第59話 また上級ダンジョン出現!

 夕暮れ前のテント市場は俺達貧乏人には天国のような場所だ。

 売れ残った商品だけでなく、クズ素材やクズ食材がゴロゴロ転がっている。

 そういった物を激安で引き取れるのが実に助かるのだ。


 ただ、そのおかげで俺達ハーベスターは「ゴミ掃除係」と疎まれる事も多いが。


 そんな市場にやってきて今日も肉を買う。

 チェルトがいるからその辺りは遠慮なく贅沢ができる訳だ。

 いやー人ってのは助けるに限るねぇ!


 ニルナナカも楽しそうでよかった。

 ウーティリスと一緒にはしゃいで商人ともおしゃべりしているし。

 うん、馴染めそうでなによりだな。


 さて、得られる物も得たし、そろそろ帰って――


「ッ!? あ、あれはあッッッ!!!??」


 しかしふと見えたモノに対し、思わずテントの裏に隠れてしまった。

 あまりにも驚愕で、予想外で、信じられもしない光景だったからこそ。


 なんとあのS級勇者エリクスが歩いていたのだ。

 しかも、しかもあろう事かナーシェちゃんと二人きりで、だとおおおおおお!?!?


 どどどどういう事だこれは!?

 ナーシェちゃんは今日休みだろ!?

 なのになんであのエリクスと一緒にいるんだよぉぉぉ!?


 しかもチラリと覗いたら、すっげえ楽しそう!

 楽しそうに笑い合って、とっても活き活きしてやがるぅぅぅ!!!!!


 ……そうか、そういう事なのか。

 もしかしてナーシェちゃんはアイツと……ギリィ!!!!!!!!!


 もう涙が止まらなかった。

 握り締めた拳から血も流れ出そうだった。

 俺達の天使はもう、はるか遠くに行ってしまったんだと気付いてしまって。


 ああ神よ、俺達に慈悲を……!


『そんなに慈悲が欲しいならぁん、今夜わらわのベッドに来るがよいわぁん♡』


 なんだ、お前の洗濯板で俺の慈悲でもすりおろすつもりか?


『ギリィ!!!!!!!!!!』


 クッ、でも仕方ないよな。

 そうさ、俺にはナーシェちゃんは釣り合わない存在だったんだ。

 もう最初からわかっていた事さ、そんなの。

 だからもう諦めよう。天使は俺達の下から去ったのさ……。


 そんな失意のまま、俺はウーティリスとニルナナカを連れて帰還した。

 あの二人を祝福する事も叶わない自分の卑しさに嫌気を差しながら。


 そして夜となり、夕食を作ってチェルトの帰りを待つ。

 なんだかもうこの方が板に合ってて落ち着きそうだ。

 いっそ本当にチェルトを相手として決めてしまおうか……玉の輿だし。


 そう悩みながらボケーっとしていたら、突然そのチェルトが扉を叩き開いて帰ってくる。

 それも真剣な表情を浮かべたままに俺へ向いて。


「ラング! 上級ダンジョンが出たわ!」

「なっ!?」


 しかもやぶからぼうにとんでもない事を言い放った。

 上級ダンジョンだって!? そんなバカな!?


「上級って……二ヶ月くらい前に出たばかりじゃねぇか!?」

「そうなの。こんな早いスパンでまた近場に出るなんて珍しい事だわ。それに、もう勇者達も出発しようとしているの! 場所は南南西のビルツ盆地よ!」

「なにっ!? こんな夜なのにか!?」

「おそらくはダンジョンブレイカー対策ね」


 この際だから上級が出た事はいいとしよう。

 だが勇者達の動きが早すぎるな。

 一ヵ月いなかったから気が緩んでいるかと思ったら違ったらしい。


「わかった、情報ありがとな。それじゃあ俺もさっさと行くとするか」

「私も念のため付き合うわ」

「いや、それは必要ない」

「どうして!?」

「まだチェルトじゃ俺にはまだ追い付ける保証はないだろ? それに君だってダンジョン攻略に召集されているはずだ」

「そ、それは……」

「だったら通常通り参加した方がいい。変に疑われないためにもな」

「……わかった。装備はまたいつものにしておくから、もし対峙したらその時はお手柔らかにね」

「そん時は任せろ。適当に誤魔化してやるからさ」


 今のチェルトには勇者稼業を第一に考えてもらおう。

 せっかくA級――〝紅騎士〟の称号を得たんだからな。


 それにA級に上がったからといっても、やる事やらにゃ箔も付かない。

 なら今後のためにもダンジョン攻略参加は必要な事だ。


 だからチェルトと拳をコツンと突き当てた後、彼女を見送る。

 そして俺も即座に装備を身に着け、食事も腹にかけ込んだ。


 よし、これで準備万端だ。

 ささっと財宝をかっさらってくるとしようか!


「ニルナナカは家で待機していてくれ。誰か尋ねてきた時、俺がいるように見せかけて欲しいんだ」

「わかりま、したぁ~~~」

「よし、いくぞウーティリス!」

「うむっ!」


 こうして俺達は意気揚々と地下室へ飛び込み、現場へと向かった。

 二ヶ月ぶりの上級……そこで待つ財宝に心を躍らせながら。


 しかしどうにも不安がぬぐえない。

 どうしてこんな早くに上級ダンジョンが沸いてしまったのかと。


 ただの思い過ごしならそれでいいんだけどな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る