第107話 迫りくる狂気(アーヴェスト視点)

 ううっ、一体なぜだ、どうしてこんな事になった!?

 彼らは一体何者なんだ!? なぜ私を突然襲ってきたんだ!?


 ……そうか、今の私はダンジョンブレイカー2号だったね。


 という事は、つまり彼等はギルドの刺客。

 そして私を始末するために差し向けられたって事かな。


 しかしまさかこれほどの実力とは。

 彼等はまだ子どもに見えるが、個々の能力は間違いなく私以上だ。

 まさか近接戦においてこうも追い詰められてしまうとは。


 特にあの後ろの女魔術士、あれは厄介だね。


 さっきの炎弾はキスティの魔法とそっくりだった。

 あれはまるで爆裂雨を収束させたバスターレインみたいなもの。

 しかも破壊力は段違いに高く、狙いも確かだった。


 おかげで爆炎によって逃げ場を塞がれてしまったようだ。


「悪いがダンジョンブレイカーを倒せって言われているんだ。だから大人しく捕まった方がいいと思うけど?」

「いいやそうもいかないよ」

「むっ……!」

「ダンジョンブレイカーという名を冠した以上、そう簡単に倒れてはいけないという矜持があるのでね……!」


 でも諦めはしない。

 そう、私はダンジョンブレイカーなのだ。

 すべての民の幸せを守る正義の男なのだから。


 そう名乗る以上、彼の背中を穢すような事だけはしたくはないッ!!!


 ゆえに付いていた膝を起こし、再び彼らと対峙する。

 自慢の大胸筋を露わにしたまま腕を組み、まっすぐ立って見せつけるのだ。


 この私こそが! この街を守る! ダンジョンブレイカーなのだと!


「キモッ! やっぱりヘンタイじゃないコイツ!」

「そこは否定しないけど、街自体がああいうスタイルなんだから仕方ないだろ!?」


 動揺しているなッ!?

 やはりダンジョンブレイカーの存在感は伊達ではないという事だ!


 ならばその隙を突いて攻勢に転じさせてもらおうッ!


「「――ッ!?」」


 すかさず少年の方へと飛び出し、拳撃を打ち込む。

 元はヒーラーとはいえ、今の私は薬品効果で格闘さえ可能としているのだ!


「D・Bジャスティスナックルッ!!」

「うわあああっ!?」


 剣の腹で受け止められたが関係ない!

 その小さな体ごと吹き飛ばさせてもらおう!


「カナメッ!?」

「隙あり! D・Bジャスティスキィーック!!」

「きゃあ!?」


 さらには続いて魔術士へと飛び蹴りを見舞う。


 しかしこれも浅かった!

 けれど二人の体勢は崩せたぞ!


「クッ、異世界転移したのにどうして上手くいかないんだ!? ここはほら、オレがドカーンってやれるはずだっただろ!?」

「意味のわからない事言ってないでちゃんと戦ってよ!」

「でもよ、アイツ無駄にオレ達よりかっこよくないか!?」

「知らないわよ!」


 どうやらまだ統制もとれていないようだ。

 ならば私が付け入る隙は充分にある!


 よし、今だ――


「――ううッ!?」


 だがその瞬間、私は本能の赴くままに跳び退く。

 するとその途端、私の喉元を一筋の閃光が走った。


「今のは投げナイフ!? う、あ、あれはッ!?」


 それで咄嗟に投擲元へと視線を向けてすぐに気付く。

 介入した人物がとても信じられもしない存在だったのだと。


「バ、バカな、ギトス君、だと……!?」


 なぜ彼が遠いこの街にいる!?

 彼は上級ギルド員となってワイスレットで働いているのでは!?


「二人とも何をしている? お前達の力なら奴を倒す事ができるはずだと思って送り出したつもりだったのだが?」

「あ、ギトスさん!?」

「そんな事言ってもアイツ、思ったより抵抗が激しくて……」

「言い訳なんて聞いていない。結果を出さなければ無意味だと言ったはずだ」


 つまりギトス君があの二人をけしかけたという訳か。

 なるほど、ワイスレットに留まらなかったという事かな?


