第119話 怒涛のミラ接敵!

「バッ、バカな……ッ!?」

「スキルが弾かれたらと……ッ!?」


 俺達は目を疑う他なかった。

 俺の無限穴掘りが通用しなかったという現実を目の当たりにしたがゆえに。


 それどころかハッキリと見えてしまったのだ。

 奴らに打ち当たった瞬間にスキルの力の方が砕けるという異様さに。


 一体何が起きたっていうんだ……!?


「ま、まさか奴ら……異世界転移者かあっ!!?」

「え? いせかいてんい……?」


 俺の肩を取るウーティリスの手が震えている。

 それほどにまずい相手って事なのか?


「なんて事を……っ! また異世界転移者を呼び込むなどとはっ!!!」

「落ち着けウーティリス! 一体なんなんだその異世界転移者ってのは!?」

「この世界にとっての害悪よ!」

「なっ!?」


 ウーティリスがここまで言い切った!?


「異世界転移者とはその名のごとく、わらわ達の世界とは異なる次元軸から来た者達の事を指す。彼らにも世界があり、そこで多くの者達が住んでいるのら」

「それをギルドが呼び込んだ?」

「うむ……いや、あるいはゲールトが!」

「なっ!?」

「異世界転移技術はかつての古代文明においても禁忌とされて抹消されたはず。しかしそれでもなお残っているとなると、彼奴等が密かに残し続けたと思う他あるまい!」


 そんな事をしなきゃならんほどヤバい奴らなのか、異世界人ってのは!?

 見た目は普通の人間にしか見えないんだが……。


「いや、実際は普通の人なのであろう。らが異世界転移を行う事で必要以上の力を得てやってくるのら。例えばそう、〝スキルキャンセラー〟といったこの世界の能力を弾く力をな」

「スキルキャンセラー……だと!?」


 じょ、冗談じゃねぇ!?

 ただでさえ強いのにスキルも通用しない!?

 そんなふざけた相手が来たら誰も勝てないじゃねぇか!?


「その通りよ。ゆえにかつて召喚された異世界転移者はいずれもこの世界を席巻し、英雄として讃えられた。世界の苦難を幾度も救った事によってな」


 え、救った?

 この世界を?


 だったらどうして忌避する必要が――


「問題はそこではない」

「え?」

「異世界の者がやってくる事で最も問題になるのは、奴らの持ち込んでくる物よ」

「物……?」


 どういう事だ?

 道具が問題?

 それとも知識や知恵?


「それは……病原菌なのら」

「ッ!!?」


 病原菌、だと……!?

 あのあらゆる病の素になるっつうあの!?


「かつて戦乱に包まれた世界にて一人の異世界転移者が召喚された。そしてその者は快く世界を巡って多くの救いをもたらしたのら。その者は実に健康的で、身体も優れており、誰もが羨む存在だったという」

「それがなんで……」

「しかしその者が訪れた地はことごとく大地が腐り、生物が死に絶えたという」

「――ッ!?」

「そやつにとってはなんて事のない共生菌であったのだろう。だが吐かれた息を受けた地にてその菌は爆発的な成長を遂げ、進化し、そしてあらゆるものの機能を停止させた。これ以上無い細菌兵器と化したという訳なのら」


 な、なんてこった……。

 じゃあそれって、まさか……!?


「そう。古代にて世界崩壊の原因をもたらした者こそ、異世界転移者なのら」


 それこそ冗談じゃねぇぞお!?

 じゃあつまり、今戦っている奴がその保菌者だって事かよ!?


 ってえ事は……この世界がまた、滅びてしまう!?


「まだわからぬ。あくまでその保菌者の可能性があるというだけらからの。異世界も幾つも存在するがゆえにどの世界が原因かもわからぬ。よって問題は、その可能性を呼び込んだという事にこそある」

「だがスキルで隔離する事もできねぇ……!」

「さよう。ゆえに奴らは元の世界へ帰すか、完全消滅させる必要があろう」

「下手に死んで菌をぶちまけたらその時点で世界終了って訳だろうからな」

「うむ、察しがいいな。今すぐ増える訳ではないが、少しでも蒔かれればいつか増え広がるかもしれぬ。対処せねば、何かが起きた後ではまずい……!」


 まさかウーティリスがここまで警戒するとは。

 ゲールトの奴ら、ガチでヤベー奴らを連れてきやがった……!

 こうなるって知ってて呼んだのか!? それとも知らねぇのか!?


 後者だったらとんだ救世主団体だぜ!

 今度は世界を滅ぼす気かよぉ……!


「らから今は二人と協力して――うッ!?」

「なんだウーティリス!?」

「ラング! 走るのらあっ!!!」

「なっ!? う、うおおお!?」


 だがもう俺達に考えている余裕はなかった。

 気付けば彼方からこちらの空へ向け、炎弾が放たれていたのだから。


 あの光は、まずいッッッ!!!!!


