『主人公』の愛の告白(5)

「ロシェス、あちこち擦り傷だらけになってる」

「ああ……多少強引に抜け出してきたもので」

「多少、ね」


 特務部隊も真っ青なロシェスの脱出劇を思い浮かべ、含みを持たせて言い返す。

 擦り傷、切り傷、打撲の痕も見られる。再会時もギルドで話していたときも余裕そうな態度でいたけれど、改めて目にすると痛そうに見えた。


「家に着いたら、早いところ治療しないと」

「いえ、これはそのままにしておきます。数日で治る程度の怪我ですし、ボロくなっている方が被害者という感じがするでしょうから」

「……そう」


 思った以上にしっかりしている彼に、今度は苦笑いしかでない。

 そうこうしているうちにようやく麗しの我が家に到着していて、私は懐から玄関扉の鍵を取り出した。

 慌てて出掛けたので心配だったけれど、ちゃんと鍵は掛かっていた。


「はぁー……長い一日だった」

「お疲れさまです」

「いや、その台詞はロシェスにそのまま返すから」


 攫われた本人に労われてどうする。

 私は「お疲れさま」とロシェスに言って、それに対し彼は「ありがとうございます」と返してきた。

 この後は部屋に戻って寝るだけで、時刻的にも早くそうするべきで。

 けれど何となく解散という気にはなれなくて、そしてそれはロシェスも同じ気持ちのようで。

 近くの壁に二人並んで寄り掛かる。

 目の前には、朝になれば店を開けるだけの準備万端な商品棚とカウンター。それらが、明日からはまた日常が始まる、そんな嬉しい予感をさせる光景として私の目に映った。

 ロシェスの左腕に、こつんと頭をもたれさせる。驚いたらしい彼が肩を跳ねさせた振動が伝わった。


「ナツハ様?」

「本当に、魔法を使う前にロシェスに止めてもらえてよかったと、しみじみ実感しているところ」

「そうですか」


 ザイーフを含めた今日の事件関係者が無事捕まったとして、どこからともなく噂を耳にしたアロンゾ皇国に目を付けられては敵わない。

 私はこのままロシェスと二人、ここで暮らして行きたい。

 この先もずっと――――


「あ……」


 今し方思い浮かべた光景に、ふっと声が零れた。

 もう声は出てしまった後だというのに、無意識に手で口を押さえていた。

 目だけで店内を見回す。この家の中で、一番長い時間を過ごしているだろう場所。

 だから想像したのが繁盛した店内であれば、気まずい気持ちにはならなかった。でも見えてしまったのは、ロシェスとの食事風景で。思わぬところで私は、自分の深いところにある願望を知ってしまった。


「どうしました?」


 零れた程度の小声でも、さすがに真横にいるロシェスには聞かれてしまう。私は気恥ずかしくなって、彼に凭れたままうつむいた。

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