33話 【コラボ配信】「ふたりはるるハル!」3

「ふぅ」


たんっと撃ってリロード。


慣れてるけども、遠くの敵をピンポイントで狙うのって神経使う。


こうやってまとめて処理すると楽だからやってるけど、何分か続けると知恵熱っぽいの出て来るからやりすぎは危険。


まぁこの体で1体ずつ接近戦するよりはずっと楽なんだろうけどね……しょせんは幼女だからさ。


「……は、ハルちゃーん……」

「? はい、るるさん」


……そう言えばすっかりるるさんのこと忘れてた……ごめんね。


そう言えばついでで、これ、配信だったよね……まーた忘れてた。


「ちょーっとストップしてもらって良い……かな?」

「でもまだ6匹残ってますよ? あ、射線にあと2匹」

「いいから。 ね?」

「あ、はい」


僕の疲れを見抜いたのか、るるさんが僕の近くに来る。


【とうとうのるるちゃんインターセプト】

【1分くらいか……虐殺が続いたな……】

【モンスターが映ってたら「見せられないよ!」だったな……】

【ああ……】

【なぁにあれぇ……】


【レベルはともかく、何十のモンスターを動かずに1分で狩り尽くすとか】

【問題は俺たち誰1人として見えていないことだな……】

【ああ……】

【配信なはずなのに音でしか判断できない悲しみ】

【草】


【だってハルちゃん、カメラで映らない暗くて遠いとこのモンスター狩っていくだけだし……】

【やっぱりいつものハルちゃんな配信になったな……】


【無言配信……なるほど、これが……!】

【一切に見どころはないのに、見る人が見れば手元を見たくてたまらない逸品になってた気がする】


【憎い演出だね。 いや、ハルちゃんの天然な素なんだろうけど】

【これでも事務所の企画だぜ? 最大手の】

【ま、まあ、相方がるるちゃんだし……】

【ハルちゃん……せめて手元……参考になるどころじゃないから手元を……】


コストを気にしなくて良い。

これほど素敵なことはない。


だから、気が付けば無心で引き金引いてた気がする。

ついでにるるさんも引いてる気がする。


もしかして……やっちゃった?


「うん……ハルちゃんはすごいけど、一応今は配信だから……ね?」

「みなさん退屈しちゃいますよね。 あ、でも、あのモンスターとかほっといたら大変なことになりません? るるさんが」


【やさしい】

【ハルちゃん良い子】

【けどこの階層レベルならるるちゃんでも無双できるのよね、多分】


【るるちゃんもレベル自体は結構あるからな】

【何も無いところで転ばなければな】


「私もよくえみちゃんに言われてるんだけどね? 配信中は無理のない範囲で来てくれた人を楽しませるんだって。 だから……えっと。 ここからは私がモンスター引きつけるから、それをハルちゃんにお願いするってのはどうかな?」


