ギルド御用達のお店(6)
グストさんが満足げに帰って行き、私は通常の会計に戻ることにした――のも束の間、また「まとまった数を予約をしたい」というお客様がご来店。今度は冒険者ギルドのギルド長らしい。如何にもそれっぽい
うん、さっきグストさんから大口注文を受けたとき、「冒険者ギルドならともかく」とか思ったけどね。フラグを立ててしまっていたとは。
私はまた予約表とペンを手に取った。
「冒険者ギルド宛てでご購入ですね。何本ご予約なさいますか?」
「いや、今回予約したいのは、『旅らくナール』の方なんだ。それを二十個お願いしたい」
「え?」
思わぬ返しに、ペンどころか危うく予約表まで取り落としそうになる。
それ、まだ販売していませんけど?
というか、そういった商品があることの告知もしていませんけど?
「ロドリゲスから検証の依頼をされたのはウチなんだ。それでギルド内で、これはいいぞという話になってな」
なるほど。確かに検証するなら当然、『旅らくナール』を使いそうな職業の人に依頼をするわけで。
グストさんをファーストネーム呼びということは親しいのだろう。だから販売前でもここの店に辿り着けたというわけか。
「つい少量を個人的に譲ってもらったくらいだ。二歳になる娘が初めて家の外を歩きに出るというので……」
厳ついおじさまが恥ずかしげに言うから、職権乱用でも許したい……!
理由をギルド員さんたちに話したんだろうか、話したんだろうな。実際に使って娘が歩いた様子まで話したんだろうな。何故かその場にいなかったのに、ありありとそんな場面が目に浮かぶ。
「今回の注文分では、採取に出かける冒険者に配る予定だ。安全に採取できれば、質も量も期待できるからな」
「生産は許可が下り次第になりますが」
「承知している。だから納品は販売が始まってからで構わない。納期は長く見るし、それでもきつそうなら相談してくれていい。何とかならないか?」
何だかそれと似た台詞をついさっき聞きました。
ギルド長ってどこもこんな感じなのだろうか。ギルド員想いでいいとは思うけれど。
私は再び隣のロシェスを見上げた。それに対し先程同様、彼が無言で頷き返してくれる。
「……わかりました。納品予定日は追ってお知らせいたします」
ロシェスのやる気がすごい。私は冒険者ギルド長の予約を正式受注した。
店内を見たところ、一般客の購入数は今のところ常識的な人数だ。店頭販売は、しばらくは今棚に並んでいる分で足りるだろう。
それにしても、本当に開店早々に忙しくなりそうだ……。
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