 即座に走り出した俺。

 それと共に、すべての音が掻き消されるほどの爆発が幾度も上がる。

 すると体が煽られ、焼かれ、その中で幾度も弾かれ跳ね飛ばされた。


 そして気付けば舗装路に倒れていたのだ。

 全身が針に刺されたような痛みに苛まれる中で。


「~~~ッ!!?」


 う、動けない事はない。

 全身が痛く、気怠いだけで。


 それでもなお気合いで立ち上がり、振り返る。


 そんな激痛に苛まれる中で俺は見上げていたのだ。

 紅光球を三つ、大きくぐるぐると回しながら空に浮かぶ女の姿を。


「もういい加減終わりにしませんか? アタシ、そんな我慢強くないんで」


 まさかラクシュを振り切って、俺に狙いを変えた!?


 こいつ、想像以上のヤバさだ。

 威圧感がギトスと段違いすぎる……!


「あ、いいです。返事しなくても終わらせるんで」


 そんな奴の杖先が俺へと向けられる。

 赤く輝くその様はまるで太陽のように眩しい。

 直視さえできない。


 間違いなく、やられる……!?


「――ッ!?」


 だがその途端、奴の背中が爆ぜた。

 直撃では無かったが、姿勢を崩して詠唱を止める事は叶ったようだ。


「主様は、これ以上、やらせは、しない……ッ!」


 それをやってくれたのはやはりラクシュ。

 けれどその姿はすでに痛々しいほどまでにボロボロにされている。

 あのラクシュが短時間でここまでやられちまうもんなのかよ……!?


「ああもううるさいですねぇ、名誉男性の分際でさぁ!」


 な、何言ってるんだアイツは!?

 ――いやそれどころじゃない!


「ラクシュッ! 逃げろお!」

「誰が逃がすか! 吹き飛んじゃえええッ!!」


 奴が途端、手を鋭く横へと振り切る。

 すると紅光球の一つが閃光筋を引き、超速移動していく。

 それがたった一秒とかかる間も無くラクシュへと激突、大爆発を引き起こした。


 考える間すら与えられなかったのだ。

 たったそれだけでラクシュが爆炎に包まれてしまった。

 それだけの事を、アイツはいとも容易くやらかしやがったんだ!


 これが、異世界人の力ってやつなのかよ……!


「あれ……?」


 ただ奴の様子が何か変だ。

 まだラクシュの方を向いたままで。


 ――あッ!?


「まだ、やられは、しないッ!」


 ラクシュはまだ生きていたのだ。

 どうやらかろうじて防御壁を張る事ができていたらしい。

 おかげで爆炎から出てきたその姿はまだ力強いままだ。


 だけどこのままでは……!


「あっそう、じゃあ次で終わらせるから」


 奴が今度は両手をふわりと広げる

 すると残り二つの紅光球が軌道を変え、奴の傍へと漂い始めた。


 本気で終わらせる気なんだ。

 それだけ奴は非情で、俺達の事を何とも思っていない。


 そういうのが異世界人って事なのかよ……!?


「じゃあね、楽しかったよ」


 そして情け容赦なく球が放たれ、瞬時にして爆炎が打ち上がる事となる。

 周辺の舗装を丸ごとえぐるほどに激しく轟々と。

 きっと巻き込まれてしまえば、あんな炎の前では人の肉など一瞬で消し炭なのだろうな。


「……アンタ、なにしてくれてんのよ?」


 だから俺はやってやったのだ。

 奴が魔法を放つよりも、当てるよりも先に。


 ラクシュをインベントリ送りにするという荒業で、窮地を脱させてもらった。


「悪いがよ、あいつも大事な仲間なんでな。簡単にやらせる訳にはいかねぇんだ」

「えっ、あれ、ダンジョンブレイカーって女って聞いてたのに!? 男の声……!?」


 この際、正体はもうどうでもいい。

 今の最悪の状況を覆せるなら、俺は一つでも二つでも芝居を打ってやろう。


 今はウーティリスの声も一切聞こえねぇ。

 それでもなんとしてでも切り抜けてやるッ!


 仲間達の勝利を信じて、何が何でも耐え抜くんだってなあ!


「その通りだ悪逆魔術士めッ! 俺の名はダンジョンブレイカー125号! お前達ゲールトとギルドを倒し、世界に真の自由をもたらす自由戦士だッ!!」

「ひゃ、ひゃくにじゅうごおっ!?」

「そう、そして今も俺と同じダンジョンブレイカーが方々からキサマを狙っている事を忘れるなよッ!」

「ひっ……!?」


 その覚悟の下、俺はマトックを放り投げる。

 しかし直後には腰に備えていたピッケル二本を取り出し、構えるのだ。


 各地より同志が手に入れ、俺のために調達してくれたもう二つの魔掘具を。


 右に〝螺雷鋲ららいびょうヴュラドラ〟。

 左に〝震颯矛しんそうせんカムストール〟。


 これこそ俺が考案した最高防衛術の要なれば。




 ――理論上、俺はもう誰相手にでも負けはしない。

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