ふむ。


考えてみたら僕にはそういうのが致命的に欠けている気がする。

いや、気がするんじゃなくて多分無いんだろう。


だってめんどくさいし……ほんとなら今日も黙ってひとりで配信したかったし。


そのへんのとこ……んー、どうしよっかなぁ、これから。

るるさんたちと一緒ならこういうの増えそうだけど……。


【まぁ実際るるちゃんの言ったやり方の方が人気は出そうね】

【けど俺たちはハルちゃんについて行くぜ】

【始原たち……】

【さすがは始原】


【ハルちゃんの声すら分からない状態から、何年も追い続けて来たっていう猛者たちよ……】


「……そうですね。 とりあえずコラボしてるあいだはるるさんの通りにやってみます。 それでめんどくさすぎたらやめます」


「ありがとっ。 ……もしかして今もめんどくさい?」

「はい、とても」


「どのくらい?」

「ここから見えてるいい感じのくぼみに入り込んで30分くらいごろごろしたいくらいには」


【素直すぎて草】

【素直すぎるけどダンジョンの中でごろごろする発想は】

【普通の幼女には無いんだよなぁ……】


【いや、普通の大人にも無いぞ?】

【つまりは変…………こんなときにインターホンこぇぇよ!?】

【もはやみんなのトラウマで草】


【こういうところはロリっ子な反応だよな】

【ショタは……?】

【姉御は好きにすればいいだろ】

【何、急に弱気になってるんだよ! もっと荒ぶれよ!】

【草】


「そ、そう……だよね、お家でも普段は寝っ転がって本読んでるだけだもんね……」

「生来の気質なんです」


「ほっとくとそれだけで1日が終わるもんね、ハルちゃん……」

「そんな僕のこと、みなさんで囲んで髪の毛結ったりヘアピンつけてきたりするんですよね」


【\2000】

【\12000】

【いちゃいちゃ場面、ぜひボイスだけで良いので実況してください】

【そのときのるるちゃんの手元だけで良いから見せて……】


【年上の女の子たちにもてあそばれるハルちゃん……ひらめいた】

【通報した】

【開示請求した】

【勘弁してください】

【草】





「……ハルちゃーん、連れて来たよー!」


あれからちょっと。


「ハルちゃんは始原さんたちのコメントでも読んでてあげて?」って言われた通りに相手してたらるるさんの走る音。


「……思ったんですけど、モンスタートレインしてくるのってどう考えても敵対行動ですよね」


【草】

【確かに】

【まぁ恨まれるどころか後で訴えられても文句は言えないな】


モンスタートレイン。


自分が敵わないモンスターから逃げてるうちに別の人に押し付けちゃう形になるあれ。


ほとんどはわざとじゃないだろうけども、一応やばい行動だからわざとだったら結構な重罪ってことになってる気がするあれ。


【実際されると殺意は湧くよね……まぁするのって大抵無理してレベル以上のとこ来ちゃったヤツだから大目に見るけど】

【誰でも新人の頃に1回はやらかすもんな】


【いや、誰でもじゃないぞ】

【えっ】

【お前、押し付けた相手に謝ったんだろうな?】


【るるちゃんですらしたことないくらいだし、初心者講習まじめに受けてればそうそうないはずなんだけどなぁ……】


スナイプはともかく、配信とかトークについてはるるさんの方が圧倒的に経験者。


何とでもなるけども、とりあえずでるるさんの指示を待つ偉い僕。


「るるさん、脚が速いですね」

「伊達に普段から大変な目に遭ってないからね!」


【悲しい】

【元気出して】

【るるちゃん自身は普通にがんばってるのにどうして……】

【どう考えても呪い様だろ】


【やめろ、そのワードでこっちに来たらどうする】

【草】


【るるちゃんとえみちゃんの配信じゃ、もはや「名前を呼んではいけない存在」として定着してるの草】


僕は基本的に動かない。


家でもそうだけどもダンジョンでもそうだ。

だってずっと隠れてるからね。


だから隠れることとか敵を観測することでの経験値が普通の人よりずっと多くって、代わりにフィジカルはからっきし。


レベルこそ……★とか付くくらいにはなってる高さだけども、魔力でのブースト使っても大して速く走れないし、スタミナ切れですぐに倒れ込んじゃうんじゃないかな。


だからそういう意味ではるるさんはすごいって思う。


あと、スカートがちらちらしてるけど……なるほど、タイツか。

あー、僕も履かせられたのこういう理由だったんだね。


【●REC】

【●REC】


【!? るるちゃんの配信だとガードされてるけど、ハルちゃんのからだとちょっと見える!!】

【ああ……ハルちゃん、ちっちゃいから……】


「え〝!? うそっ!? ……あ、タイツだしその下は見せパンだから大丈夫だったんだ」


「るるさん、そう言うこと言わない方が良いって思います」

「? だって本当だよ? 見る?」

「見ません」


【ああああああ】

【ハルちゃん何と言うことを!!】

【走ってきて汗だくのるるちゃんがたくし上げてたのに!!】

【ちくしょう!】


「ほら、こんな感じでヘンタイさんたちが湧きますから。 男って悲しいヘンタイさんばかりですから気をつけてくださいね?」


【はーい】

【おいお前ら言われてるぞ】

【ハルちゃんの理解度が高すぎて感激】

【しかも淡々と言ってくれるっていう……ふぅ……】


【ハルちゃんのジト目……良い……】

【きっとジト目してる。 信じてる】

【始原のデフォルメアイコン見て癒やされよう……】


【三日月えみ「**************」】


【えみお母さん!?】

【草】

【まーたるるちゃんのだよ……】

【えみちゃん、入り口辺りで待機してるはずなのに……】


あー、もしかしてえみさん……君、「ヘンタイさん」で反応して書き込もうとした?


ごめんね、うっかりしゃべっちゃって……帰ったら呼んであげるから我慢して?


