評判の薬(8)

「薬師なんて、人間みたいなことをやっているんだな。ああ、魔法が使えないからそうして生きるしかないのか」


 魔法使いが好んで着るローブ姿からして、エルフの青年――ザイーフは魔術士もしくは治療士なのだろう。それも最悪なことに、顔見知りということはロシェスの故郷出身のエルフと思われる。

 せっかく今ほどのちやほやで、ロシェスの自己評価が多少上がっただろうと喜んでいたのに。

 によによした顔でロシェスを見るザイーフ。勿論、私が先程しそうになっていたときと心中は真逆だろう。

 むかつく。そんな顔でも顔だけは綺麗だから、余計にむかつく。

 失礼な奴なんて気にする必要はない。私はそんなメッセージを込めて、ロシェスの手をキュッと握った。彼が同郷の者を怖れていると思ったから。

 しかし、ロシェスはまるでその逆、私を安心させるかのように力強く手を握り返してきた。


「ええ、そうして生きるしかない。そのことに今は感謝しています」

「何だと?」


 げんな表情でロシェスを見るザイーフ。そんな彼と抱く感情は違っても同じく疑問に思って、私は隣を見上げた。

 私の勝手な想像で青白い顔をしていると思っていたロシェスは平然と――いや、それどころか穏やかに微笑んですらいた。


「誰よりも力になりたい人の力になれる。魔法が使えないから、それができる。そして私はそうして生きるしかないから、優しいこの方は側に置いて下さる。もしある日突然魔法が使えるようになったとしても、私はもう使いたいとは思わない」

「人間にいいように使われたままでいいと? エルフの誇りまで無くしたか」


 台詞とは裏腹に動揺を隠しきれない様子のザイーフに、ロシェスが「ははは」と笑う。最初にザイーフがロシェスに向かってそうしたように。


「私にはエルフの誇りなんて元々ありませんよ。同族を売るような種族の何を誇れと?」

「……っ」

「それに、いいように使われているというのも違います」


 ザイーフは最早完全に気圧され、呆然としたままロシェスを見ていた。


「私が、この方を満足させている。私だけにしか、できない方法で」


 ロシェスが再び穏やかな、それでいて堂々とした態度で、ザイーフにとどめとばかりに言い放つ。

 ロシェスがこんなにも立派になって……何て感慨深い。ロシェスの自己評価を地道に上げていこうと思っていた私の努力は無駄じゃなかった!

 ぱぁっと明るく日が差したように感じていた私は、きっと呑気だった。

 だから彼の心境の変化はおろか、ここ五日間に彼が密かに行っていた活動についても、私は欠片も気づくことができなかった。

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