第38話 首都アラルガン

 チェルトの誘いで首都に向かう事となってはや二日。

 馬車に何度も揺られた末に、俺達はやっと首都アラルガンへと辿り着いた。


 アラルガンは言わずと知れたこの国〝クラウース共和国〟が誇る最大の都市。

 規模は商業都市ワイスレットのおよそ二倍ときたもんだ。

 そのためワーカーギルドも三つの庁舎が存在するほどである。


 ワイスレットのギルドには移転届けも出したし、しばらくはこの首都を拠点に働く事となるだろう。

 ナーシェさんと会えないのは寂しいが今は我慢だ。


「……今、別の女の事考えていませんでした?」

「勘が鋭いねチェルト様!?」

「で、誰の事を考えていました?」

「え、えっと、受付嬢のナーシェさんです……」

「あ、ナーシェちゃん可愛いですよねー」

「で、ですね……」


 ちくしょう! 表じゃ絶対に逆らえないのを良い事に手玉に取られている!

 これ想像以上に神経使うぞ!? 宿まで耐えられるのか!?


「あ、宿はとりませんよー。このまま目的地まで行きます」

「なぬ!? あ、いや、はい!」

「にゃははは、随分と尻に敷かれておるではないか~!」

「そりゃね、ハーベスターだから俺の存在そのものが茣蓙ござみたいなもんよ」

「もぉ、別にそういうのはいいのにー」


 そうもいきませんよー世間の目はどこから見ているかわからないのだから。


 さて、それにしても。

 首都ってのはワイスレットと比べて随分と建築様式が違うな。

 広すぎるせいか、街道も半端じゃなく大きい。

 馬車が普通に行来しているくらいだ。街中の移動も馬車なのかこれは。


 それに建物に入った店も形がビシッと揃っていてとても綺麗だ。

 ワイスレットのテント市場は毎日配置が変わるくらいゴッチャゴチャなのに。


 建物自体もすごく統一感があって、どれも背が高い。

 首を思いっきり曲げて見上げないと見きれないくらいだぞ。

 でも道が広いから解放感もあるし、実にうまくできていると思う。


「ラング~こっちなのら~! ぼーっとしてるでなーい!」

「あ、ちょっ!? いつの間に!? 少しくらいは景観を楽しめよぉ!」


 それで気付けばウーティリスとチェルトがもう馬車に乗っていた。

 まだ乗るなら乗ると早く言って欲しかったよ!


 それなので俺も即座に乗り込み、どこかへ向けて出発だ。


「この街はね、時間が大事なの。だから景観を楽しむならそのための時間を設けなきゃダメだよ」

「寄り道している暇はないって事かい」

「そういう事!」

「ずいぶん詳しいな、来た事があるのか?」

「もちろん! だって私、ここ出身だもの!」

「「おおーっ!?」」


 まさかチェルトがアラルガン生まれだったなんてな。

 となると実家は一体どこなのやら。

 たしか両親がハーベスターって話だし、郊外だろうか。


 そう思いながら馬車に揺られる事、十数分。

 ガタガタという衝撃が走ると共に、ケツに伝わる振動が止まった。

 どうやら目的地に着いたようだ。


 それで扉を開けて外に出てみたのだが。


 なんか高過ぎる柵と、その先にすさまじく広大な庭が見える。

 あと庭の向こうには豪邸も見えるし、奥には林も見えるんだけど?

 というかそれしか見えないし、どういう事なんですかねこれは。


「着いたよ! ここに伝説の武具を買い取ってくれる人がいるの!」

「うん、買い取れそうな人がいる気がするね……」

「家主がね、そりゃもう伝説の武具コレクターで、そういうのに目が無いのよー!」

「はは、レベルが違い過ぎるねそりゃ……」


 しかもチェルトが遠慮なく大きな門を押し開く。

 いいのか勇者!? 勝手に侵入してるけど!?


 これには俺もウーティリスも戦々恐々だ。

 チェルトの後ろに隠れてコソコソと歩き付いていくしかない。


 そうして付いていけば、当然屋敷の前へと辿り着く訳で。

 その扉さえ躊躇いなく開くチェルトを前に、俺達はもう狼狽えるしかなかった。


「おお、やっと帰って来たかチェルトォ!」

「「「おかえりなさいませ、チェルトお嬢様!」」」

「うん、ただいまーおじいちゃん! メイドの皆さんも!」

「え、おじいちゃん……?」


 でも開いた途端に迎えてくれた人達と、その言葉に唖然とするばかりだ。


 どういう事?

 もしかしてここ、チェルトの実家だったの?


 え?


「おお、チェルト、よく帰ったねぇ~!」

「逢いたかったわ~チェルト~!」

「あ、パパ、ママー!」


 ああ、感動の対面だ。

 豪邸に住むチェルトの家族が総出で迎えてくれたみたいだ~。


 ――って待てぇぇぇい!!!!!


 絶対おかしいだろ!?

 両親ハーベスターとか言ってなかった!?

 なのになんでこんな豪邸住んでるのよ!?


「もしかして彼がラングさん?」

「そう、婚約者なの!」

「婚約ゥ!? そこまで話行ってた!?」

「わらわも聞いてない!」


 おいおいおい!? 話がぶっ飛び過ぎだろ!?

 なんか行く前に手紙を送ってたと思ってたけど何書いてくれてんの!?


「うふふふ、チェルトの母ですぅ」

「父です。同じハーベスターとしてとても誇りに思います! まさか娘があなたのような素敵な男子と出会うなんて、ははは!」

「ワシはまだ認めとらんぞぅ。彼を認めるかどうかは実際に語り合って見極めよう! あ、でもその筋肉すばらしいから認めてもいいかな」

「決断速いよさすがチェルトさんの家族ゥ!!!!!」


 想像を絶する展開だ。

 というか一ミリたりとも予測していなかった。


 なんだこのファンタスティックファミリーは。

 なんだこのエクセレントハーベスターは。

 こんなのが同業者だなんて俺は絶対に認めなぁい!!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る