169話 あって良かった索敵スキル、お酒休憩

【いつも思うけどさ、ハルちゃんのメンタル強すぎない?】

【だってただの人間とは違う思考回路の天使だもん】

【冗談で言ってた天使もマジっぽくて草】

【ここまで来ればなぁ】


【いくらダンジョンの深くっていう魔力が濃い場所でレベリングしてたって言っても、いくらレベルダウンしてたって言っても、やっぱ1ヶ月でここまで伸びるのは人間じゃないよなぁ】


【けど、分かるか? こんな密度でひたすら特訓するのって普通は無理だぞ?】

【だよなぁ】

【ま、まあ、ダンジョン内、それもなるべく深いところでひたすら壁打ちとかでもレベリングできる?かもって分かってのはめっちゃでかいから……】


かしゃん。


両手には使い慣れない狙撃銃。


両腕には軽く手小さいシールド、頭にはヘルメット、その上に浮いてるカメラ。


胴も脚も、僕の体にはちょっと大きいけどもちまちま削ったりして使えるようにしたプロテクター。


うん。


これだけあれば、一撃で意識を刈り取られたり体が壊れるレベルの攻撃受けない限り、なんとかなるでしょ。


「……………………………………」


ちょっと、怖い。

初心者だったころくらいには、怖い。


だってここは敵の強さ不明、難易度不明、広さも階層もモンスターの属性もなにもかも不明――そもそも出口に繋がってるかさえ不明。


「死」が近いんだもん。


でも。


「るるさんたちに、無事を伝えないといけませんからね」


【ぶわっ】

【格好良すぎて涙出て来た】

【俺も】

【こういうところは漢なハルちゃん】

【強メンタル過ぎる】

【抱いてててててて】

【おっとノーネームちゃんガードだぞ】


うん。


じゃあ、久しぶりのダンジョン攻略――始めよっか。





「……………………………………」


そっと部屋の外へ、手のひらサイズの鏡を突き出す。


……暗さに目は慣らしている。

うん、左右にモンスターの姿は無し。


廊下の広さはかなり大きい様子。


そして直線の先は真っ暗で、今の僕のスキルじゃ見えないし――なによりこのフロアや上下の気配が分からなくなってる。


スマホのライトを突き出して、明るさも確保。


……うん、反応はなし。


【どきどきの瞬間】

【セーフゾーンだろうと分かってたからこそ、1歩でも出ると怖いよな】

【でも出方がほんとガチなんよ】

【ただでさえちょっとおかしいいろいろを、さらに動きとかで完璧にしてるハルちゃん】

【安心できるな】

【ああ】


……こういうときは適当に進むのみ。


もともと今日は威力偵察の意味合いが強いんだ。

なら、少しずつマッピングしていく感覚で行こう。


【直線の廊下か……遠くは見えるけど怖いな】

【カーブからいきなり出て来るよりはマシだけどな】

【それな】

【遠距離職だから視界が開けてる方が良いのは確かだけど、ブレス系とかが怖いよね】

【ハルちゃんがんばえー】


……廊下は上下左右……3メートルくらい。

やっぱり相当深いんだね……まぁ元が500階層だったし。


ノーネームさん、僕のこと、どこへ飛ばしたんだか。

……多分守ってくれたんだろうとは思うけどね。


【小走りになったハルちゃん】

【体力大丈夫かな】

【まぁ通路で囲まれたらおしまいだしな】


音を立てないように、息が上がらないように。


これからの攻略でどのくらい体力が出るのかの目安にもなるんだ、いろいろ試さないとね。


……ついでに、それなりに回復してきた魔力も、レベルとスキル依存だろうからどのくらい使えるかも、だ。





かちゃっ。


……この部屋も、クリア。


【居ないなぁ】

【モンスター居ないね】

【これで5部屋目か……ちょっと休んだら?】

【もう30分だもんな】

【ダンジョン深層を心許ない装備とリセットされたレベルにスキル、しかもソロで攻略しての30分は神経すり減るもんな】


【ハルちゃんなら大丈夫なんじゃ?】

【レベルダウン分いろいろ落ちてるはずだし】

【あ、また廊下に出た】

【まだまだ行けるのか】

【でもハルちゃんの声が聞けなくて俺しょんぼり】


【始原もしょんぼり】

【久しぶりの始原だ! 囲め!】

【つうか居たのかよ  全然コメントしなかったのに】

【潜んでいたのだ】

【だってハルちゃんが動き出したんだぞ  もちろん実況するとも】

【もちろん24時間交代で監……実況してるけどね】

【草】

【さすがはハルちゃんガチ勢だ】


【けどこういうときにるるえみのコメントがないと寂しい】

【あー、最初のころ、るるちゃんがねぇ……】

【「今後は本人たちからは、基本的にコメントはしません」って事務所からのお達しだし……】


大部屋で地道にスキル上げしてたから分かるけど、やっぱり体力も結構回復してるね。


まぁその前に比べるとぜんっぜんなんだけども、30分を歩きと小走り繰り返す程度じゃ、疲れこそ感じても息は上がらない。


そのほとんどは魔力って言う未知の力のおかげなんだけども……さすがに1ヶ月して魔力も回復したし、ここが使いどころだね。


……見えて来た次の部屋も空き部屋なら、ちょっと休もっと。


水分補給はこまめにしてるけど、今の僕がどのくらい連続稼働できるかわからないもん。


……かちゃっ。


「……ここにも居ないので、休憩します」


【良かったー】

【いや、全部空振りなのも良くないけどな】

【モンスターの情報皆無だからなぁ】

【ハルちゃん自身の戦闘力もな】


「でも、索敵スキルにようやく反応しました。 多分……10分くらい歩いた先に、モンスター、居ます」


【マジか】

【ならここでしっかり休まないとな】

【とうとうモンスターとの接敵か】

【しかし索敵スキル、前ほどじゃなくてもかなり出るのな】


【10分ってことは数百メートルか……標準的な斥候職の練度だな】

【この段階でもう中級者のレンジャーってこと?】

【他のスキルとかがどうかは分からないけどな】

【ならちょっとだけ安心できるな】

【ああ、後はここのモンスターだけだ】


久しぶりに、モンスターがちょっと怖い。


ちゃぷっ……きゅぽんっ。


【草】

【そして流れるように酒瓶を取り出すハルちゃん】

【もう完全に隠さなくなってて草】

【そらそうよ】

【この3週間毎晩呑みながらご本読んでた幼女だ、面構えが違う】

【ハルちゃんのお顔観たいよー】

【夜まで我慢だ  お休みを言ってくれるそのときまで】

【ああ……!】


「ふぅ」


体に染み渡るような感覚。


うん。

やっぱりお酒は命の水だね。


じゃ、足を休めて体のストレッチしたら出発だ。



◆◆◆



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