【ってそんな場合じゃなかった】

【ハルちゃんモンスター来てる! 来てるよ!】


【ハルちゃんの配信で映ったモンスター……何匹目くらい?】

【……そう言えばろくに映ってねぇ!?】

【草】


【ダンジョン配信なのにモンスターが映らないとか……】

【だってハルちゃんだし……】

【ま、まぁ、遠距離職の配信はわりかしそういう傾向あるから……】


「るるさん、じゃあどっちかに避けてください」

「うん!」


こういうときに左とか右とか言うと「どっちから見て!?」ってことになって事故りやすいらしい。


るるさんとは何日か一緒だけども、こうしてダンジョン潜るのはほぼ初めて。

だから僕がるるさんに合わせるって形になってる。


「えいっ」


どんっ。


ぴしゅっ。


【お見事】

【俺、この配信で初めてまともな攻撃見たかもしれない】

【確かに】

【普通にレベル相応のモンスター、普通の距離で普通に……これで良いんだよ】


「でもすごいねハルちゃん、動いてるのにちゃんと一撃って!」

「僕の方がレベルもスキルレベルも高いですし」

「それでもすごいよ!」


どんっどんっ。


るるさんがぴょんぴょんしているのを横目で見つつ、るるさん目当てに突撃してきたモンスターたちをびしびし倒していく。


「弾もいつものじゃなくてちゃんとしたの使ってますから、火薬で周囲に追加ダメージ入って多少ずれても命中しますし」

「ふーん?」


【……それって、逆に言えば普段はちゃんとダメージ通るところに当ててる……?】

【動いてるモンスター相手だから普通は何発か外したりかすったりするのにな】


【は、ハルちゃんだから……】

【ランダムに動く的だぞ……?】


【それにしても性格なエイム】

【俺のチームの銃使い、こんなに速くねぇぞ?】

【まぁそのへんはソロだし】

【ハルちゃんだし】

【もはやハルちゃんという概念】


「ほら、モンスターのコアって慣れてくるとはっきり見えるでしょ? この距離ならそこに照準合わせるだけだから、ちょっとやればるるさんでも同じことできるって」


「え?」

「ん?」


「コア? なにそれ?」


ぽけっとしてるるるさん。


あれ?

中級者なら知ってるでしょ?


「え? いや、モンスターの頭とか胴体……光るでしょ?」


【え?】

【光るの?】

【いや、知らん】

【レベル上がればそうなるのか……?】


「……えーっとぉ……みんなも知らないみたいだけど……?」

「えー、そんなはずないですよ。 僕、前から……結構前から見えてましたもん」


危ない危ない、つい「男だった頃から」って言いそうに……ん?


「……………………………………」


……確かにこれ、この体になった辺りからだったような……?


【『コアというものについて具体的にご教授いただきたいのですが』】

【『使用されている武器は<URL>と同型でしょうか。 それですとリロードには最低でも3.2秒かかりますが今のあなたは1秒でした』】


【『また、一見したところ近づいて来たモンスターがあなたに反応したのは3メートルほどまで近づいてからだったようですが、何か特別な隠蔽スキルをお持ちでしょうか』】


【えみお姉ちゃーん、海外勢抑えてー】

【相変わらずハルちゃんが珍しいことすると湧いてくるな】

【これでも配信元……事務所で抑えてるんだろ?】

【海外勢、普通の配信とは違って明らかに上級者ばかりだもんな】


んー、なんかの拍子にできるようになって「ゲームみたいだなー」って思ってたのは覚えてるんだけどなー。


「……ハルちゃんハルちゃん、『あんまり答えないで』だって」

「? 何をですか?」


こしょこしょと話しかけてきたるるさん。


【キマシ】

【タワー】

【違うッ! これはおねショタなんだッ!!】

【姉御落ち着け】


「ほら、ハルちゃんの『星』に関係するかもだからって」

「ほし? ……ああ、なるほど」


コアが見えることとかまでこの体と関係……なさそうでありそう。


うん、とりあえずは秘密だね。


【ふぅ……】

【いいものを見てしまった……】

【我が生涯に一片の悔い無し】


ついでにちらっと見たコメント欄は、やっぱりヘンタイさんなのであふれかえってた。


男って悲しい生きものだね。



◆◆◆



33話をお読みくださりありがとうございました。


この作品はだいたい毎日、3000字くらいで投稿します。

ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。


「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」

「なんでもいいからTSロリが見たい」


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