『主人公』の愛の告白(1)

 すわ敵襲と身構えたのも一瞬だけ。敵避けスキル『ホーリーサークル』は、この世界に来た初日から常時発動なわけで。


「魔法を使っては駄目です。誰が見ているとも限りません」


 その上、後ろから聞こえてきた声が耳慣れたものであれば抵抗する気もない。

 というより、今のでそもそも魔法を使う理由そのものがなくなった。


「……ロシェス?」

「はい」


 口が自由になった私が簡潔に尋ねれば、後ろから同様に簡潔な返事がきた。


「私はロシェスがられたと思って、助けに来たつもりだったんだけど?」


 私の拘束を解いた背後の人物――ロシェスに、私はしやくぜんとしない気持ちで魔法を使おうとした理由を口にした。

 ロシェスがならず者に拉致られたと聞いて、ワールドに『茨の監獄』なるものが出現して。流れからいって絶対にその監獄にとらわれている対象は、彼だと思っていたのに。移動して私の目の前まで来た人物は、まぎれもなくロシェスだった。


「それはお手数をおかけいたしました」

「うん? その言い方だと、捕まってはいた?」

「はい。つい先程まであの大樹が作り出したダンジョンにいました」

「え?」


 私はロシェスが指差した方向を見た。どう見ても、私が今ほどまで結界を破ろうとしていた大樹に間違いない。


『進入地点は結界が張られています』


 表示は変わらずある。それなのに中にいたというロシェスは脱出している???


「あ、入口の結界って、一方通行で中からは出られるとか」

「いえ、私も結界に気づいたので、そちらからは出ていません。少し離れた場所の壁を壊しました」

「へ?」


 予想外の切り返しに、間抜けな声が出てしまったのも仕方がないと思う。

 壁を壊して脱出! まさかのあらわざ


「ロシェス」


 私はロシェスの腕を引き、一緒に魔法空間の外へと出た。

 元の暗闇になったため、二人分の足元を照らす魔法を出す。


「ロシェス、詳しく」


 それから私は家に帰るまで待てなくて、道すがら彼にこれまでの経緯を話すよううながした。

 かくかくしかじか。ロシェスが順を追って話して行く。

 ひとまずロシェスが捕まった時点までの話を聞いた私は、自分のこめかみを押さえた。


「首謀者のエルフはザイーフだったのね。まあ、そんな気はしてたんだけど」


 私がこの世界で知っているエルフは、ロシェスとザイーフの二人しかいない。そしてザイーフはつい最近、冒険者ギルドでひともんちやくあった相手。疑うなという方が無理だ。


「ザイーフの魔法で『茨の檻』に入れられた私は、そのまま『茨の監獄』と名付けられた彼等のアジトに送られました」

「うん……うん?」

「そこには私と同じように茨の檻に囚われた、捕獲が禁止されている妖精や動物が多数いまして。それらを助け出すのに少し手間取ってしまって」

「待って。待って、情報量が多い。えっと、まず最初に入れられた茨の檻はどうなったの?」

「ああ、それはこれを使いました」


 ゴソゴソとロシェスが服のポケットを探る気配がして、その後に彼が見せてきたものは見慣れたポーション瓶だった。

 売り物にはあるはずの店のタグは付いていないから、店頭に並べる前のものだろうか。それとも別の店で購入したものだろうか。

 ポーションは例え材料や薬効が同じでも、配分によって若干色が変わる。だからそれがそれぞれの店の色となっている。

 けれど今はまともな光源がなくて私は判断が付かず、ロシェスの顔を見た。


「ナツハ様の魔力は聖属性で、しやくしないとあらゆる状態異常を治す万能薬になってしまうというのは覚えておられますか?」

「うん。街角でそれが買えてしまうのはまずいから、量販しているものは通常のポーションにほんのり加える程度にしているよね」

「はい。これも配分自体はそうです。ただこちらは量販品とは違って、ナツハ様が作られたものになります」

「私が? ……あっ」


 一瞬ロシェスの言った意味がわからなくて、けれどすぐに思い至る。

 彼の手にあるのは、『初級HP回復ポーション』だった。+1ではない、無印の。

 以前、ロシェスの天才薬師ぶりに彼にポーション作成を一任することにした私は、持て余した自作のポーションを彼にあげた。

 あれをまだ持っていたのかと、私は改めてポーション瓶をしげしげと見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る