第111話 モーリアンの里の入口は奇妙奇天烈でした

 俺達が向かうのはモーリアンの里。

 彼らなら鍛冶神ダンタネルヴの封印されたダンジョンについて何か知っているかもしれないのだそうだ。


 なにせこのエルモニアン砂漠は広大だ。

 おかげで中腹に封印されているとわかっているとはいえ目星が一切つかない。

 おまけに封印されたダンジョンが今発生しているとも限らない。

 だから彼らに話を聞くのが一番早いと判断したのだ。


 しかしモーリアンは人との接触を断って久しいという。

 それで果たしてどこまで俺達の話が通じて、聞いてくれるかどうか。


 着いた途端にとっ捕まるなんて事はあって欲しくないぜ。


「もうすぐン着くンだナー」


 とはいえ行かなきゃどうしようもねぇ。

 ――てな訳で今はモーリアンのドネドネに付いて砂漠を歩いている。


 ただ、もうすぐ日没だ。

 すると今度は極寒が待っている。


 今の装備じゃそんな中に晒されたらあっという間に凍死だぜ?

 下手するとモーリアンに捕まるまでもないかもしれん。


 ちと不安だな。

 砂ずりトカゲをテントごとオアシスに置いて来ちまったのは本当に正解なのか?


『仕方なかろう。トカゲとて生きておる。それをこんな何も無い所に放置するのはあまりに酷であろう?』


 そりゃそうだが……ま、嘆いたって仕方ないか。

 今はドネドネを信じるしかねぇ。


「ここだナー」


 それでいざ連れてきて貰ったのはいいのだが。

 あるのはせいぜい巨大な岩くらいで、周囲はなんて事のない荒野砂漠だ。

 たしかに岩は怪しいけど、だから何だって感じだな。


 実際コツコツと叩いてみたが変な所はないし。


「もうンちっと待つンだナー」


 もしかしてこいつ、俺達を騙していないだろうな?

 自分は砂の中に潜れるからって。


 ……ああいけねぇなぁ。

 どうにも悪い事ばかり考えちまう。

 

『落ち着けラング、そなたはこの三日間の旅でずいぶんと消耗しておるのら。精神的に参っておるのであろう』


 そうかもな。

 実際、気怠くてしょうがねぇ。


 だが弱音を吐いてもいられないのも事実だ。

 チェルトだって辛いだろうし、ラクシュも改造人間つったって暑さは堪えるだろう。

 これならいっそ、俺が地下を掘って進んだ方がいいとさえ思う。

 ただしそれが叶うなら、だけども。


 まったく、この地は無限穴掘りとの相性が最悪だな。

 クソッ、絶対的に経験が足りんぜ。


 そう心で嘆いていたらラクシュが無言で水筒を差し出してくれた。

 まるで心を見透かされた気分だ。


 しかし俺はあえてその水筒を押し返し、ラクシュ自身が飲むよう伝える。

 水分不足で壊れちまったら元も子もないのは俺もコイツも同じだからな。


 それで俺が持つ水筒を開けたその時だった。


「時間がきたンだナー」


 ドネドネが途端に両腕を振り上げてピョンピョンと飛び跳ね始める。


 今は丁度日没。

 ゆえに水平線の彼方へと日が落ちきり、青い闇が空を覆い尽くしていく。


 するとそんな中、突如として異変が俺達の目に映り込んだ。


 なんと岩の一部が四角くキラリと煌めきを帯びたのだ。

 まるで鏡のような光沢と淡い輝きを放って。


「ついてンくるンだナー」

「あれってまさか、隠蔽魔法……?」


 たしかに言われて見れば魔法みたいだ。

 とはいえこんなの見た事もないが。


「あーいや、これはちょっと違うのう」

「え? じゃあなんだ?」


 しかしウーティリスはなんだか悩ましげに顔をしかめている。

 なんだか半笑いのようにも見えるが、なんなんだ?


 そんな中、ドネドネが光る岩の前に立ったのだが。


 その途端、光る岩が横にスライドした。

 それも不思議な「チーン」という音とともに。


「これは自動ドアなのら」


 じ、自動、ドア……?

 どういう自動なんだそれ???


 あ、でもたしかに開いた先になんか通路がある。

 しかも光もついてて明るいし、とっても親切設計ー!


 これにはチェルトやラクシュはおろか、ディマーユさんさえ戸惑いを隠せていない。

 ああ、ついには悩み始めてしまったし。


「師匠、ついて行かなくていいんすか?」

「え!? あ、ああ、そうだな……行こうかみんな」



 その通路は人でも余裕があるほど広い。

 それも徐々に降りて行くよう坂になっているようだ。

 地下に向かっている事は間違いなさそうだな。


 そんな通路へと並んで足を踏み入れていく。

 ……だったのだけど 


「あれ、ここで行き止まり……?」


 さっそく壁へと突き当たった。

 妙な模様のある壁だが、なんなんだ?


「ああーそれも違うぞラング達よ。これはな――」


 だがウーティリスが言いかけた途端、いきなり壁が開いた!

 しかもまた意味不明な「チーン」という音と共に!


「……エレベーターなのら」


 そのえれべいたーとは?

 待ってくれウーティリス、さっきからお前が言っている事がよくわからない。


「まぁよい、とりあえず入ればわかるのら」

「は、入る?」

「お、お邪魔しまーす……」


 よくわからんが、すでにドネドネもディマーユさんも進んで待っている。

 ウーティリスもニルナナカも問答無用で押してくるし、どういう事なんだ?


 ――あッ!?


「と、閉じ込められただとおッ!?」


 しかし入った途端、背後で壁が生えて俺達を閉じ込めやがった!?

 クソッ、こんな狭い中に閉じ込められたら空気が!


「そんなッ!?」

「お待ちください! ここ動いておりますッ!」


 しかも動きやがっただとぉ!?

 まさかこのまま押し潰す気じゃあ……!


「はぎゃーーー!」


 くっ、ラクシュが恐怖に駆られて意味不明な叫び発してやがる!?

 まずい、アホ面モードだ! このままでは!


「よし、こうなったら俺のスキルで!」

「よさんかいバカラングゥ!」


 しかし腕を振り上げた途端、膝裏に衝撃が走ってがくんと曲がる。

 そうして後ろのめりになった所でニルナナカに頭と手首を掴まれてしまった。


 うンオオオ……この体勢、きついんスけどぉ!?


「落ち着かんか、まったく。これは移送用魔導機よ」

「移送用、魔導機……?」

「図書館でも見たであろう? あの球体の仲間みたいなものなのら」

「ああ、あれか……あれの仲間?」

「あとはニュアンスで理解せい」


 あれの仲間かぁ……。

 うんまぁ、そういう自動装置って事なんだろうな。

 知っているのでも少なからず幾つかあるから理屈はわかる。


 しかしこれだけの人を移送できる魔動機?

 そんなパワフルなの聞いた事ないんだが。

 せいぜい本や手紙を運べるレベルだろ?


「ラクシュもだ。お前の兄妹みたいなものなのだから安心しろ」

「あ、そうなのですね。わかりました。よろしくお願いしますお兄様」

「むしろラクシュはそれでどうして納得できるんだ?」


 なんかますます訳がわからなくなったんだが?


「まぁじきに理解できよう。しばし待つがよい」

「お、おう……」


 え、この体勢のままで?

 そろそろ首と背骨が痛いんだけど?


 待って待ってあああああああ――

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