第14話
「なあ、じーさん。どうしてそんなに、管理にこだわるんだよ。
管理なんてしなきゃ、おっさん達を殺す必要なんて、なかっただろ」
「この世に存在する原子の数は定められておる。この話は、以前にしたな。
つまり、原子には限りがあるということだ。無限に湧き出てくるものではないのだ。
まず、おぬしのよく知っている水。これについて考えることにしよう」
みず?もうなんか、勉強なんてする気になれないけど。
いったい、なんの話をするつもりなんだ。
「我らにとって、最も身近な水と言えば、雨だ。
この雨が降ることで、水溜まりが出来て、それが蒸発し、空に上がり雲になり、また雨が降る。
いわば【循環】だ。これを繰り返すことで、水は、世界各地に公平に渡っておる」
「なんとなく、意味はわかる。でも公平っつっても、砂漠とか、水の少ない環境とかあるじゃん」
「その通りだ。つまりその分、水の量に偏りが出来ることになる。これは言い換えれば、砂漠以外の土地が、砂漠から水を多く奪っているとも言えるのだ。
こういった偏りがより大きくなっていくと、水を巡った争いが激化し、滅んでしまう種も現れるだろう。儂は、その様を見たくないのだ」
見たくないって、そりゃ俺だって見たくないよ。でもそれって、どうしようもなくないか?
世界各地の、水が偏ってて余裕のある地域に水を配ってもらうとか。
そうだ、実際そうやって貧しい国に支援を行ってるって、授業で習ったような気がする。
「俺たち、いや俺が実際にしてるわけじゃないけどさ。余裕のある国は、貧しい国を助けたりしてるぜ。
それが失敗して国が滅んだりっていうのは聞いたことないから、昔は知らないけど、今は大丈夫なんじゃないか?」
「うむ、そうか。だがそれは、おぬし達の間だけでの話だ。人間以外の、他のもののことまで気が回りはしまい。それは、偏りをさらに大きくすることを意味するのだ」
なんか、複雑な話だ。でも俺は、最後までじーさんの話を聞かなきゃならない。そんな気がする。
「じゃあ、じーさんはどうしたらいいのか、方法はわかるのかよ?」
「儂にも、分からぬ。おぬし達の広大な世界で、種が滅ぶ程の争いを鎮めたり、事前に起こさぬようにすることなど、出来ぬのかもしれん。
だがこの中でなら、この世界だけならば、何とか出来るのだ。それが、管理をするということだ」
管理、か。じーさんが何を言いたいのか、少しわかってきたかもしれない。
「この中で、全ての原子を循環させること。それが管理なんだろ?」
「素晴らしい。やはりおぬしは、いや何でもない。
おぬしの言う通り、この世界で儂は、彼らと共に全ての原子を循環させておる。
ここは儂が望んでつくり上げた、理想郷とも言える場所なのだ」
「でもさ、管理なんて、そんな簡単にできることなのか?
なんか今までの話を聞いてると、すげえ難しそうなんだけど」
「実際、とても難しいのだ。儂も、全て理解出来ているとは言えぬ程にな。原子の数だけでなく、原子そのものの変質にも注意を配らねばならぬからな。また、この中では圧力の変化が著しくてな。これは現在、通り道を一切設けていないことに起因しているのだが、それによって計算が狂うことが度々あるのだ。これについては改善策を用意してあるが、実際に作業を行うのは彼らだということもあり、簡略化を図るべきか未だに悩んでおる。それに加えエネルギー、つまり熱量についても考慮する必要がある。非常に奥が深いのだ」
???原子の変質?たしか、原子って変化することがないんじゃなかったっけ?うろ覚えだけど。
それに熱量ってなんだっけ。やべえ、じーさんの話について行けてない。
「いや、すまぬ。つい熱くなってしまった。
まあとにかく、原子の数をきっちり保つこと、これが最も重要な課題なのだ」
「そっか。だからおっさんはあんなに、穴を開けるなって言ってたんだな。
この中にある原子が、外に漏れたりしないように」
「うむ。当然28にだけでなく、彼ら全てに伝えてあることだ。
出すだけでなく、入れるのも禁じるとな」
「でも、原子は資源だって言ってたじゃんか。新しく入ってくる分には、ありがたいんじゃないの?」
「うむ、確かに無くなるよりは、まだ良いという考え方もある。
だが、儂はいわば、おぬし達の世界から原子を奪うことでこの世界をつくったのだ。
一度既に奪っているのに、足りなくなったからまた奪おうという思考は、もはや管理の失敗を意味する。
だからこれ以上、何も奪う必要などない。お互いにな」
そういやじーさん、世界はみんな奪い合ってるって言ってたっけ。
「それに、例の少年のことを考えると、そうとも言い切れぬのだ」
「あ・・・」
そうだ。じーさんは、争いを見たくないって。そもそもそのために、この世界をつくったって。
それなのに、じーさんは結局、おっさんのことを。きっと悩んだはずだ。言葉は冷たかったけど、今も、その時も、悲しい目をしてた。それに、本当は俺のことだって、危険だって思ってるはずだ。
さっさとそいつみたいに、俺のことを追い出せばいいのに。たぶん、それができない事情が、今はあるんだろうな。
「気を遣うな。思ったことは、どんどん口にしなさい。
上手く相手に想いを伝えられるか、そればかり考えていると、その機会さえなくなることもある。
相手を思いやる気持ちだけが、コミュニケーションの全てではないのだ」
「うん、わかったよ。その、新しくなにかを外から入れるのはよくない、ってのはわかったけどさ、じーさんは、もう外の世界のことは興味ないのか?今までの話しぶりだと、昔は外の世界にいたんだろ?」
「ない、とは言えぬな。だからこそ当時の儂は、例の少年を受け入れてしまったのだろうからな。
今でも、同じだ。外から来たおぬしと話すのは、とても楽しく感じておる」
「ほんとかよ?いや俺も、じーさんのことけっこう好きだし、元々おしゃべりは好きだけどさ」
じーさんが笑ってる。でも、今までほどの大笑いじゃない。
俺、本音でしゃべったんだけどな。たぶんテレパシーで、わかってると思うんだけど。
「儂は、誰かと話すのがとても苦手でな。さっきはああ言ったが、儂はコミュニケーションの極意など持ち合わせてはおらん。
外の世界におった頃も、よく苦労していたのを憶えておるよ」
「そうなのか?何があったんだよ。すげー気になる」
「まあ、それはまた今度な。それより、そろそろ外に出ようか。もう日は昇っておるはずだ。
この味気ない部屋にずっとおっても、気が滅入るだろう。それにちょうど、おぬしの服も用意していたことだしな」
なんかはぐらかされた。すげー嫌な思い出なんだな、きっと。
俺もガキじゃない。無理に話を聞き出すのは、やめとこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます