米国国土安全保障省サイド-03-
「どうぞ、入りたまえ」
「局長。こんな朝に呼び出すなんて勘弁してくださいよ」
そう言って迷惑そうな顔を浮かべて局長室に入ってきた若い女性。
彼女は、鋭い目つきが妙に悪目立ちするが、それを除けば見目麗しい外見を持つ女性と言えるだろう。
彼女の目を引くブロンドの長い髪は綺麗にまとめられていて、服装も上下ともに真っ白なスーツをビシッと決めている。
その外見と相まって、いかにも仕事ができそうなビジネスウーマンと言った雰囲気を醸し出している。
外見からしてマスイとは大分異なるタイプの人間だが、彼女……キャシーも特異事象対策局のメンバーの一人である。
もっとも、キャシーは事務方のマスイと異なり実働部隊の一人であるが……。
「マスイ……またあなたが局長を焚き付けたのかしら?」
キャシーはそう言って、マスイを冷たい視線で睨む。
「な、なんでこの女がオフィスに……」
マスイは後ずさりをしながら、キャシーを見る。
「わたしだってこんなところであなたたちオタク連中と話すよりも、ダンジョンに潜っていたかったのだけれど……。局長から緊急メッセージを受けたから仕方なくきたのよ」
「な、なんだと!? お、お前のような脳筋連中にそんなことを言われる筋合いはないぞ」
「……二人とも今は喧嘩をしている場合ではないぞ。まずはこの男の話しをしようじゃないか。キャシー、君は昨夜の動画を見たのかね?」
「……見ましたよ。一応」
「それで……君の……わがステイツ屈指のダンジョン冒険者である者の見解はどうだね?」
「どうって言われましても……よく出来た動画ってところじゃないですか?」
「フェイクだと? マスイは本物だという分析だがね」
「まあ……オタク連中を騙すくらいにはよくできていますけど。だけど、あんなデタラメなことが現実に出来る訳がない。実際にダンジョンに行ったことのあるそれなりの冒険者なら誰でもわかりますよ」
キャシーはマスイをチラリと見て、小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、髪をなびかせる。
「ぼ、僕はあの動画を夜通しで分析して確かめたんだぞ! あの動画は間違いなく本物だ!」
マスイが口角泡を飛ばしながら、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「あなたみたいなオタク君を騙すのはわたしたちのような本物の冒険者からすれば簡単なのよ」
「な、なんだと!?」
ロバートは、二人のいつも通りの対立を見て、やれやれと首を振りながら、
「キャシー……そうマスイを煽るな。マスイも少し落ち着け……。で……キャシー、本当のところどうなんだ? わたしも見たが、フェイクには到底思えなかったぞ」
「動画自体がフェイクではなくても騙す手段はいくらでもあるってことですよ。あそこに出ていた関係者全てが茶番をしていたってことも考えられるでしょ?」
「馬鹿言うな! S級冒険者パーティー『ダンジョンの支配者たち』がそんなことするもんか!」
「あら? S級冒険者でも同じ人間よ。金、名誉……そんなものをチラつかせれば人なんて簡単に動くものよ。現にわたしがそうだしね」
「ありえない! お前ならまだしもS級冒険者が——」
なおも憤激収まらないマスイの話しを遮りるように、キャシーは言う。
「ともかく——あんなことを本当にしでかすことが出来る能力を持っている冒険者が実在する……と信じるより、その方がはるかに現実的ってことよ。あんな人間がいたら……たまったものじゃないわよ……」
と、キャシーは自分に言い聞かせるように漏らす。
ロバートはその様子を見て、一人うなずきながら、
「なるほど……わかった。キャシー、マスイ、君たち二人は日本に行ってきたまえ」
と、静かに言う。
「どういうことですか? 局長。なんでわたしがわざわざ日本になんて……。この動画は茶番だと説明したじゃないですか? しかもこんなオタクと一緒に……」
「そうですよ! 局長! 日本に行くのはいいですけど、なんでこの脳筋女まで——」
「キャシー。君も心の底ではこの件、気になっているんだろう? 完全にフェイクとは言い切れない。そんな顔をしているぞ?」
「それは……そう……ですけれど……」
「そして、マスイ。君の能力を疑ってはいないが、キャシーのようなS級冒険者の視点も必要だろう?」
「……まあ……そう言われれば……」
マスイとキャシーは不承不承ながらうなずく。
「よし! 話しはまとまったな! さっそく今日の便で日本に飛んでくれ!」
と、ロバートは強引に二人の出張を決めてしまう。
マスイとキャシーは未だに文句をブツブツと言っていた。
とはいえ、二人共経験上こうなった場合のロバートの頑固さは百も承知しているから、もはや諦めているといった様子であった。
二人が部屋から出ていくと、ロバートはデスクに座り、虚空をじっと見つめる。
その脳裏には先程見た男——アンノウンの顔が浮かんでいた。
25年前と同じ感覚が再びロバートを支配する。
自分の勘が外れていてくれればな……とロバートは一人苦笑いをする。
しかし、あの時と同じ……いやそれ以上の大騒ぎが起こる……そんな予感はいつまでも消えなかった。
そして、やはり……というかロバートのこの勘は当たってしまうのであった。
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