第123話 もう逃げるしか手がないの(ミラ視点)

 なんで、なんでなんで!?

 押しているのはアタシ達の方のはずだったのに!?


 なのになんでアタシは今、何もできないでいるのよおおお!?!?!?


 ダンジョンブレイカー達が絶えずアタシを見上げてきている。

 きっとあれはどれも偽物とかそういう類なんだとは思う。

 それはわかるの、ハッタリだって事はもう。


 だけどこれじゃ、本物一人倒せる気がしないよ……!

 完全に罠にハマったって、自分でもわかってしまった。


 だからお願いカナメ、助けに来て!

 この際ギトスさんでもかまわないの!


 誰でもいい、この状況をなんとかしてください……っ!


「あっ!? 向こうから歩いてくるのはまさかっ!?」


 やったっ! 誰かがこっちに来るっ!

 どっちなの!? カナメ!? ギトスさん!?


 ――え?


「すまない、このゴミを血祭りにあげるのに時間がかかった」


 冗談、でしょ……!?

 あの女の掴んでるのってもしかして……。


「後はそこで浮かんでいる奴を仕留めればいい訳だな。後は我に任せよ」


 うそ、うそうそうそ!?

 嘘よ、そんなはずはない!

 だってアタシ達が正しいんでしょ!? 絶対に勝てるって言ってたのにいっ!


 ――はっ、そうだ!


 そういえば乗り込む前に渡された物があった!

 もし劣勢に陥った場合に使うようにって、個々に持たされた転送宝珠が!


 たしか説明によれば、これを使えば登録した全員が一挙に戻れるはず!

 離れてても大丈夫かは聞いていないけど……!


「むっ!? 奴が何か取り出して……まさかあれは転送宝珠!? まずいっ!」


 もう四の五のなんて言ってられないっ!

 こうなったらもう逃げるしかないのよおおおっ!!!


「逃がすか――」


 だからアタシは死に物狂いで宝珠を握り締める。

 すると途端、私の身体が輝きを放ち、そして景色もがぐにゃりと暗転した。


 まるで自身の脳みそもが捻られているような感覚にも襲われる。

 そのせいで吐き気をもよおし、つい口を抑えてしまった。


 けど周りを見れば紫の光がちらつく黒壁の空間が。

 この景色は間違いない、ここはいつものゲールト秘密施設だ。


 ふと隣に視線を向ければ、ぐちゃぐちゃになった二人も倒れてる。

 よかった、ちゃんと全員で戻って来られたんだ。


「そうだ、二人を治さないと……」


 男には触れたくないけど今回ばかりはそうも言ってられない。

 このまま死なせるのだけは避けなきゃ。


 じゃ、じゃあまずはカナメから――


「う、うう、ま、て」

「えっ!?」


 でもふと近づいた途端、ギトスさんが声を振り絞ってこう訴えてくる。

 ま、まだ意識あったんだ……。


「ぼく、を、先に、なお、せ……」

「は、はいっ!」


 こう要求してきた理由はわからない。

 けど四の五の言っていられないのはこれも同じだ。


 そこでアタシは言われるがままにギトスさんへ回復魔法を使う。

 するとみるみるうちに傷が塞がり始めていく。


「はぁ、はぁ、よし、いいぞ……」


 そのおかげで自力で体を起こす事もできるようになったみたい。

 ふらついているものの、すぐに立ち上がった。

 良かった、無事で。


「それじゃあ次はカナメを……」

「その必要はない」

「え?」


 だけどその瞬間、私の首元へと閃光が走る。

 瞬時に衣服を裂いてしまうほどに鋭く。


 そんなアタシは咄嗟に身を引かせた事で無事だったけど、何が起きたかはまったく理解できなかった。


「まったくもって、失敗だった。お前達を活用しろなどと、ゲールトどもに言われたが、毛ほども役に立ちやしない……!」

「な、何を言って!?」

「はぁ、はぁ、ゆえに、粛清だ……ッ!」


 ギトスが手に持っていたのは暗器の短剣。

 それを必死に振り回し、アタシを殺そうとしてきている!


 意味がわからない。

 なんでこの人はアタシにこうも殺意を向けられるの……!?


「ただ力があるだけのボンクラどもが! 貴様らは不良品だっ! 役立たずめえっ、僕がここで処分してやるっ!」

「きゃああああ!!?」

「カナメも、お前を殺したら後を追わせてやるから安心して死ねえっ!!!」


 理解不能 理解不能 理解不能ゥゥゥ!

 なんなのコイツ!? 頭おかしいの!?

 殴られ過ぎて壊れちゃったの!?!?


 やだっ、死にたくない!

 こんな事で死にたくないっ!!

 

「うあっ!?」


 だけど世界は非情だ。

 大きく離れようとしたら、壁に遮られてしまって。

 その間にも、ギトスは着実に一歩を詰めてきていたのだから。


「在庫一斉処分だッ! このゴミどもがあああッ!!!」

「きゃあああああ!?!?」


 もうだめ、助からないっ!

 お母さん……!


 ――あれ?


 頭を抱えて怯えていたのに、一向に斬られる感覚が来ない。

 それどころか、なんか壁みたいな気配が現れたような……?


「おいおいギトスよぉ、駆け付けてみりゃ随分とめちゃくちゃやってるじゃねえかよお……ッ!」

「な、バ、バカな、キサマは……ッ!?」


 え? 誰?

 男の、背中……?


「なぜキサマがここにいるッ!? ダンジョンブレイカァーーーーーー!?!?!?」


 そう、アタシが見上げていたのはあのダンジョンブレイカー。

 なんと彼が唐突に現れ、武器を盾にして私を守ってくれていたのだ。


 もう理解がまったく追い付かない。

 ここは誰にも秘密のゲールト施設だっていうのに、どうして。




 でもこれだけはたしかに言える。

 アタシの命は、この人に間違いなく救われたのだと。

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