新ダンジョン探索-04-

「あなたのような方にそう言っていただけるのは光栄です。わたしもウォーカー少尉の噂はよく伺っています。最年少で貴国のS級冒険者になった天才少女……その後入隊されて、軍でもご活躍されていらっしゃるようで——」


「天才少女ではなく、天才美少女よ。間宮三尉」


「え……」


「フフ……冗談……冗談よ。もう少女という年でもないし。ねえ……間宮三尉、これから短い間だけれど、お互いダンジョン探索をする訳だから、堅苦しい言い方はやめにしないかしら? 年齢も近いし、階級も同じでしょう」


「はあ……それはよいのですが——」


 綾音さんが戸惑いの表情を浮かべていると、


「それならよろしくね。アヤネ」

 

 キャシーさんはそう日本語で言うと、ニッコリ笑いながら、綾音さんと握手をする。


「ウォーカー少尉……日本語が——」


「ええ、少しは話せるわ。同僚に日本語が得意な口うるさい男がいて、彼のせいでね。まあ……貴国は初めてダンジョンが出現しただけあって、今でもダンジョン関連の情報は豊富だから、ナマの情報を取るためには必要だしね」

 

 と、そう流暢に日本語で話すキャシーさんはとても「少し話せる」という感じではなかった。


「……というわけで、後でたっぷりと色々と聞かせてもらうわよ。ケイゾウ」

 

 と、キャシーさんは俺の方に向き直り、微笑む。

 

 もっともキャシーさんのその笑顔は、不敵な笑みという類のものであり、俺を見るその青い目は冷たかった。


 俺はキャシーさんのその随分とトゲトゲしい態度にふと昨日のことを思い出していた。

 

 そう言えば、俺はキャシーさんにも初対面からして綾音さんと同じくらい悪印象を与えていたな……。


「あの……ウォーカー少尉、後で彼……二見のこともあらためて紹介しますが、その服装は——」

 

 綾音さんはそう言葉を濁して、キャシーさんの服を見る。


「ああ……これね。今回の件は、ダンジョンの場所柄、公式に我が国が関与する訳にはいかないから、わたしも私服という……訳。まあわたしも軍の制服は堅苦しいし、デザインも好みではないからこの方が都合が良いのだけれどね。安心して、探索時の装備品は軍がダンジョンで入手した最新の一級品を持ってきているから」

 

 と、キャシーさんは自信満々にそう言う。


「そう……ですか」

 

 綾音さんは静かにただうなずくだけであった。

 

 綾音さんのキャシーさんに対する態度や言葉づかいは最初と同じ……いやそれどころかどこか一段と固くなったように思えた。


 対してキャシーさんは、


「ああ、そうそう……ミツキ、同じS級冒険者の天才美少女として、あなたとも話したかったのだけれど、それはまた今度のようね」

 

 と、今度は美月さんの方を向いて、長年の友人に語りかけるような感じで話しかける。

 

 もっとも、突然話しかけられた美月さんは、俺と同じように怪訝な顔を浮かべて、「はあ……」としか答えていなかったが……。

 

 戸惑う俺等を尻目にキャシーさんは、


「それじゃあまた後でね。アヤネ」


 と言って、微笑んだ後、


「それとケイゾウも……」

 

 と、俺を見る。

 

 そのキャシーさんの顔からは笑顔が消えていた。


 そして、キャシーさんは、そのブロンドの髪をさっそうとなびかせて、ツカツカとヒールの足音を小気味良く響かせて建物へと戻ってしまう。

 

 俺はその後ろ姿を見ながら、いまさっき睨まれたことも忘れて、あらためてキャシーさんの美貌とスタイルに感嘆してしまう。


……とはいえ、キャシーさんのその姿はとても軍の士官とは思えないな……。


 まあ……プライベートにどんな格好をしようとも個人の勝手ではあるし、その人物の能力とは関係はないが。


「……なんか色々とすごい人っぽいですね。わたし、確かあの人とは昨日が初対面のはずですけれど……」


 と、美月さんは呆れ半分、戸惑い半分といった顔を浮かべている。


「ふう……前途は多難だな」

 

 キャシーさんがいなくなると、綾音さんはそう小さくため息をつく。

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