第134話 最終決戦の地へ
最終拠点に訪れて二日が経った。
そして今、俺達は拠点にこしらえられた大型ポータルの上に立っている。
全員が万全に、装備一式をそろえた上で。
そう、最終決戦がまもなく始まろうとしているのだ。
「見ての通り、神域に出撃するのは我を始め、ダンジョンブレイク工業の面々にエリクス、クリン、オプライエン、フーラ、ベゼール、ディオットの総勢十三人だ」
「なるほど。これが世界を救う十三人衆、という訳ですか」
「だからといって気負うなよエリクス? お前の気持ちもわかるが」
「卿はそこで復讐に囚われるほど若いつもりはありませんよ。目的は果たしましょう、たとえそれで卿の命が失われようとも。結果が伴えばそれで満足です」
商会側の面々はいずれもゲールトに対して並々ならぬ因縁があるらしい。
だからこそ誰しもが思い思いに意気揚々としているものだ。
あの普段が軽いエリクスでさえ、今は異様なまでに落ち着いているし。
「ラング達も準備はいいな?」
「ええ、ダンタネルヴが鍛えてくれた装備もいい感じですぜ」
「私に至っては新しい剣まで造ってくれたしね」
「装備を一新して頂けたのが幸いです。これでまた主様の力になれる」
一方の俺達はそんな因縁が薄いからか、気が軽い。
思いつめたって仕方ないしな、こういう時こそ落ち着いていかなければ。
しかしダンタネルヴの鍛えた装備は本当にすごい。
一つ一時間程度で仕上げた簡易改造なのに力が何倍にも感じられるのだ。
武器じゃないマトックでこれなんだからな、チェルトのように新造武具となればその力は比較にもならないだろうよ。
「キスティに何もないなんて信じらんなーい!」
「だってキスティはその顕現武装の方がずっと強いって言われたじゃない……」
「あちしだって新しいもの欲しいー! ミラ、その耳飾りよこしなさいのよさ!」
「ええーっ!? これは駄目だってぇーっ!」
防具、道具面も充実している。
ミラも魔力制御をより精密に行えるようになる装飾品を作ってもらっていた。
有り余る魔力の制御には相応の負荷がかかるらしく、その助けがあればもっと強い力が発揮できるらしいというのだ。
今以上の力ってのがいまいちわからんがな。
今でさえ相当なのだから超級くらいは超えてしまうかもしれん。
「人類の未来を賭けた最終決戦だというのに気軽なものだ」
「そう言うなディオット殿、彼らもまたそれなりには理解しているだろうからな」
ただ、そんな力も知らないであろう二人の小言も聴こえてくる。
このベゼールとディオットという男達は俺もあまり絡んだ事がない。
しかしディマーユさんが選んだのだから、これでもきっと頼りにはなるのだろうよ。
曲がりなりにも仲間なのだから今はそう信じるしかない。
「……さて、では乗り込む前に一つだけ我から言わせてもらおう」
そうして周りを見ていたら、ディマーユさんがみんなを制するように声を上げる。
すると誰しもが押し黙り、彼女へと視線を向けた。
「おそらく現地に到達した直後より、激しい反撃に見舞われる事となるだろう」
「「「ゴクリ……」」」
「しかしそれを全員が力を合わせて阻止、突破してもらいたい。貴殿らにはそれが成せると信じている」
ディマーユさんの見立てでは、ゲールトの所有戦力は少ないという。
しかし神域自体に防衛機構が存在し、ゲールトもその防衛力を強化している可能性が多いに有り得るというのだ。
でもそれはあくまで機械的な防衛システムであり、性能はそこまで高くないそう。
よって勝負所はまさに開幕。
そこを越える事が勝利の鍵の一つと言える。
「そしてそこを越えればおそらく、七賢者が待ち構えているだろう」
あとはその七賢者って奴らを倒す。
そうする事でこの戦いは終結するって訳だ。
「その相手との勝敗の鍵は我やニルナナカ、そしてラングだ」
「俺が……?」
「そう。ただし力で押す要素ではなく、お前という存在そのものがファクターとなりうると信じている。確証は無いがな」
よくわからんが俺を買ってくれていると捉えていいのだろう。
とりあえずその期待に応えるよう精一杯戦うとするさ。
「よってこの三人を守る事が他一〇名の役目であり、命を賭けるに足る使命だと思って欲しい。それに命を賭けれぬというのであればここに残ってもらう。どうだ、お前達にその気概はあるか?」
とはいえ、誰しもが俺みたいに単純ではないのだろうな。
ディマーユさんがこう釘を刺す辺り、自陣営のメンツにも癖があるのかもしれん。
なにせその視線は俺達ダンジョンブレイク工業には向けられていない。
エリクスを始め、商会側の戦力に向けて言い聞かせているかのようだから。
……ただ、こう発破をかけられて萎える奴なんざいない訳だが。
「もちろんなんですねーっ! この時のためにオラは戦ってきたんですねーっ!」
「打倒滅至ゲールト。剣塵聖オプライエンにそれ以外の懸念などありませぬ」
「あなたが言うからこそ命を賭けれる。このフーラ、果てるまで付き従う所存」
この期に及んで怯むなら有力者に名を連ねてはいないって事なのだろう。
先のベゼールとディオットって奴らも厳つい顔で頷き応えている。
すなわち何の不安要素もないって事だ。
「――よしッ! ならばこれより神域への転送を始める! キスティ、誘いの力を我らに!」
「いいだろう、お前達を神域へ誘ってやろう! ニョーッホッホッホォ!!!」
「ナーシェ、転送装置の起動を開始せよ!」
「はいっ! みなさん、どうか御武運を!」
そしてこんな号令と共に床の魔法陣が起動を始める。
青紫の光筋が走り、零れ、空間に光文字を刻み始めたのだ。
しかもそんな文字がすぐに割れ、弾け、四方へ散っていく。
するとどうだ。
割れた文字片が途端に魔法陣の周りを飛び回り、再び文字を描き始めた。
――いや、これは文字じゃない。
そのように見えるだけの、規則性の一切ない乱雑記号だ。
誘いの力を受けて〝狂わされた〟転送機能へと変えられているのである。
「見よ、キスティの力を! もはや準備万端ぞぉ!?」
「よし、では各自で願え! 神域への転移を!」
「わらわ達が行き先を補正しよう! 失敗せぬから安心せい!」
「れすぅ~~~!」
そんな記号の光に照らされる中、俺達はただ願う。
神域への転移を、そして全員の到達を。
ナーシェちゃんやレトリー、ダンタネルヴや商会の仲間達が見守る中で。
――そうして視界が真白に包まれていく。
一瞬、空に浮いているような感じがした。
まるで天国にいる心地さえ感じた。
このまま目を閉じたままでいたいと思うくらいに。
「ラングッ!」
「――ッ!?」
だがその呼び声と共に目を見開く。
すると視界はすでに白壁によって構築された場所を映していた。
しかもその時にはもうチェルトとミラが飛び出していたのだ。
それも無数の閃光筋がほとばしるその最中へと。
これが噂の防衛機構、その光すべてが殺意の輝きだ。
でもそんな輝きをすべてラクシュが弾いてくれている。
周囲から出現した砲台も、エリクスがもう槍を突き刺して破壊してくれていた。
さすが改造人間組は反応速度が段違いに速い。
「はあああーーーーーーッ!!!」
「やあああーーーーーーッ!!!」
その一方でチェルトが凄まじい速さで壁を跳ねて進み、進路先の砲台を両断。
ミラも炎弾を操ってチェルトへの攻撃を防ぎ、さらには砲台を幾つも爆砕。
初めての組み合わせにしてはかなりのコンビネーションだ。こっちも相当だぜ。
「は、速い!?」
「あれがダンジョンブレイク工業の力なのか!?」
「くっ、我らも乗り遅れるな!」
それに遅れてオプライエンさん達も続く。
ただし彼等の足ではおそらく追い付くのは無理だろう。
それくらいチェルトとミラが速い。速すぎる。
もうA級で括れなさそうなくらいの実力を見せつけているしな。
「張り切っているな、お前の仲間達は」
「ああ、こういう時こそ強いぜチェルトは。ミラまでは把握しきれてないがな」
だからこそ俺達は悠々と進めるってもんだ。
「エリクス、クリン、お前達には後方からの伏兵対応を頼む」
「お任せあれ」「了解ですねーっ!」
「では行こう、彼らに置いて行かれないようにな」
「れっつごーなのらっ!」
「ラングゥ、キスティも背負って欲しいのよさぁ。姫抱っこでいいからぁ」
「てめーは自分で走れっ!」
「えー、もう走るのはやーやーなのぉーーー!」
ま、子守りならぬ神守りもなかなかに大変そうだがな。
背後では現在、ウーティリスとキスティで鞄枠争奪戦が勃発中だ。
ええいうっとおしいッ!
あと空から肩に乗ろうとしないでニルナナカ、そのまま潰される自信あるから。
ラクシュは物欲しそうな眼をしないで? 袖を引っ張らないで?
それとどさくさに紛れてディマーユさんまで乗ろうとしないでくれません?
ほらぁ、エリクスがめっちゃ睨んできてるじゃんかぁ!
……これってもしかして俺、七賢者にまで到達する前に過労死するのでは?
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