171話 システムの違うダンジョン

ひゅんっ……ひゅんっ。


びちゃっ、びちゃっとはじけ飛ぶいろんな色の粘着性。


「……弱っちい……じゃない、なめくじ……じゃない、浅い階層のスライムばっかりですね。 大きさとか強さはばらばらになってきましたけど」


【草】

【なめくじ呼ばわりで草】

【ああ、でも言われるとそうだよなぁ……】

【ぷるぷるしてないもんな】

【やっぱ、見た目はそっくりでもちょっと違うっぽい?】


【「お兄ちゃんはくそざこなめくじです」って言われたい】

【「こんなこともできないんですか。 なめくじさんですね」って罵られたい】

【「ざーこ。 くそざこなめくじー」って言われたい……】

【このローテンションでぼそっと言われたい……】

【お前ら……分かるぞ】


あれから何個かめの部屋。


……さすがに疲れてきたし、時間的にも多分夕方かな。


スマホも完全に電源切れてたのを充電し直したわけで、この時間が正しいかも分からないもんなぁ。


一応それからは、スマホの24時間に従って過ごしてるわけだけど、外の光がないからね。


【しかしタフだよな、ハルちゃんって】

【延々と進んでるもんな】

【まぁスライム以外いないっぽいし】

【多くて2発だもんな】


【ただしべちょっとしてるらしく、石の再使用は不可】

【くさそう】

【べとべとしてそう】

【で、ドロップがないから矢も手に入らない】

【もちろん銃そのものも】


【……詰んでない?】

【詰んでるな】

【詰んでるとしか言えない】

【ほんと、きちゃない袋持ってて良かった……】

【ああ……とりあえず何ヶ月か、生きるだけならって言うし】

【ハルちゃんのご本だって、たまに発電機で充電しないとだって言うしなぁ】


薄暗い部屋の中ではじけ飛んでるスライムたち。


多分レベル的には相当低いよね……使ってるのは高品質のスリングショットとそのへんに落ちてる石、で、僕自身のレベルもスキルも低いだろうから「とりあえず初心者から中級者のあいだくらい」としか分かんないけども。


3週間……その前の休んでたのも含めて1ヶ月。

あの間、じっとしててほんと良かった。


「……そろそろ休みたいので、次かその次の部屋に行きます。 多分多くて数体で、広い部屋ありそうなので」


【りょ】

【しかし索敵スキルって便利だな】

【※普通は鍛え始めて1週間でこんなにはなりません】

【※5年選手でもここまではなりません】

【※最初期からの10年選手でも難しいです】

【知ってる】

【大丈夫だ、ハルちゃんは特別枠だから】


きちゃない袋に入ってた飴玉をころころしながら先へ。


「……………………………………」


何もない部屋。

何もない通路。


――「トラップさえない」異常さ。


これじゃまるで、このダンジョンが僕たちの知るゲームみたいなシステムのじゃなくって――「こんな世界になる前の、本物のダンジョン。 モンスターの住処なだけの空間」みたいじゃんか。





「……広いですね、ここ」


それから10分20分。


もう、廊下で飛び出してこないって分かってるからぽてぽてと歩くようにしてて、体も楽。


ちょっとした探検だね。


索敵スキルは……前に比べたらすっごく弱くても、これくらいの距離なら……前に比べたらすっごくぼやけてても、何となく数くらいが分かるってレベルなのは分かってる。


最低でも、いるかいないか分かる。

地味に貴重なスキルだよね。


だからもう、少ないながらもたくさん寝て少しは回復してる魔力で脚を増強しつつ……たまにつぶやきながら読書しながらだったから気軽な探検だ。


なんだか子供に戻った気分。

本当に子供になってるけどね。


【ひっろーい】

【ハルちゃんの目線からだからってのもあるけどな】

【最初のとこほどじゃないけど広いね】

【中ボス部屋……いや、もっとか】


【まぁ居たのはおなじみただのスライムだけどね】

【レベル的には高くても5とかだろうな】

【まあまあ、安全なのはいいことだから】


【手前の小部屋にはスライムたちが居たけど】

【ここは平和だな】


「……………………………………」


索敵スキルには……反応、なし。

じゃあ多分、大丈夫なんだけども。


ひゅんっ。


ひゅんっ。


【けど慎重だな】

【罠感知も落ちてるって言ってたし、こんなとこでケガしたらシャレにならないからな】

【あー、ヒーラーいないしリストバンドないから】

【そうそう、基本遠距離から狙撃だから大丈夫だけど、だからこそ後衛組にはトラップとかが致命的なのよ】


かつん、かつんって落ちる石。


……うん、確かに罠は無い。


「どうやら最初の部屋と同じ感じですね。 地面にも罠はなさそうですし……多分セーフゾーンなんでしょう。 さっき入った小部屋とは近いですけど」


スキルもレベルも落ちてるから根拠は無いけどね。


「なので、ここでも良いくぼみ見つけて僕のにします」


【草】

【草】

【「僕の」って】

【かわいい】

【そういや僕っ子だったハルちゃん】

【こういうところであざといアピールを……もっとやれ】


【しかし今日のハルちゃん、これまでになくアクティブだったな】

【この1ヶ月間、ずっとあの大部屋で寝てるか地味すぎるスキル上げするかだったもんな】

【おっと、晩酌も忘れるな】

【ああ……】


【あのせいで、ダンジョン協会が直々に「ハルちゃんはダンジョン内では成人扱いです」ってわざわざアナウンスしてて草】


【草】

【諸外国からものすごいクレーム来てたっぽいもんな】

【「お前の国は未成年飲酒を推奨しているのか!」っていちゃもん付けられてて草】

【そらそうよ(n回目】


【ハルちゃんのせいで、テレビのCMでも「未成年の飲酒はダメ絶対」ってめっちゃ流れてて草】

【元はるるえみの中間くらい?の見た目でも、今は完全に幼女だからなぁ……】


「……………………………………」


ひゅんひゅんって適当に石を投げては拾い、罠がないことを確認しながら部屋の中心へ。


……まだ歩くのかぁ……もう疲れたけどもうちょい。


もし罠が本当に無いんだったら、ここでまた体力回復とかの拠点にもなるし、疲れたら戻って来る場所のひとつになる。


最初の部屋から、廊下は反対方向にも伸びていたんだ。

ここはじっくり長期戦で探索しないとね。


「あ、そういえばこのダンジョン。 ものすごく広いですよね」


【そうだな】

【すっかり忘れてた】

【そうだよなぁ、いくらハルちゃんが幼女だって言っても、普通何時間もかけたら上か下の階段にはたどり着くだろうし】


「足の裏が疲れてますし……ですので、ものすごく深いところにあるダンジョン。 500階層くらいかどうかは……あのときのイスに乗って飛んでたので分からないですけど」


あー。


あのイスっぽい何か、ほんっと楽だったんだなぁ。


【ああ、あのイス……】

【せめて空飛ぶバイクとか言ってあげて……】

【イスさんかわいそう】

【いや、あれ、どう考えても設計がダメなんだと思うぞ?】


「ひょっとしたら次の部屋にでも階段があるかもしれませんし……やたらと廊下が長くて左右へのカーブが多かったので、このダンジョンそのものがワンフロアで広ーいのかもしれません。 ……そんなダンジョン知りませんけど」


【めっちゃ早口のハルちゃんで草】

【かわいい】

【好きなことになると途端に早くなるよな】

【でも確かにな】


【何十何百フロアが1フロア……もしそうだったらそりゃあ広いよなぁ】

【幸い、ほぼ一本道。 なんとかなるだろ】

【とにかくハルちゃんの進撃を見守ろう】

【ああ】



◆◆◆



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