第20話 私にも信念がある!

――イベルタ辺境伯の視点


アルメリアが来る少し前.....


「セバ、ほかの部屋はすべて見回ったか?」


「はい......もうどの部屋にも生存者は.....」


「そうか.....まさか、すべての使用人たちをアンデットに変えていたとは.....!」


「許せないです。私が斬り殺した中には兵の妻などもいたというのに!」


「ああ。こんな化け物が野に解き放たれたとしたら、それこそ、この国なんて簡単になくなってしまうだろう」


「はい、そうですね。どうにかして皇帝にこのことを伝えたいのですが.....」


「案の定、うちに残っていた伝書鳩もすべてやられているしな。もう、あの二人の言葉を信じて、玄関から出て生き残るしかないな」


「そうですね。兵も半分ほど減ってしまいましたし.....」


「ああ.....。みんな、私が不甲斐ないばかりにすまない。必ず、死んでいった奴らのためにも、あの二人を倒すぞ」


「かしこまりました。それが御当主様の命令なら、必ず遂行せねばなりませんね」


「「おう!」」


――――――

――――

――


そして、玄関前にやってきたのだが......


「そんな......」


「......まさか!」


「うっ......」


兵たちは、悲痛な表情を浮かべていたり、吐きそうになっているし、私も、怒りで我を忘れそうになっている


「あいつらは!あの2人に人の心はないのか!どうしてこんなことができる!」


そう、目の前にいたのは、赤ん坊くらいの大きさの青黒いスライムが1匹と、そのスライムを囲むようにして、玄関に来るまでの戦いで死んでいった兵たちだった


まさか、死体を速攻使ってくるとは思っていなかった


「.....みんな、やるぞ。死んでいった奴らの肉体が使われるのは、悲しすぎる。早くこの呪縛から解放してやるぞ」


「っ!ああ」


「そうだな」


「俺たちの手で、解放してやろう!」


私は、私の身が引き換えになっても、奴らに1発与えてやる


「あの2人は臆病者だ。このような卑怯な手でしか私たちに勝てないのだからな」


たとえ、負け惜しみだとしても.....


「総員かかれ!」


「「おうっ!」」


「いけぇ!」


お前たちの仇は必ず取る!


――シュートの視点


「あはは!見てよこれ、レイ!」


「っぷぷ。普通のアンデットとは違うのにね」


「ねー。ほんと馬鹿だよね。無知は罪とは言うけど本当にその通りだなあ」


そう、レイの作り出すアンデッドはちょっと特殊で、生前の記憶やスキルの一部を使って、練度の高い自律型アンデットが作れる


そのおかげで、相手の数の有利は完全になくなり互角に。そのうえ、後ろにはライムも控えさせているし万に一つ負けることなんてない


いやあ、アルメリアちゃんが来たら、僕たちも登場してやろうかな?


……


そして、アルメリアちゃんが来て、辛うじて生き残ったイベルタとその執事を見て.....


「あ~りゃりゃ。こりゃ絶望しちゃってますね!どうする?レイ、登場してみる?」


「ん-.....出てみようかな?リアルが一番だし、なんか人が絶望する顔って面白いんだよね」


おおぅ


前半まともな意見言ってるなあと思ったら、後半とんでもないものぶっこんで来たな


ん?殺人愉快犯がそれを言うな?


すみません。よくわかりません。


とまあ、そんなことは置いといて


「んじゃ、行こうか!」


「ん!」


――イベルタ辺境伯の視点


「.....あ、ぁあ、そ、んな.....ぃや、いや!」


「くっ!」


娘が来てしまった


こんな格好の悪い姿を娘に見せたくないが今はそれよりも前の敵を.....


ドッゴー-ンッッ!!


「っ!今度はなんだ!」


「はいはいお久しぶりですねぇ~辺境伯サマ?」


「お前はっ!」


「あ、どうぞどうぞ戦ってください?僕たちはここで試合の生観戦するだけなので邪魔はしませんよ?」


「そういうことを言いたいのでない!」


「そうなの?」


「そうだ!なぜ.....なぜ殺した奴らをそんな無碍にすることができる!お前らに人の心はないのか?」


「......はぁ。外から見てたけど、ほんとこいつらウザイな。何正義ぶってるの?」


「.....何?」


「人の心はないのか?って聞くけど、答えはあるわけがない。僕が一番大事にしているのは妹だけ。それ以外はすべて平等」


「......」


「なんで、見ず知らずの人を助けなきゃいけないの?その人が善なのか悪なのかもわからないのに」


「.....」


確かにそうかもしれない


でも.....


「その考え方は違う。お前らのような自分勝手な奴はいずれ破滅する。人は、人間は、お互いを助け合って生きている。お互いを少しでも尊重する気持ちさえあれば.....」


「はあ、だから?」


「なに?」


「何説教じみたこと言ってるの?結局は僕たちと君たちの間の価値観が違うだけ。そうでしょ?」


「確かにそうだ。だからと言って我々を巻き込まないでもらおうか!」


「いやだね。もう僕は、僕たちは誰からも縛られない。不自由な生活なんて御免だ。だから、僕らは僕らのやりたいように生きる。たとえ世界を敵に回しても.....」


あぁ


今わかった


この二人がどのような生活をしてきたかは知らないが、相当な信念があるらしい


よほど過去に辛いことがない限り......な


どうせ誰もこの化け物には勝てない


なら、ここであきらめてもいいだろう


だが、彼らと同じように私にも信念がある


そして守りたいものがいるっ!


「あぁ、わかったさ。君らとは相容れないことがね。だがね、私にも守りたいものがあるんだよ。だから、私も力ずくでここを通させてもらう!」


「好きにすれば。ま、意気込んでるとこ悪いけど戦うのは僕たちじゃなくて、そこのスライムね?ライム、やっちゃっていいよ」

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