第20話 ギトス様一行、上級ダンジョンへ行く(ギトス視点)

「A級の皆さま方、ダンジョンに到着いたしました!」

「ごっくろー! ささ、みなのしゅー出陣でござーい!」

「はははっ、あいかわらずキスティは元気ですね」


 遂に来たか、稼ぎになる上級ダンジョンが。

 もう半年ぶりぐらいになるかな、以前に荒稼ぎさせてもらったのは。


 そしてこのギトス=デルヴォ様がまた飛躍する時がきたのだ!


 ……が、今日は珍しくA級四人が揃っている。

 先輩方の顔を立てて、今日は大人しく後発に甘んじるとしよう。


「ギトス君、そう遠慮は無用ですよ? 如何に攻略するかは自由。それが勇者の鉄則ですからねぇ」

「申し訳ないアーヴェスト殿。顔に出ていましたか」

「苦言! ギトスよ、まだ貴殿は若い。ゆえにいざ仕方なし!」

「お優しき助言、心に痛み入りますよ。デネル殿」

「いこーいこー、魔物をぜんぶぶっころすのだーっ!」


 まったく、誰しも癖の強い者達だ。

 だが実力は本物。僕など所詮まだその一番下でしかない。


 でもいつかはすべてを超えてみせるさ。

 それが僕の勇者となった理由で、悲願なのだから。

 師匠に再び出会い、その横に並び立つというね。


 ……いや、もしかしたらもう超えているかもしれないな。

 あの人が結局何者なのかもわかっちゃいない以上は測りようもないけれど。


 さて、三人とも馬車から降りたし、僕も行くとしよう。


 僕達四人に続いて、B級どもがゾロゾロとついてくる。

 どいつもこいつも僕達のおこぼれに預かろうと目を輝かせているな。

 フンッ、卑しい奴らだ。


 まぁいいさ、せいぜい足掻くがいい。

 ワイスレットが誇るA級四人が揃った今、お前達に渡す物は何一つないと思え。


 その自信の下、ダンジョンへと足を踏み入れる。

 するとさっそく弱小の魔物が数匹走ってきた。


「カスが、剣を抜くまでもない」


 しかしそれを僕が縦横無尽に飛び跳ね、蹴りだけで瞬殺。

 先輩方の道を切り拓いてやった。


「行きましょう皆さん」

「元気がいいねぇギトス君は。病弱な私には羨ましいよ」

「ぷぅー! 次はキスティがやるーっ!」


 そうして深層へと向けて一気に突き進む。

 しかしまだまだクソザコだらけで手ごたえがないな。

 やはり僕達にとっては魔王級でなければ戦い甲斐がない。


 強くなるなら、やはり魔王とも真剣にやり合わなくては。


「おやぁ、おかしいですねぇ……宝の匂いがしたと思ったのですが」

「えーっ、また無いのぉー!? キスティ、ぱかぱかしたかったのにーっ!」


 しかしおかしいな、道中のどこを通っても宝がない。

 それらしい空間はあっても、ただの行き止まりばかりだ。

 だいぶ深くまで侵入したと思うのだが、まだ一個も見つからないのは何故だ?


 ……妙な違和感を感じるな。


「あ、みてみてー、ドクロがいっぱいぱたぱたしてるーっ!」

「奇怪! 魔王の眷属であろう!」

「おやおや、スケルトンフライですか。となると魔王は不死族かな? ふふふ、ちょっと楽しみになってきましたよ、不死生の称号を持つだけにねぇ」


 ちょっとは手ごたえのある相手がきたか。

 ならすみませんが、先手を打たさせて頂く!


 ゆえに閃歩――光の如き速さで突き抜け刃を奮う。


 食らうがいい、これが閃滅候の名を得た僕の実力だ!

 一瞬で貴様らをゴミクズに変えてやるッ!!!


「……おやぁ?」

「あっれー?」

「笑止!」


 ――な、何ッ!? バカな!?

 僕の刃が、止められた!? 


 全力で切ったのに切りきれない、何故だッ!?

 

「ちいいいっ!!!」


 だが諦めず、刃を跳ね上げ魔物をかち上げる。

 それと同時に蹴りによる叩き落としを見舞い、頭蓋を砕いてやった。


 しかしその直後、他の魔物達が一斉に僕へと襲いかかってくる事に。


「どぉーーーんっ!」


 でもその魔物達はキスティ殿の重力砲弾により一匹残らず消し飛ばされる。

 あいかわらず広域攻撃魔法が強いな、あの人は。


 おかげで助かった。わずらわしいが表向きだけでも感謝せねば。


「申し訳ないキスティ殿。恩に着ます」

「いーよいーよー!」

「しかし珍しいですねギトス君。あの程度の雑魚を仕損じるなんて」

「どうやら調子が悪いようです。新調した武器がナマクラなのかもしれません」


 それにしても大恥をかいたな。

 せっかく武器を新調したばかりだっていうのに、なんてザマだ。

 こうなったら後でこの剣を仕立てた鍛冶士を糾弾してやる。


 こんな事ならミルゴタイト精製を急がせるんじゃなかったか。

 ラングの奴に見せつけようとしたのがアダとなったな。


 まぁ今はいい。

 それなら魔王を討伐した際、剣が出たら無理を言って譲ってもらうだけさ。

 所詮、人が作った武器なんて一時凌ぎのモノでしかないんだからな。


 ――そこからは先輩方と協力しあい、最深層へ。

 進めば進むほど深くなるこの瘴気のせいで、もうB級は付いて来れていないな。

 ここからは精神力がものを言う。雑魚どもでは耐えられんだろうさ。


「さぁそろそろかもしれないよ。みんな、気合いを入れて行こう」

「御意!」

「おっおー!」

「剣が役に立たない分、僕が盾代わりになります!」


 そんな中を突き抜け、とうとう最奥に辿り着く。

 それで僕達は武器を構えて最後の部屋へと乗り込んだのだが。


「なっ……魔王が、倒れている!?」

「おやおや、これは一体……」

「不可解!」

「えーキスティつまんなーい!」


 ま、まさか魔王がもうすでに倒れているなんて……。

 ううっ!? ちくしょうッ、宝ももうすでに無いじゃないか!

 って事はまさか、もう全部漁られた後って事なのかよ!?


 くっ、これは一体どういう事なんだ!?

 僕達が得るはずだった宝をよくも……一体誰がこんな事をしやがったぁ!!!


 ふ、ふっざけやがってぇぇぇ……絶対に許せねぇぇぇぇぇぇ!!!!!




 こうして僕達の上級ダンジョン攻略は不完全燃焼で終わったのだった。

 ただ雑魚を倒して回るだけの、B級でもできる簡単なクソ仕事として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る