 だけどこんなヴィンザルムにまではるばるやってくるなんてね……!


「久しいなダンジョンブレイカー……! ――あれ? いや別人? な、なんなのだ奴は!?」


 とはいえ私の変装は完璧だ。

 いかなギトス君とはいえ私がアーヴェストだという事はわかるまい。


 ならば引き続きダンジョンブレイカー2号として対峙するまでだ!


「ふはははっ! 私の名はダンジョンブレイカー2号!」

「2号、だとぉ……!? くっ、ゲールトめ、偽情報を掴まされているじゃないか……!」

「貴様が何者かは知らないが、私がまとめて叩き潰して――」

「まぁ関係無い。倒してしまえばいいだけだ」

「――ッ!?」


 だがその時、ギトス君はすでに私の懐にいた。

 一瞬で距離を詰め、剣を下げ掲げつつ踏み込んでいたのだ。


 そして直後、斬撃が襲う!


「うおおおッ!!?」


 その斬撃は私のガードする両腕を断ち切る事はできなかった。

 薬品に強化された肉体は鋼のように硬いからこそ。


 ただその力はすさまじく、後ろへと強く弾かれる事に。


「ぐはっ!? くっ、なんて力と速さ……! まるで全盛期と同等、いや、それ以上だ!」


 それでもうまく地面を叩いて跳ね上がり、うまく着地を果たして体勢を立て直す。

 けれど腕に走った違和感で驚愕させられてしまった。


 強化された腕がざっくりと斬られていたのだ。

 まさかここまでの強さとは……!


「ダンジョンブレイカーの名を冠する者は誰であろうと斬る。それが僕の復讐だ! そこの二人も見ているがいい、これが真の戦いなのだと……!」

「くっ!?」


 まずいね、これは。

 あの攻撃力をもう一撃受けて耐えられる気がしない。

 しかもあの速さだ、回避するのはほぼ不可能だろう。


 ならば私も、切り札を出そう!


「ッ!? ……ほぉ。キサマ、命波を放てるのか」

「この力なら君のような強者にでも勝てるはずさ……!」


 命波を溜めて威嚇する。

 これだけで彼なら飛び込む事を躊躇するだろう。

 迂闊に飛び込めば共倒れしかねないと。


 ギトス君は命波が見えていても使えないと聞いているからね。

 ならその話を利用させてもらうとするよ!


「だがそんな物を見せられて躊躇う僕だと思うか?」


 く、止まる様子はないか。

 まるでそれ以上の自信があるかのようだよ。


 なら、やるしかない!

 来い、ギトス=デルヴォ!


「はああああああ!」

「一瞬で片付ける!」


 飛び込んで来たッ!? やはり速い!

 ならばせめて、刺し違えてでも!


 それがせめてもの、世界に対する私の償いならば――




 私の願いがほとばしる。

 そしてギトス君の鬼気が迫りくる。


 ならばきっと私はこれで死ぬのだろう。


 けれどもう悔いはない。

 ここまでにできるだけの人々を救えたからね。


 だから、どこかにいるであろう本物のダンジョンブレイカーよ。

 後はどうか、よろしく頼む。




 ――そう願った時だった。


 突如として私とギトス君の間に衝撃が走る。

 しかも瞬時にして大地をえぐり、消し飛ばして。


 その光景を前に私は、そしてギトス君もが目を疑わずにはいられなかったのだ。


「その戦い、ここまでにしてもらうぞッ!!」


 その中で雄叫びが響き、咄嗟に見上げればまたしても目を疑う事に。

 なんとその者は空中にて堂々と立ち、腕を組んで見下ろしていたのである。


 恥ずかしげもなく女児用パンツを被る雄々しい姿の男が、だ……!




 私達はその圧倒的な姿を前にただ唖然とするしかなかった。

 けれど私にとってこれほど心強いと思う相手はいない。


 予想が正しいのであれば、彼はきっと……!

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