第30話 醜悪な嘘つき達

『下劣らのう。どうしてああも嘘八百を自慢げに語れるのか』


 ああ、俺も同じ気持ちだよウーティリス。

 奴らにあの時味わった気持ちをまるめて叩き返してやりたいくらいにな。


 まさか俺の救出劇を嘘で歪めやがるなんてな。

 それも奴らの武勇伝に仕立てやがった。許せねぇ……!


「だがぁ、今度会ったらタダじゃあおかねぇ。俺達が正義の剣で奴を裁いてやるぜ」

「ええもちろんアタシもぉ! そして二人でA級になろっ!」

「もちろんだよラクシュ。お前と、そして付き従ってくれるモーヴとで頂点を目指そうっ!」

「あんがとごぜぇます! 一生ついていきますっ!」

「ふふ、当然よぉ! だってアタシ達はパーティですものっ!」

「「「ハハハハ!」」」


 でも何かおかしい。

 妙な違和感を感じる。

 どうして奴らはチェルト氏の名を挙げないんだろうか?


 たしか彼女はかなりの実力者として有名だったはず。

 勇者になって間もなく幾つもの戦績を残し、すぐにB級になったから。

 そしてそのまま一気にA級か、だなんて言われているくらいだったのだが。

 あのギトスと同じように。


 彼女も相応の実力者なら、名声のために入れておくべきなんじゃないか?


 ……いや、よそう。

 俺達には関係のない事だ。

 もう勇者とは金輪際、直接かかわりたくない。


 どうせチェルト氏も内心では俺の事をバカにしていたのだろう。

 あいつらと同じだ。上納金を得るための作戦だったんだろうよ。


 そんなのを気にするくらいなら、忘れた方がマシだ!


『ラング……』

「帰ろうウーティリス。ここは空気が悪い」


 だから俺は無言でカウンターへ。

 欲しい調味料と水、そしてビン酒を一本買い足し、店を後にした。


 明日は正規の仕事があるからな、これを飲んで備えよう。

 嫌な事はもうアルコールで頭を掻き回して忘れちまった方がいい。


『付き合おうラング。今日こそは』


 おう、頼むよ。

 じゃないと心がぶっ壊れちまいそうだ。


 ――それで俺達は静かに家へと帰り、肉と晩酌を楽しんだ。

 あとはほんの少し二人で話して、肩を組んで触れ合って。

 その後は記憶にないが、少し気持ちが良かったのだけは覚えている。




 そうして気付けばもう朝になっていた。




「ほれラング、朝らぞ! 仕事らぞ!」

「おぉ~……ぐぅ、頭いてぇ!」

「ったく仕方ないのぅ。さくっとエリクサーでもブッ込んで起きるのら!」

「あーその手があったかぁ~~~うおお、動け、俺の指ぃ~!」


 それほど飲んでいないつもりだったんだがな、まさかの二日酔いだ。

 しかしそれでもがんばってインベントリを開き、エリクサーを使用する。


 おかげで速攻復活!

 やはり寝起きはエリクサーに限るぜ!

 贅沢? いいや違うね、これは必要経費だ!


「採掘士の準備はわらわが整えてやったから感謝するがよいぞ」

「え、なに、なんで今日そんな優しいの? やだ怖い」

「わらわはぁ、いつでも優しいのらぁんっ♡ 昨夜だってぇ♡」

「いかん、ツッコミ入れたいのに今日はできない気がするッ!」

「にっししし!」


 だがコントしている暇はない。

 もうすぐ集合時刻だ。これに遅れればまたメガネがうるさいぞ!


「急ぐぞウーティリス! 早く背に乗れ!」

「お、わかっておるのう!」

「朝飯は抜きだ、許せ!」

「わかっとる、どうせ買う金もなかろう」


 すぐさま装備を身に着け、速攻で家を出発。

 猛ダッシュで街道を駆け抜けてギルドの前へと到着だ。ギリギリセーフ!


 鉄面皮メガネがフレームを摘まんで待っていたが、今日は一発もやらせなかったぜ!


「今日もうーちゃんが一緒なのですね」

「ああ。今日もよろしく頼むよ、ルルイ、ヤーム」

「ええ、気軽に行きましょう!」


 それでみんなでいつも通り馬車へと乗り込み、ダンジョンへと向かう。

 ここでもウーティリスが注目を浴びるから退屈はしない。

 子どもには勇者も手が出せないからな、いい風見鶏になってくれているよ。


 やはりこの仲間達はいい。

 裏切る事がないって信じられるからな。


 だからいつものように馬車を降り、ダンジョンへと侵入。

 今だけはモンタラーもポータラーでも信じられる気がするよ。

 あの勇者達と比べれば優しいもんだ。


「ここは先日騒ぎになったトラップの場所が近い。だから気を付けろよ。お前等ごときがダンジョンブレイカーに助けられるとは思うんじゃねぇぞ?」

「「「へーい」」」


 そして恒例のようにポータラーの憎まれ口。

 こう聞くと優しさが溢れているとさえ思えて仕方がないねぇ、まったくよぉ。


 今日は気分もいいし、無心で掘るとするか。

 たまにはスキル無しで掘ってもいいよな。歌いながらにでも。


『待て、ラング』


 え? なんだウーティリス?

 やっぱりスキル使った方がいい?


『そうではない、何か妙であるぞ。このダンジョンにわらわ達以外の何かがおる!』


 何? それは一体どういう事だ?

 何を感じたんだウーティリスは……?


 どうやらこのダンジョンにはまだ俺を惑わす何かが残されているらしい。

 一体なんなんだもう。いい加減放っておいてほしいんだが!?

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