと見ていますからね」
九島さんが目を光らせてくる。
「ノーネームさん、この配信止められません?」
「むり」
「そうですか……」
どうやら彼女からは逃れられないらしい。
【草】
【くしまさぁんが見てる】
【今度は配信されてるって知ってるから言い逃れできないよハルちゃん!】
九島さん。
面倒見が良くって委員長さんで、お酒のことも毎日怒られはするけども何でもかんでもダメってタイプじゃなくって、どうしても飲みたければしょうがないって感じの良い子。
「……見え……見え……」
「えみさん、落ちますよ? ていうかお風呂で毎日見てるじゃないですか」
「見れてない!! ……見れてない……!!」
「あー、九島さんに目隠しされてますもんね」
えみさんはもうだめだった。
なんかもう、明らかにだめになってた。
……僕のせいなのかな……えみさんってば、ノーネームさんと僕以外にはそこまでこんな残念なことにならないし。
中途半端に欲望を満たしてあげちゃったせいなのかな……僕のせいなのかな……いやいや多分本人の資質だからどうでもいいや。
【えみちゃん……】
【ほんとうに残念に……】
【ここまでおかしかったっけ?】
【えみちゃんなりに会えて嬉しかったんだろ】
【1年分の性欲だもんな!】
【草】
「後のことはお任せを」
「お爺さん……あ、会長さん」
「今の儂はただの老いぼれですじゃ」
「この世界の戦闘の指揮してるんですからまだまだ現役ですよ」
この世界には、数百を超える集団が集まっている。
それらを取りまとめる組織みたいなのがいつの間にかにできてて、お爺さんはそこで活躍しているらしい。
ノーネームさんが地球からないないしてきた人たちも増えていく一方だし、まとめ役は大切だよね。
「ハル様、ノーネーム様への信仰を厚くしてご帰還をお待ちしております」
「いえ、ほどほどで良いですからね?」
でも、もうちょっと自分のしたいことしたら良いんじゃないかなって思う。
【草】
【爺が恐ろしくて】
【ハルちゃん以外には怖い爺さんだからなぁ】
【昨日も「体が鈍った」とか言って残党に突撃してたよね】
【ま、まあ、他の世界にも似たような死狂いがいっぱいいるし、そいつらまとめてくれてるし……】
りんごーん、りんごーん。
鐘が鳴る。
その鐘の下。
そこへ――黒い渦が出現している。
「はいる」
「入った先にあの子たちが?」
「ん」
ノーネームさんは何でもできるけども、そのほとんどを言いたがらないちょっと変わった子。
でも、彼女のすることには間違いがない。
よく分からないけども、彼女なりに僕たちを助けてくれようとしている。
それだけは、間違いないんだ。
だから僕たちは2人で――
◆◆◆
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