第8話 振り抜け、己の力を信じて
「もうやめやがれ! 二人には手を出すなあっ!」
ウーティリスに諭され、己の足で一歩を踏み出す。
友人のルルイとヤームを助けるために。
そして俺に刻まれたギトスのトラウマを払拭するためにも。
「なんだぁ、テメェ……?」
「あいつラングだ。閃滅候殿の遊び道具だぜ」
幸い、二人は俺の事を知っているらしい。
ギトスが事あるごとに俺をいたぶるからな、有名なんだろうよ。
だからこそ興味があるはずだ。
どうして奴が俺にそこまで執着しているのかってな……!
「あんなクソヤローがなんだってんだ? 俺はラング=バートナーだ! 勇者なんかこれっぽっちも怖くねぇ! それがどういう事かわかるかあっ!?」
「あぁ!?」
「ムカつく奴だって事にゃ変わりねぇ……!」
そうだ、注目しろ!
ルルイとヤームへの執着を俺に向けてみろ!
「ああもういいや、アイツブッ殺しちまおう」
「そうだな、ギトスさんにも『残念でしたねぇ~』って言っとけば済む事だぜ」
ああ良かったよ、こいつらが単純明快で。
おかげで俺もやりやすいってもんだ。
じりじりと奴らが近づいてくる。
剣を構え、痛いほどの視線を浴びせてきながら。
「これが殺意ってやつなんですね、師匠……!」
その気に押されたのか、つい後ずさりしてしまった。
どうやらその瞬間を奴らは見逃さなかったらしい。
「ハハッ、奴めビビッてやがるぜ!」
「怖いのかよ!? ならそうも思えなくしてやるぜ、すぐになぁ!」
ああ、怖いさ。
怖くて怖くてたまらない。
奴らが今走ってくるこの瞬間にも漏らしてしまいそうにな。
ただしお前らにじゃない!
俺の持つスキルがどこまでやれるかに対してだッ!
ゆえに俺はもう止める気などなかった。
奴らに向けてただ必死にマトックを振り抜くだけで良かったのだから。
そしてその瞬間、白光。
その光はほんの一瞬の出来事だった。
視界がたった数秒塞がれるだけの。
ただその数秒だけですべてが終わっていたのだ。
「……よくやったのう」
「ああ、これもすべてウーティリスのおかげだ」
その証拠に今、俺達は太陽を拝んでいる。
地上にまで続く巨大な穴を見上げながら、白光の正体の素を。
そう、たった一振りで目の前の障害すべてを掘り尽くしてしまったのである。
それもあの二人の勇者もろとも、跡形もなく。
「ラ、ラング、これは一体……?」
「私達、夢を見ているのかしら……?」
「いいや、夢でも幻でも無いよ」
「じゃあどういう事?」
「……そうだな、さしずめ神の所業ってやつかな」
「うむーっ!」
もちろんルルイとヤームは無事。
あの勇者どもが俺に近づいてきたから巻き込まずに済んだよ。
まぁもっとも、巻き込んでも平気だったとは思うがね。
『その通り。今のスキルはそなたが望んだモノだけを掘る力を有しておる。よってたとえ巻き込もうとも、二人には何事も起きなかったであろうな』
だろうな。そう予感はしていた。
俺が掘ろうとしていたのは仲間以外。
上の階層をも巻き込むかもしれないと察した上で、そう意識して奮ったのだ。
まぁ幸いにも上の階層には影響がなくて平気だったみたいだけど。
「ところで、背後のその子は?」
「あ、ええと、実は俺の荷物に紛れ込んでいたみたいで、ハハハ」
「ラングの愛人なぁのらぁ~♡」
「「エッ」」
「バ、バカッ、変な事言うんじゃねぇ! お、俺の姪っ子だよぉ! 遠路はるばる遊びにきたんだってぇ~!」
「な、なんだそうかぁ~、ビックリしたよぉ」
「うっふふ、可愛いお嬢さんね」
危ない危ない、俺が平気じゃなくなるところだった。
いくらなんでもこんな子どもみたいな娘に手を出したなんて噂が出たらヤバイ。
いや、手を出してないから誤解なんだけどもォ!
あ、いや、まずい! 引き抜く時に手を出していたんだったぁぁぁ!
うぅわああああああーーーーーーっ!!!!!
え、あれセーフだよね?
セーフって言ってよウーティリス! 黙らないでお願いだからぁ!
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