152話 幼女な匂いと、後ろから来てた彼女たち

「んー……すんすん」


何となくぼんやりした朝。

おもむろに僕自身の匂いを嗅いでみる。


やっぱり子供だからか、それとも女の子だからか両方か分かんないけども、体の匂いが違うんだ。


まぁ見た目からして別人だし、性別も年齢も人種も違うんだから当然と言えば当然だし、さらに言えば多分嗅覚もちょっとは変わってるはずだから当たり前なんだけどね。


だんだん慣れてきたけど……なんて言うんだろう。


前の僕も別に臭かったわけじゃないけども、母さんからは「臭い」って言われ続けた記憶。


毎日お風呂に入って服も変えてても言われたもんね。

だから「母さんは鼻が良すぎるんだ」って言い返してたものだけども。


「すんすん……う〝ぅ……」


……確かに、今になって分かるけども……臭い。


思いっ切り吸うとむせそう。

同時に「僕は臭かったんだ」ってメンタルもむせそう。


でもこれは多分、女の子になってるから臭いって感じるのであって、これは男の匂いなんだ……って信じたい。


もし僕が臭かったら?


泣く。

さすがの僕でも。


だからきっと違うんだって僕自身に言い聞かせるとして、きっと異性のにおいはどうしたって臭いものなんだろう。


そういう結論。


この体も、僕的にはそんなに臭くないどころかむしろ良い匂い。


家の中に残ってる男の僕臭を感じるけども、この体になって買った服からはしないってことは、やっぱり体臭ってのが違うんだと思う。


彼女とかできたことないから分かんなかったし、


「……………………………………うぅ」


……い、いいじゃん、彼女さんなんかいなくったって。


今の僕は女の子なんだぞ?

女の子の体を自由にこうして嗅げるんだぞ?


「すんすん……あー、甘い匂い」


……もうこんだけ経ってるんだから、明日明後日に体が戻るってことはないだろう。


下手すれば、これからずっとこの体なんだ。

つまり、この体は僕自身。


僕自身の体なんだから好きにしても良いよね?


「……た、例えばぁ……」


え、えっちなこととか?


興味が無いと言えば嘘になる。

だって男だもん。


……今まで本の方が大切だったから嘘偽りなく興味がなかったけども、今はこの体なもんだから気にはなってるんだ。


「……………………………………」


しばらくじっと手を見つめる。


「……な、なんか怖いしやっぱやめとこ……」


やっぱやめることにした。


ほ、ほら、こんな幼児体型な幼女に興奮するようになっちゃったら困るし?


男に戻って幼女にしか反応できなくなったらいろいろおしまいだし?


それにやっぱり……女の子のだとすっごいって言うし……いや、ほら、いかがわしいのは見たり読んだりはしないけども、どうしたって小説とかでそういう場面とかあるから……ね?


「ふぅ」


しないって決めると諦めると楽になる僕。

僕は本質的に小心者なんだ。


この歳……何歳だろうね……で、頭がぱーになっておしまいとか悪夢以外のなんでもない。


本を読めなくなったら僕は僕じゃなくなるんだ。


それで道を外して男を求めて……とかになったら僕のアイデンティティーなんて吹き飛んじゃって、それこそ本当、ただの危険な幼女になっちゃう。


この考えは封印だね。


あくまで幼女は愛でるもの。

ノータッチなんだ。


……お風呂でもなるべく触らないどこう。


小さな女の子でも興味本位で触って……ってあるみたいだし。

そんな変態的な知識もまた、どっかの文学作品からの伝来だ。


ちょっともったいないけども、男に戻れなくなるよりはずっと良いよね。


けどなんかもったいない気もする。


「うぁ――……」


せめて。


せめて早く、この情緒不安定ささえなくなれば……。





あの頃はそんなこと考えたっけ。


懐かしいなぁ。


――ひゅんっ。


【おめ】

【グレーターグリズリーを弓で一撃か……】

【改めてすごいスキル】

【どんだけ組み合わせるとこうなるんだ?】

【もうすっかり元通りね、ハルちゃん】


この体になって1ヶ月。


お風呂もトイレもへっちゃらになって、あの頃のがなんだったのかってくらいに落ち着いて久しい。


最初の頃のどきどきはすっかり薄れて「この体が僕自身でしかない」って思えるようになってしばらく。


ようやく前の水準まで戻って来た気がする。


案外かかるもんだとも思うし、他人の体でここまで馴染むのにたったの1ヶ月って気もしてくる。


なんだか不思議な記憶。


そんな回想をしてるあいだに、熊さんなモンスターがずしんと倒れる。


【と言うかさ、ハルちゃん、隠蔽スキルすごくなってない?】

【今、数メートルまで近づいても気づかれてなかったな……】

【ああ……普通にとことこ歩いて近づいて】

【そこから矢をつがえて引き絞る音、してたのにな……】


【えっと、そこまでの隠蔽スキル、もうそうそういないんじゃ……】

【さすがハルちゃん】

【さすハル!】

【もうそれでいいや……】


体力のなさは健在。


この言い回しが合ってるかどうかは不明だけども、結局戻ることはない。


肉体が違うんだもんね。


でも、増えた魔力でパワードスーツ的な運用で前の僕と同じくらいには動けるようになった。


……これって前衛さんのスキルなんだけどね……いつの間に使えるようになったんだろ。


まぁいいや、便利ならそれはそれで。

得になることについては深く追求しない方が良いんだ。


うまく行ってるうちは変なクセとかあってもそのままにしといて、うまく行かなくなってから改めて修正。


弓の基礎を学ぶために通った公民館の袴着たおじいさんが、そう言ってたっけ。


【今、何階層?】

【ちょうど80階層だな】

【もしかして:中ボス】


【記録によると、生え替わりの時期に最深部を撃破したパーティー、中ボススキップしたらしいな】

【ただの湧きじゃなかったか】

【確かにでっかかったもんな】

【なるほど】


お、良いドロップ。


いくら補強できるとは言っても、単純に背負えるリュックがちっちゃい以上、拾うのは厳選するしかないもんね。


「!」


最近はすっかり慣れた、感度高過ぎなアンテナもとい索敵スキル。


そこに反応。


……今日は引き返す予定だったけども、すぐ上のフロアから降りてくる人たちがいる。


このフロアは階層丸ごとワンフロアだから隠れる場所もない……仕方ない、降りよ。


普段よりちょっと気合入れてるけども、そろそろ引き返さないと行けない時間だもんね。


【あ、先に進むんだ】

【なるほど、パーティー来てるな】

【マジか  誰かの配信?】

【ああ、ほら、最近大人気なパーティーの】

【誰よ?】


隠蔽スキル使っても見破る人は……相当減ったみたいだけどまだ居るもんね。


1年で1人くらいしか見破れなくなるまでは、絶対に過信しないで隠れ続けよう。


それが長生きの秘訣だと思う。


【はやい】

【ハルちゃん、普段は歩きなのに敵パーティーから逃げるときだけ全速力だもんな】

【敵じゃなくて味方だからな!?】

【大丈夫、ハルちゃんにとっては敵だから】

【人間まで敵かよ】

【草】



◆◆◆



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