逆襲のダンジョンブレイク編

第10話 こんな理不尽な事ってないだろう!

 いやぁ~この間は実に痛快だった。

 レア鉱石をたくさん持ち寄った時の監視者どもの驚き顔ったらもう!

 俺がズンズンズンとブツを渡すたびに顎が外れそうになっていたぜ!


 それでもって彼等が詐称を働く事はない。

 監視者はいわば真偽を証明する力を有していて、それは自身にも効いてしまう。

 それなのでちょろまかそうものなら自分自身に罰を与えなくてはならなくなるんだ。


 だから報酬授与日の今日が待ち遠しくてたまらなかった!

 一体いくらぐらい貰えるのかってなぁ!


 ……だったのだが。


「なにぃぃぃ!? たったの一七〇〇ルカだとおおおおおお!!?」


 俺は驚愕の金額を前にして、つい受付前で咆えてしまった。

 おかげで受付嬢のナーシェさんがビックリしてしまっている。


「一七〇〇っておぉい、平均採掘報酬の二回分程度じゃんか!?」

「え、ええ、そうですよね……」

「内訳見た!? 激レア鉱石山盛りだっただろ!? 豪邸建てられる量よ!?」

「は、はい、しっかりと……」


 当然ながら末端員であるナーシェさんに罪はない。

 それに本来ならこんなに責め立てたくもない。

 彼女は俺達ハーベスターにも理解を寄せてくれる数少ない一人だし。

 ついでにピンクの短髪で大人しく仕草が可愛い俺達の希望の星だしィ!!!!!


 しかし咆えずにもいられない。

 あまりにも非常識な報酬額をこう目の当たりにしてしまえば。


「あのね、ゼロが二~三個ほど足りないと思うんだけど?」

「私も変だとは思いますが、これがギルドの出した結論でして……」

「でも一年前にナザロがオリハルコン鉱一個当てて家建てたよね? たしかあの時は八九万とかもらってたと思うけど?」

「ええ、そうでしたよね……やっぱり変、ですよね」


 そうしたらナーシェさんが「スッ」と内訳明細書を出してくれた。

 そこにはしっかりとレア鉱石の名が連なっていて、嘘ではない事がわかる。

 監視者達も偽りなく仕事しているってハッキリわかったよ。


 だが個々の価格設定がおかしい!

 なんなんだ、普通の鉄鉱と価格差がほとんどないじゃねぇか!?


「うるさいですよラング=バートナー!」

「うげっ!? 来やがったか鉄面皮メガネ!?」

「ここはあなたのようなケダモノが咆えていい場所ではありません!」


 しかも唸っている間に苦手な奴がやってきやがった。


 勇者達を相手にする上級受付嬢、レトリー=グレビュール!

 いちいち俺に突っかかり、蔑んで見下してきやがる!

 今もメガネをクイクイしまくってイライラを隠しきれていねぇ!


「ナーシェ=アラーシェ、少し彼等に甘くはありませんか? しっかり押し通しなさい」

「は、はい、申し訳ありません……」

「よろしいか、ラング=バートナー?」

「お、おう……」

「近年は勇者がたの活躍が著しく優秀であり、我々ギルド側の保証が間に合っておりません。ゆえにより公平に対価を支払うために物価レートを調整したのですよ」

「だからってゼロが一つ二つ減るのはおかしくないか!?」

「おだまりなさい、ハーベスター如きが調子に乗るなどおこがましい! 我々ギルドがなければ物の売買すら許されない存在でしょうに!」

「うぐっ……」


 やはりコイツは嫌いだ。

 勇者と同じで俺達を見下し、その上でこうしてゴリ押ししてくるから。


 嫌な目だよ、まったく。

 まるで汚物を見ているかのように冷徹で。


「……すまなかったなナーシェさん。ひとまず報酬は受け取っておくよ」

「はい、期待に応えられず申し訳ありません、ラングさん」

「ケダモノになど謝らなくてもよろしい」

「ちぃ、うるさいよ鉄面皮メガネ」


 他のハーベスターにはほぼ無視をキメてくるのにな。

 どうして俺にだけ絡んでくるんだろうな。本ッ当にメンドクサイ奴だ。


 ……しっかし、これからどうするか。


 たった一七〇〇じゃロクに服も買えやしない。

 せっかくウーティリスに「帰りに豪華な服でも買ってきてやろう!」だなんて豪語したのに、ホント情けない話だよ。

 あいつが今も家で期待していると思うと心苦しくてたまらん。


 ああーどこかにまたレア鉱石転がって無いかなぁ~……。


「やぁ~ラング、随分としみったれているじゃあないか?」

「うっ!?」


 しかし幸運なんてそう落ちている訳がなく。

 それどころかこの街には不幸ばかりがこぞってやってきやがる!


 ギトス=デルヴォ……!

 またお前かよ! しかもご丁寧に仲間まで引き連れて!


「どうしたぁ? お給金が少なくて泣きべそでもかいていたのかなぁ~?」

「え、ええ、はい、まぁそんなところ、です」

「ハハハ! さすがハーベスター、情けない話だなぁ!」

 

 こっちが下手に出ているのを良い事に、勇者達総出で笑ってくる。

 いちいち人を笑いものにしないといけないのか、お前達は……!


「そうそう、聞いてくれよラングゥ! 最近装備の調子がよろしくなくてね。そこでちょっとギルドに都合してもらえないか聞いたらさぁ、『たまたま』レア鉱石がたくさん仕入れられたっていうじゃないかぁ!」

「ッ!?」

「だからA級特権って奴でね、安く譲ってもらったんだ。見ろよこの上鎧を! ミスリルをベースに、オリハルコンと輝金で装飾を施したんだ。あとこの剣もすごいだろう? ミルゴタイトをふんだんに使って、マルキオンジュエルに魔導錬成をほどこして魔剣に仕立ててもらったのさ」


 な、なんだと!?

 それは、まさかっ!?


「あ~君にそんな事を言っても価値なんてわからないよね? だってハーベスターだもんなぁ」

「「「ははは!」」」


 わからない訳がない!

 知らない訳がない!


 キサマの装備は、俺が納品した素材でできているんだからなッ!


 そうか、そういう事かよ。

 おかげで報酬の少ない理由がよぉくわかったよ……!


 コイツだ!

 コイツがちょろまかしたんだ!

 勇者特権とかいうモノを利用して俺の稼ぎを打ち消しやがった!


 そしてそれをあからさまにひけらかしに来た。

 それはつまり確信犯なんだ。


 ギトスは「俺の報酬を横取りした」って堂々と自慢しにきたって事かよぉ……ッ!


「じゃあそういう訳だから。まぁせいぜい掘りまくっててくれよ。僕達のためにね」

「「「あばよラングゥ、ギャハハハ!」」」

「くっ……!」


 悔しい! 悔し過ぎる!

 俺達は結局何をしても奴らに搾取されるだけなのか!?

 いくらがんばっても報われないのか!? たとえ神のスキルがあったとしても!


 ……いや、そんな訳がない。

 俺のスキルにはまだ可能性が秘められているハズだ。

 まだ何もしていないし、始めようとさえしていないんだからな。


 だったら、今度はもう失敗しない!


 見てろよギトス。

 お前達をいつか見返してやるぞ。

 暴力でも詐欺でもなく、お前がやれと言った「掘る事」だけでなぁ……っ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る